兄、見抜
行人はメイド×3に迎えられただただ茫然としていた。
「やっぱりメイド喫茶と間違ったようだ。すまない、出直してくる。」
「ちょ、ちょっと待って下さいよ!!哉雅君から連絡があった行人さんですよね?」
その場を立ち去ろうとした行人をマスターと呼ばれていた最も小さなメイドが引き止める。
「哉雅?誰だよそれ。」
聞き覚えのない名前に行人は聞き返す。
「はい。哉雅雪君、教会の神父様です。」
「ああ、あいつか。」
行人は足を止め振り返る。
「こ、こんな恰好で申し訳ないですけど…改めまして武具工房『eine waffe』にようこそいらっしゃいませ。」
恭しく礼をする小さなメイド。顔を良く見ると小動物のような愛らしい顔立ちと肩までかかる栗色の髪が綺麗に光っている。
「あの…つかぬ事をお伺いしますがあと二人いらっしゃると哉雅君から伺っているのですが…」
「ああ、ここを探しに情報収集へ行っちまったよ。」
「そうでしたか…」
「あと、その敬語。やめにしてくれないか?」
「ふぇ?」
「あんたの方が年上だろ?」
行人がそう返すとメイドは少し驚いた後おもしろいものを見つけたかのように口を開く。
「判断の根拠は?」
「神父から聞いてなかったか?俺は人が嫌いなんだよ。嫌い過ぎて雰囲気とかを敏感に感じ取っちまう。それだけだ。それにあいつとはそこそこ長い付き合いみたいだしな。」
「ほう、良い目をしてるね…」
メイドは敬語をやめ行人に興味深々な目でみる。
「ちなみに、気付いたことが一つ、気になったことが一つあるんだが聞くか?」
行人はメイドから視線をそらしながら言う。
「是非お願いしようかな。」
メイドは好戦的な瞳で行人に返す。
「まず気付いたことだが…」
そう言って行人は小さなメイドの少し後ろに立つ二人のメイドを少し見てから口を開く。
「そこの後ろの二人、『真人間』じゃないよな?」
「「!?」」
メイド二人が驚きを浮かべるなか小さいメイドが変わらない調子で口を開く。
「すごい、凄いよ行人くん。紅ちゃんと舞ちゃんの異能に気付くなんて。」
「なんか普通の人間とは違う…なんというか、回路みたいなのを感じるんだ。」
「ほぇ…行人くん、もしかしたら魔術とかの才能あるかもよ?」
今の行人の発言に流石の小さいメイドも驚きの声を漏らす。
「まさか見抜かれるなんてね…」
快活なメイドがやっとの思いで口を開く。
「ま、お前らが人間じゃなかろうがなんだろうが俺には関係ない。苦手なもんは苦手だからな。」
「あはは…そこまで苦手なの?さっきから目も合わせてくれないけど…」
「無論だな。こっちに来てからずっとわけのわからんことばかりで人と話すことには少しずつ慣れてきてはいるが目だけは合わせわせる気が起きてこない。」
メイドの質問に行人は堂々と答える。
「うーん…そっか…それで?気になったことって?」
小さなメイドが行人に続きを促す。
「ああ、それか…」
行人は一拍置いて口を開く。
「あんた、何でそんな恰好なんだ?」
「ほぇ?」
「いや、あんた何でメイドの恰好してるんだ?」
「え?何でと言われましても…」
「いや、何で男のあんたがそんな恰好をしてるのかなって…」
「あ、これはその…ここ最近雨がずっと続いててたまってたお洗濯を洗っていたら着ていない洋服まで洗ってしまいまして…だからしょうがなくこの服を…って、ほぇ?」
「どうした?」
「あの…今なんて?」
「どうした?」
「いや、もうちょっと前…」
「あんた何でメイドの恰好してるんだ?」
「た、多分もうちょっと後?」
「何で男のあんたが…」
「そこっ!!」
「お、おぅ…」
「も、もう一回言って?」
「え、あぁ…何で男のあんたが…」
「うぅぅぅっ…」
「え、おい…」
「ありがとうっ!!」
ガバッ
「うわっ!?」
メイドは目に涙を浮かべながら行人に抱きつく。その反動でメイドが行人の上にかぶさるようにして倒れこむ。
「何だよいきなり…」
「「失礼します。」」
行人が押し倒された直後に店の扉が開き佐奈とマリィが中にはいってきた。
「「「…」」」
その場で全員がフリーズした。