兄、到着
神聖かつ公平な競技、ジャンケンの末にマリィが薬を持っていくことになった。
村につくと佐奈は驚きの声を上げた。大きな広場に活気のある市場。おとぎ話でしか見たことのないような景観の良い村だ。
「兄さん、凄いですよ!!」
佐奈はあたりをくるくると見回し行人の方を振り返る。
「はいはい、はしゃぎ過ぎて転ぶなよ?」
「分かってますよ…きゃ…!」
ドンッ
佐奈が大柄な男とぶつかった。
「言わんこっちゃない…」
行人が軽くため息をつく。
「気ぃつけろ!!」
「す、すみません。」
「ああ?聞こえねぇんだよ!!」
大柄な男は目を見開き佐奈を睨む。
「ちょ、ちょっと!!サナさんはしっかり謝ったじゃないですか!!」
マリィが佐奈をかばうように割って入る。
「うるせぇ!!」
男は拳を振り上げマリィに殴りかかろうとする。マリィは恐怖に目を閉じた。
しかしいつまでたっても衝撃が来ないのを不思議に思い恐る恐る目を開けると。
行人がめんどくさそうに男の拳を受け止めていた。
「まったく、俺は対人恐怖症なんだって…それなのにこんなに人とからんでたら体力もたねぇよ…」
行人はため息をつきながらも男の手を放そうとしない。
「チッ、舐めてんじゃねぇぞクソガキ!!」
男はもう一方の拳で行人を殴ろうとするがその拳は行人ではない誰かに止められた。
「まったく、帰りが遅いと思ったら…こんなところで何やってんだよ、マリィ?」
黒い着流しに長い刀をまとった気だるそうな顔の青年が男の拳を受け止めながらマリィに話しかける。
「し、神父様!!」
神父と呼ばれた男はあくびをしてマリィの方を向く。
「何やらかしたか…はあとで聞くとして…」
「どうします?」
行人が面倒そうに神父に問いかける。
「さぁな?お前に任せるよ。」
「面倒なことはしない主義なんだ。」
「同感だ。」
行人と神父はそれぞれつかんでいた男の手を離す。
「ホラ、もう行け。力の差ぐらいわかっただろ。」
神父が声音を変えて男に向かって言い放つ。
「チッ、覚えてろよ!!」
男は逃げるように走り去って行った。その瞬間外野の人々が歓声を上げて行人と神父をとり囲む。
「ありがとうございます。神父様!!」
「ん?俺なんかやったか?」
「神父様、うちのパンもってっておくれ!!」
「お、そいつは嬉しいな。」
神父は村人の感謝の声に応える。
「神父様!!」
マリィが駆け寄ってくる。
「どうしたんだよ?お前がああいうのに絡まれることなんて滅多にないだろ?」
「はい、すいません。」
「いや、謝らなくてもいいさ。」
「私のせいです。すいませんでした。」
佐奈も神父のもとによって生き深々と頭を下げる。
「別にいいって。細かいことは気にすんな。」
神父はバツが悪そうな顔をしながら答える。
「そういえば、見ない顔だな?」
神父は話を切り替える様に佐奈に問う。
「この御二方は書物に合った伝説の勇者ですよ!!」
マリィが興奮気味に語る。神父はいぶかしげな表情でマリィに問いかける。
「二人って…もう一人はどこだ?」
「え?何言ってるんですか神父様。ほらここに…って、アレ?イクトさんは?」
「そういえば兄さんの姿が見えませんね。」
三人があたりを見回して声を上げる。
「「「あ」」」
三人の視線の先には…
見ず知らずの大勢の人に囲まれたことによる極度の緊張のせいで意識を失ったと思われる行人の姿だった。