兄、挑戦
「「「…」」」
行人の軽い調子に佐奈、マリィ、舞が固まる中…
「分かりました。それではお願いしてもいいですか?」
紅が行人をまっすぐに見据えて問いかける。
「まかせておけ。」
行人は珍しく視線を紅に合わせて力強く言い放つ。
「ちょ、紅本気!?」
舞はあわてた様子で紅に聞き返す。
「本気だよ、どちらにせよここで行人さんに止められるのであればそれ以上のことはないし。」
「でも兄さんが怪我なんかしたら…」
「その点に関してですが私たちの方で補助をさせていただくので攻撃に関しては防げるかと。」
「そうなんですか…」
口ではそういってもやはり佐奈は不安をぬぐいきれないようである。
「行人さん、私の力で貴方をお守りできるのはせいぜいマスターの攻撃一回分です。二回目以降は手が打てないと思っておいてください。それでもいいですか?」
「こちとらなんもなしに突っ込もうとしてたんだ。一回きっちり守ってくれるならそれだけで十分だ。」
ちなみにこの間紅はずっと行人をまっすぐに見据えているが既に行人は視線をそらしている。
「わかりました。それじゃあ舞ちゃん、お手伝いしてくれる?」
「任せとけ!あんちゃん、生きて帰ってくるんだぞ!!」
「不吉な事言うなよ…」
行人は舞の言葉に苦笑を浮かべながら返す。
「兄さん、大丈夫ですよね?」
「ああ、大丈夫だ。」
次に不安そうな佐奈の頭を軽くなでる。
「け、怪我しないでくださいね。」
「ヤバかったら逃げるから安心しろ。」
そしてマリィの言葉に軽く返しながら再び紅の方を向いた。
「貴方に押しつけるようになってしまって申し訳ありません。」
「気にするなよ。それに止めるのもダチの役目、だろ?」
「クスッ、そう言っていただけると幾分か救われます。」
「なら良かった。」
「御武運を。」
「おう。」
そう言って行人はぶち破られて何もないドアから店の外へと踏み出した。
店の外に出るとどす黒いオーラがより強く感じられるようになり行人は軽く身震いする。
「まずいな…気に中てられそうだ…気合入れ直すか。」
そう呟いた行人は遼の手で自分の頬を思いっきり叩いた。
「つーっ…!」
思い切り叩きすぎたようだ。
「力加減ミスった…でもその分気合入ったな。」
行人は真剣な面持ちで未来の方へと歩を進める。
「脚が折れててもまだ逃げようとするその根性、見上げたもんだなァ。フォスターさんよォ!!」
ガッ
「ギャァァァァァァァァ!!」
「最早性質の悪いいじめじゃないか?コレ…」
行人は哀れみの瞳でフォスターを見る。
「ほらほら、もっといい声で啼けよ…」
「ひいぃっ…!!」
未来の言葉にフォスターは声にもならない悲鳴を上げる。
「ヤバいな…早めに止めないとあのおっさん死ぬぞ…」
そう呟き行人は駆けるようにして距離を詰め始める。
「で、そろそろ飽きてきたけど謝る気になったか?」
「あ、あぁぁ…」
フォスターはもう言語を発することすら困難になっているようである。
「そうかい、んじゃ…」
未来は満面の笑みを浮かべて悪夢のような言葉を紡いだ。
「死ねっ!!」
バキイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!
「!?」
未来が驚きの声をあげたその先には…
「間にあったな。おっさんちびってないよな?」
未来の蹴りを片手で抑えもう片方の手で未来の頭をしっかりとなでている行人の姿だった。