兄、理解
「あ、あの…大丈夫ですか?」
そういって少女はおずおずと行人がぶつけた部分を撫でる。
ビクッ
「あ、ごめんなさい!痛かったですか?」
「いや、痛いわけではないんだが…少し距離が近い。」
少女は数秒ぽかんとした後慌てたように顔を赤くし行人から離れる。
「ご、ごめんなさいっ…」
「すまない。女性は、特に苦手なんだ。」
行人は少女から目を逸らすように行った。
「そ、そうだったんですか。それはすみませんでした。余計なお世話でしたよね…」
「いや、気持ちはうれしかったんだ。ありがとう。」
少女と行人はお互いに会話を失いしばしの間静寂が辺りを包んだ。
「俺は大川行人。あんた…名前は?」
「私ですか?私は松原叶と申します。歳は今年で16になります。よろしくお願いします。それでは、大川さんとお呼びしてもよろしいですか?」
少女、松原叶はぺこりと頭を下げた。
「いや、行人でいいよ。俺も叶さんと呼ばせてもらうから。」
「はい、分かりました。それで行人さんは何故この樹海に?」
「ああ、ちょっと鉱山に用があってな。」
「鉱山、ですか?」
「そう。かい摘まんで説明するとだな…」
行人はいままであったことを説明する。妹の佐奈と一緒にこの世界に飛ばされてきた事、いきなりスライムと戦ったこと、教会の神父に自分達が世界の救世主にあたる勇者であると言われたこと、そして武器を作るためにこの樹海に足を運び佐奈達とはぐれてしまったこと。行人の話を叶は終始しっかりと聞いていた。そのせいか行人もいつも以上に饒舌になっていた。
「とまぁそういった感じでここでうたた寝をしてたわけだ。」
一通り話し終わった行人に叶は優しく微笑みかける。
「行人さん。女性、苦手なんじゃありませんでしたか?」
「あっ…」
「相当大変だったんでしょうね。昔私の知り合いの方が言っていたのですが、特に人を恐れているタイプの人は自分の中に辛いものを全部溜め込む悪い癖があるって。そういう人が何かを吐き出すときは本当に精神がギリギリになっているときだって。」
「ほう、そういうものなのか…」
「みたいです。」
叶はくすりと笑う。
「それでその人はこうも。もしそういった人がいたら信じてあげろと…そうすれば相手もこっちの事を信じ苦手意識も減ってくると。」
そう言って叶は行人の手を取りしっかりと握る。
「私は貴方と会って間もないですがせっかく出会ったのですから貴方と親しくなりたいと思っています。行人さんはまだ私の事を恐れているかも知れません。それでもいつか行人さんが私に心を許して仲良くなれるといつまででも信じています。だから、少しずつでも私の事を信じてみてくれませんか?」
行人は叶の真っすぐな瞳から視線を反らさずに叶の言葉を受け止めて一呼吸置き口を開く。
「あんたがいつまでも信じてくれるのであれば…それに答えなくちゃな。それに手をずっと握られて話されたらあんたって人が少しずつわかってきたし恐怖心はほとんど残ってないよ。」
叶は行人の言葉に満足そうに微笑み慌てて握っていた手を離す。
「ご、ごめんなさい!手、ずっと握ったままでしたね。」
「いや、別に構わないぞ。」
「そうですか。それじゃあここにいては日も暮れてしまうかもしれないのでそろそろ行きましょう。」
「行くってどこに?」
「決まっているじゃありませんか、妹さん達を捜しにです。」
「そうだな。しかしあんたはどうしてついて来てくれるんだ?」
「それについても説明したいところなんですが…」
叶は臨戦体勢に入り目の前に照準をあわせる。そして行人に告げる。
「まず目の前のソレを何とかしないといけないですね。」