兄、気付
「お見事です。」
「あんたのおかげだよ。」
行人と叶は拳を軽くぶつける。
「そういえば、跡形も無く消えたって事はあの熊普通の熊じゃなかったのか?」
「多分魔獣ですね。元々大型だった熊を魔法で増強して操作することでモンスターに仕立て上げたのだとおもいます。」
「ということはほぼ意図的に俺達を狙ったと?」
「そうですね。たぶん三大国のどこかが実行したのかと思います。」
三大国とはリミドア、アペンド、グロリアの三つの国の事をさしている。しかし何故行人たちは狙われたのだろうか。行人も疑問に思ったのか叶に問い掛ける。
「でもどうして狙われたのか…」
「それは流石に私にも…行人さん達が最後の、勇者の駒だと知っているのは行人さん、妹さん、シスターさん、神父さん、武器屋さんと私だけですよね?」
「そうなるな。誰か口外しているとは思えないし謎だな。」
「行人さん、あんまり不確定事項で悩んでいても何も事態は好転しませんよ。」
叶は切り替えるようにふんわりとした笑顔で行人に話しかける。
「そうだな。それじゃあ行くか。」
「はい。」
行人と叶は足を進めはじめた。
「それで、まだお話していませんでしたよね?」
「何をだ?」
樹海を進む途中叶が不意に口を開いた。
「私が貴方についてきた理由です。」
「ああ、そういやそうだったな。だが、いまさら説明が必要なのか?何はともあれあんたは俺について来てくれる。違うか?」
「間違ってはいないのですがやっぱり行人さんの今後のことに大きく関わってくる事なので一応お話しておこうかと。」
「俺の今後?」
行人は首を傾げる。叶は落ち着いた口調で口を開く。
「名前で薄々気がついているかとおもいますが私もピースの一つです。私もとある世界より飛ばされて来ました。役割はナイト。勇者を守る騎士です。もうお分かりですよね?」
「まぁ、何となくは理解したがそれにしてもあんたが騎士?」
行人は外見からは余り想像しにくい役割を持つ小柄な少女を見る。
「あ、あの…なにか失礼な事考えていませんか?」
小さな騎士はジト目で行人を睨む。
「いんや、別に。」
行人は少し笑いを堪えつつ返す。
「や、やっぱり変な事考えてますっ!わ、私はもう16ですし好きな人だって…」
そこまで言うと小さな騎士はみるみる赤くなって俯く。そして消え入るような声で言う。
「あ、あの…いまのは忘れてください…」
「いや、別に恥ずかしがることないんじゃないのか?」
「あぅぅっ…」
叶はしゅるしゅると小さくなっていく。
「で、聞いても良いのか?」
「こ、口外しないと約束してくれるのなら…」
「ああ、約束しよう。俺は口が堅いんだ。」
行人は胸を張って答える。そもそも教えてくれるなら聞きたい程度のスタンスでいる行人は人の秘密や約束を守る性格だ。
「私のいた世界に…異次元からの来訪者の方がいました。その人の事好き…なんです。」
「あんたの世界にも?」
「はい、私のいた世界ではこの世界よりも発展した魔術を持っていて私はそこで新撰組という魔法犯罪を取り締まる警察として過ごしていたんです。異次元からきたその人は遊撃隊の隊長でした。」
叶はぽつぽつと話しはじめる。こことも行人のいた世界とも異なる世界での叶のことや想いを伝えきれぬままもとの世界へと戻った男と半年ほど前から連絡がぱったりと途絶えたこと。そして消息を捜していた時にこの世界に飛ばされて来たこと。
そして叶の表情に行人は一つの疑問を覚えた。
(どっかで見たことあるような…)
行人は叶を以前どこかで見たような気がしてならなかった。
(どこだ…?どこで見かけた。)
行人は記憶の糸を手繰り寄せる。
(写真…か?)
行人は一つの可能性を見つけだした。写真、どこかで写真で彼女を見たのではないか。写真だから余り深く覚えてはいないのではないかと。
(じゃあどこだ?)
行人がさらに思案を巡らせていると…
「行人さん、どうかなさいましたか?」
「なぁ、あんた写真とか、持ってないか?」
「写真…ですか?一応持っていますけど…見ますか?」
そういって叶は小さなポーチから枠に入っている写真を行人に渡す。
「ビンゴ…」
叶の示した写真はみんな揉みくちゃになりながらも笑顔を浮かべている写真。その中心には少し恥ずかしそうに俯きつつも笑顔を浮かべる叶と…
集団の中心で楽しそうにポーズをとる哉雅雪…神父の姿があった。