兄、大樹
「まぁ、大方予想通りだな。」
雪の話にも行人はさほど動じることなくあっさりと返す。
「ほう、驚かないか。」
「単純だろ。帰る方法があればアンタはもうとっくに帰りついている。違うか?」
「ふむ、半分あたりで半分外れ…だな。」
雪は行人と机で向かい合って話している。対人恐怖症な行人に合わせてか、はたまた面倒なだけかは分からないが、雪は視線を行人に集中させずに話を進める。
一方、佐奈とマリィはというと…
「あ、サナさん見てください!!魚が安いですよ!!」
「そうですね。あ、お味噌も安いですね。」
「お、嬢ちゃんたち可愛いね!!サービスしちゃおっかな!!」
「「ありがとうございます!!」」
雪と行人の会話についていくことを放棄し、市場に買い物に出てきていた。
「それにしても私、驚きましたよ。お二人がいじげんから来たなんて。」
マリィは少し大きめのバスケットを前にもってのほほんと話し始める。異次元という言葉の意義を良く把握してないせいかどことなくぎこちない雰囲気を醸し出している。
「私も急にあたりが光ったと思ったらあんなところに来てて驚きましたよ。」
佐奈も難しい会話に頭を悩ませるよりずっと楽なのかのほほんと返す。
「でも不思議ですね。なんでそんな事になってしまったんでしょう?」
「そうですねぇ…なんででしょう?」
二人は少し考え込み明るい顔で見つめ合う。
「まぁ、難しいことは兄さんたちに任せましょう!!」
「そうですね!!」
二人は考えることを放棄した。
「で、どうしてこんなことになったかはアンタ分かってるのか?」
行人は神妙な面持ちで雪に話しかける。白を基調とした教会において黒い着物の雪と制服の行人は異常なまでに目立っていた。
「一応は、な。まぁ、こんなとこで話すのもあれだ。外に出た方が分かりやすいし外で続きを話そうか。」
そう言って雪は大理石の椅子から腰を上げる。
「ん?ああ、わかった。」
行人も腰を上げて二人は教会の大きな扉を開けて外に出る。
「ふぅ、良い風だな。」
雪は大きく伸びをして息を吐く。
「で、さっきの話のつづき。いいか?」
「ああ、いいけど。」
雪は虚空を指さす。
「あそこに大樹があるの見えるか?」
雪がさしていたのは虚空ではなく終わりの見えないような大樹であった。
「ああ、見えるな。にしてもでかいな…」
行人が驚きの声を上げる。うっそうと生い茂った葉がとても鮮やかな大樹。全ての景色と調和しているその樹はRPGにでてくる世界樹を連想させるようなものだった。
「あの樹はこの次元の全てのエネルギーの源となっている、いうなれば世界樹だ。」
「また、王道RPGチックな感じだな。」
「そう思っておいていいかもしれないな。話を続けるが、世界樹のエネルギー、マナが最近ほとんどなくなってきてしまっているんだ。」
「どういうことだ?」
「世界樹自体は衰えないはずなんだがどうやら何かがマナを独占しようとしているみたいだ。」
「何となく話はつかめているが俺たちがこっちに来たのと関係あるのか?」
行人は少し考え込むように目を閉じる。
「関係あるのはここからだ。世界樹は自らの消滅を危惧したのか異次元より世界樹を救うためのコマを召喚した。」
「ってことは…」
雪が行人の方を振り返り自分と行人を指さす。
「俺とお前、そしてお前の妹。他にも多くのヤツがこの世界に召喚されているぞ。」
「そ、そうだったのか。なんかスケールのでかい話だな…」
「まぁな。今のところ『勇者』のピースは召喚されていない。そして、もう世界樹には召喚するほどの強大なマナは残っていない。」
「ってことはまさか…」
「ただいま兄さん。あれ?どうしたの?」
「神父様もどうされたんです?」
ちょうど良いのか悪いのか佐奈とマリィも帰ってきた。
「ああ、そのまさかだよ。」
「「?」」
雪は行人を指さし口を開く。
「勇者のピースは行人と佐奈、お前らだ。」
白い鳩の群れが一斉に教会の屋根から飛び立った。