兄、説明
白を基調とした調度品の並ぶ建物の一室で行人は目を覚ました。
目を開けると心配そうにのぞきこむ佐奈の姿があった。
「大丈夫ですか?兄さん。」
「ああ、問題ない。少し…人に中てられただけだ…」
佐奈の問いかけに行人は応えるが、人に中てられる…というのはなかなかないことだろう。そんな事を軽々とやってのけた行人は少し頭を押さえながら体を起こす。
「そういえばここはどこだ?」
行人は佐奈に問いかける。すると
「ここは村の教会。サーリア教会です。」
白い扉を開けてマリィが入ってくる。
「加減はどうですか?」
「ああ、悪くはないな。ところでここまで二人が運んでくれたのか?」
「運んだのは俺だ。」
マリィの背後に立っていた神父が言う。行人と同じくらいの背丈で黒い着物をまとった神父と呼ぶにはいささかおかしい風体の男。腰に長い刀がさしてある。
行人は先程人に中てられたのがまだ抜けきっていないのかビクッと固まってから問いかける。
「あ、アンタは?」
「俺か?俺の名前は雪。一応ここの教会で懺悔聞いたりしてる神父だよ。」
男、雪は軽く名乗って近くの椅子に腰掛ける。
「それはその…悪かった。」
「いいっていいって。それより一つ聞きたいことがあるんだ。」
「? なんですか?」
行人の代わりに佐奈が雪に問いかける。
「お前ら、どこから来た?この世界の人間じゃないだろ?」
少し声音を落として雪は二人に問う。
「え?どういうことですか?神父様。」
マリィは会話についていけないのか頭にいくつかの疑問符を浮かべている。
「な、何言ってるんですか。」
佐奈は誤魔化すようにそう言った。
「別に隠す意味はないだろ。」
行人が佐奈を手で制し雪を見つめる。
「ああ、確かに目が覚めたらあの草原にいたし俺等がいたとこにはスライムさんや魔法なんて概念は存在しなかった。マリィを騙すつもりはなかったんだ。ただ、気づいてないなら知らせなくてもいいと思ってな。」
「そ、それは別にいいんですが…」
マリィは納得してないのかずっと首をかしげている。
「そうか。まぁ、大方予想通りか。」
雪は興味なさげに呟く。すると今度は行人から口を開く。
「何で気づいた?」
「単純だよ。この世界に学校はない。身なりからしてお前ら高校生くらいだろ?」
「存在しないなら何でアンタがそんなこと知ってる?」
「これまた単純だ。俺もそこの高校の出身なんだよ。向こうにいりゃあ高三かな?」
雪はあっさりと答えた。そしてめんどくさそうに口を開く。
「つまり俺もお前らとおんなじでこの世界に生を受けた存在じゃあない。」
行人は額に手を当てて思考にはいる。
「さ、サナさん…神父様とイクトさんが何を話しているのかわかりますか?」
「いいえ、分からないです。ただ…」
「ただ?」
「ものすごく難しい話を二人でしているっていうのは分かります。」
「デスヨネー」
「それに…」
「それに?」
「何となく二人がものすごく知的に見えます。」
マリィと佐奈は完全に二人の会話のテンションについていけずにひそひそと話し始めていた。
「どういう現象が起きたらこんなことになるんだ?」
「単純に解り易く言えば次元移動。互いに本来干渉しあわない概念に飛ばされること。頭の回転が速いお前なら理解出来るだろ?」
「アウトラインはな。帰る方法はあるのか?」
雪は頭を掻き少し難しい表情をしながら答える。
「現状では…存在しないな。」