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兄、決着

 行人の指さす先には険しい表情のスライムが三人を見つめていた。

「あのスライムさんの表情はやはり怒っているのではないだろうか?いや、確実に怒っているだろう。」

「そうですね…怒り狂っているように見えなくも…ないですね。」

 行人と佐奈はスライムを凝視したまま会話をする。

「まずいですね…スライムは怒るとより好戦的になります…」

 ふたりの後ろでマリィがそんな事を言う。

「さて、改めて問うが…逃げるか?」

「そうですね、そうしましょう。」

「それがベストですね。」

 三人の意見は見事に一致していた。

「じゃあ、せーので一気に走るぞ。」

 行人の提案にふたりは頷き少しずつスライムから遠ざかっていく。スライムから目をそらさないように。




「せーのっ!!」

 行人の合図で三人が一気に振り返り全員で走り出す。するとスライムそ追いかける様に距離を詰めてくる。

「だから、反則だろあの速さ!?」

「まままままずいですよ兄さん!!距離が少しずつ迫ってきてます!!」

「スライムってあんなに速い生き物なんですか!?」

「スライムじゃない、スライムさんだ!!」

「あ、そうだ!!マリィさん、さっきの魔法をもう一度使ってください!!」

「むむむむむりですよぉ~!!私は回復術を主に学んできていて攻撃魔法は一日一回程度しか使えないんです~!!」

「じゃあ、最初の時点でしっかり倒し切ってくださいよ!!」

「あ、アレでも全力でやったんですよぉ~!!」

「アンタも、村人クラスってことか。」

「むむむむ村人は始まりの村から出ちゃいけないっていう暗黙の了解を忘れてしまったんですか!?」

「村人じゃないです!!シスターですぅ~!!そ、それに始まりの村ってどこですか!?」

 佐奈とマリィがやんややんやと叫びながら三人は走り続ける。

「あわわわわ!!兄さん!!距離がもうあまりありません!!」

「いいいいいいイクトさん!!」

 行人はやけに冷静な声で二人に話しかける。

「落ち着け二人とも。それと、マリィと言ったか…スライムさんは分断しても生きていられるのか?」

「い、いえ…心臓はひとつですので分断すれば生きることはできません。」

「そうか…それは好都合だ。」

 行人はマリィの応えに満足そうにうなずいた。しかしすぐさま頭を抱えて

「いや、待て…出来るのか?俺に…無理だ…やっぱり無理だ…!」

「?どうしたんです?兄さん。」

 不安そうに行人を見つめる佐奈。息も上がっていて体力的に限界が近そうであるがそれでもなお気丈に振る舞い行人を気遣っている。

「チッ…やるしか…ないよな…!!」

 そして後ろを振り返りスライムと対峙する。

「兄さん!?」

「イクトさん!?」

 行人は鞄をおもむろに漁り両手にあるものを持つ。

「ま、まさか…兄さん…」

 行人は二人に背を向けたまま不敵に笑う。




「どうしてもやらなくちゃならない時が俺にだってあるんだ、申し訳ないがスライムさん…経験値を稼がせてもらうよ。」




「し、正気ですか兄さん!?相手はあの…あのスライムさんなんですよ!?」

「そ、そうですよイクトさん!!村の腕自慢たちも誰ひとりとして倒すことの出来なかったスライムさんなんですよ!?」

 ふたりの反論を耳に行人は文房具最強の呼び声の高い、凶器として使用されることもある二枚刃と一枚刃の文房具。鋏とカッターをそれぞれ逆手に持った。

「それはそうだ。あんな生易しい方法じゃスライムさんには傷一つつけられないだろう。」

 行人は二人に話し始める。

「さっき佐奈が投げたコンパス。角度78度、速度は50~60km/hと言ったところか。当たり所も悪くなかった。だがスライムさんにはじかれた。何故だと思う?」

 佐奈とマリィは首をかしげる。

「理由は簡単。投擲だったからだ。」

「ど、どういうことですか?」

 佐奈は理解できない様子で行人に問いかける。

「要は押し切る力が足りなかったんだ。衝撃を吸収してしまえば投擲は力を一切持たない凶器だ。おそらくスライムさんにダメージをすべて吸収緩和されてしまったのだろう。」

「そ、そんな…」

 佐奈が驚きの声を漏らすなか今度はマリィが疑問を上げる。

「じゃあ、村の人たちはなぜ倒せなかったんですか?ちゃんと剣を持っていたのに…それに私の魔法だってそこそこ威力はあるはずなんですよ?」

「二刀で挑んだやつはいたか?」

「え?」

「さっきも言った通りスライムさんには衝撃を緩和吸収する能力がある。しかしそれだけでコンパスのダメージを完全になくすことは出来ない。ということはどういうことか?」

 行人が問い返すと佐奈が口を開く。

「回復…しているんですか?」

「正解。おそらく少しの傷はコンパスで出来たのだろう。でもそれをすぐに塞いでしまえる高い回復能力。その証拠にマリィの放った魔法の痕ももうのこっていないだろう?それが村人たちが倒せなかった理由。剣一本ではスライムさんの回復に追いつけなかったんだろう。次にさっきの魔法だが…」

 行人は名探偵顔負けの推理を展開していく。先程までがウソのような凛々しい姿。

「あの魔法、属性は?」

「え、えっと光の刃に雷撃を合わせた雷系統の魔術です。」




「じゃあ、答えは単純明快。多分スライムさんは絶縁体に近いのだろう。」

 絶縁体。単純に説明すると電気を通さない物質。




 行人は証明終わりとでも言わんばかりに手を広げた。佐奈とマリィはぽかんと口をあけることしかできなかった。




「そして倒し方だが…回復させないようにまず鋏を突き刺す。そしてすぐさまカッターで傷口周辺から一気に切り裂く。俺の理論が正しければそれで倒せる。」

 行人は自信満々に話す。




「倒せなかったら…?」

 佐奈は恐る恐る問いかける。

「逃げ続けた時と結果は同じ。ゲームオーバーだ。大丈夫、俺を誰だと思ってるんだ?」

 そう言って行人はスライムのもとに駆け込む。自分の理論に絶対の自信があるのか一片の迷いも見せずに胴体に鋏を刺し込む。

「ピッ…ピギッ…!!」

 スライムの表情が歪む。



「すまない、お前のことを…お前の死を…俺は一生忘れない…!!」




 行人はそう言ってスライムの体をカッターで切り裂いた。

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