兄、出発
翌朝行人たちは朝食を終えるとすぐに出発する準備を始めた。
「神父様、おやつはいくらまでですか?」
「これは遠足じゃない。」
「飲み物はお茶がちょっとでも入っていればいいですか?」
「だから遠足じゃねぇって…」
「「バナナはおやつにはいりますか?それとも食後のデザートですか?」」
「はぁ…」
約2名遠足気分である。
そんな二人に雪はただただ深くため息をつくだけしかしない。
「どうした?やけに疲れてるみたいだな。」
一人先に準備を終えた行人が雪に話しかける。
「あの遠足気分のバカ共をどうにかしてくれ…頭が痛い…」
「あぁ、ご苦労さん。」
行人の労いの言葉に雪は弱々しく片手を上げる。よほどこたえているようでどことなく顔色も芳しくない。
「そういえば道はマリィが知ってるんだよな?」
「ああ。ガレットの方にはすでに連絡は飛ばしたから大丈夫だと思うが一応神父の紹介だと言ってくれ。そうすりゃ快く迎えてくれるはずだからな。」
「そうか。んで、武器作った後はどうすればいいんだ?引き籠ればいいのか?」
「引き籠るなよ。まぁ、その先のことは向こうの奴らが教えてくれるだろうしまぁ気にすんな。ちなみに何があっても引き籠らせないからな?」
「フッ…何が何でも引き籠ってやるさ…」
二人の間にかすかながらも火花が飛び散った。
「まぁ、それはさておき…」
そう言って雪は後ろを振りかえる。
「サナさん楽しみですね!!」
「ええ、そうですね。」
「アレはどうしたらいい?」
「諦めた方がいいんじゃないか?」
佐奈とマリィは楽しそうに準備を続けている。
「「はぁ…」」
雪と行人はため息をついた。
10分後…
「準備終わりましたよ、神父様。」
「お待たせしました。」
準備の出来あがった佐奈とマリィは意気揚々と雪と行人に話しかける。
「そうか、とりあえずこれでやっと出発できるな…」
行人は待ちくたびれたのかあくびを噛み殺しながら言う。
「短い間だったが世話になったな。」
「んだよ、別に今生の別れじゃないんだ。またいつでも来いよ。」
「まぁ、そうだな。」
行人と雪は軽く挨拶を交わす。
「んじゃ、マリィ。二人の案内しっかり頼むぞ。大事な勇者を死なせたりなんてするんじゃないぞ。」
「はい!!頑張ります!!」
「さぁ、おしゃべりはここまでだ。最後に神父らしいことでもやっておくかな…」
そう言って雪はすぅっと息を吸い込み瞳を閉じる。
『天と地を創りし大樹の御霊よ、その恵みにより生を受けし者達に今一度ご加護を与えたまえ。そして彼らの旅路を大樹より見守りたまえ。』
「貴殿らの旅路に幸多からんことを…」
そう言葉を結び雪は顔を上げる。
「さぁ、行って来い。スライムが来たら逃げるんだぞ。」
そう、笑いながら三人に話しかける。
「ああ、行ってくる。」
「行ってきます。」
「神父様もお元気で。」
行人、佐奈、マリィの三人は雪に見送られながら村を後にした。