兄、安息
「よし、そんじゃ決まりだな。」
行人の半ば投げやりな解答に雪は満足そうに頷く。
「はぁ…」
行人は大きく溜息を漏らす。そして顔を上げて真剣な面持ちで雪に問いかける。
「で、具体的に俺達は何をすれば良い?」
「そうだな。まずは武器が必要だろ?」
「まぁそうだな。でもどうするんだ?俺達文房具や包丁程度の凶器しか持ったことないぞ。」
「安心しろ。知り合いにいい武器職人がいるんだ。お前達に見合った武器を作ってくれるだろうよ。」
雪は大きく伸びをしながら答える。
「で、その人はどこにいらっしゃるんですか?」
「ん?ああ、この村を出て少し街道を進んだところにガレットという村がある。そこにいる未来って奴に会え。」
「そういえばあんたはついて来ないのか?」
行人は至極当然の疑問を雪に投げ掛ける。
「残念ながらな。」
おおっぴらに手を広げ雪は演技がかった口調で言う。
「あんた残念がってないだろ。」
「まぁな。でもいけないのは本当だ。俺はこの村の結界を護り続けなくちゃならないんでな。」
雪は気怠そうに首を鳴らす。
「結界?」
「ああ、説明してなかったな。さっきの…フォスター大師団長殿が言ってたろ?なんかがあって採掘地に入れないって。」
「ええ、確かに言っていましたね。」
「ソレ、俺が張ってる結界なんだよ。」
「「へ?」」
佐奈とマリィは揃って首を傾げる。
「帝国軍が勝手に入り込んでマナを奪い尽くさないようにあそこの採掘地を護ってるんだよ。」
「でもそれがなんで一緒に行かない理由になるんですか?」
マリィは首を傾げながら雪に尋ねる。
「この教会が結界の媒介になっているって言えばお前はわかるだろ?」
「あ…」
マリィは口を手で覆う。
「どういうことだ?」
行人は疑問が残っているようで雪に尋ねる。
「それは私が説明します。結界を張るためには強い魔力と魔力の宿った媒介が必要になるんです。そして術者は媒介から極端に離れてはいけないんです。」
「つまりガレットまで行くのも厳しいんだ。俺は結界張るのが下手だからな。」
雪はそういって嘲笑する。
「そうか…」
それから行人達は先程の部屋に案内された。
「俺は飯作っから。まぁ、好きにしてろよ。」
そう言って雪は部屋をあとにした。
「あいつ料理できるのか?」
行人はのんびりとお茶を啜っているマリィに問い掛ける。
「残念ながら私より凄い上手いです。」
「それはマリィさんが苦手なだけってオチはないですよね?」
「む、サナさん。私の事、馬鹿にしていませんか?」
マリィは頬を膨らませ抗議する。
「や、そういうわけでは…」
マリィと佐奈は雑談を始める。そんな中行人は一つの写真を見つける。
「これは…」
写真の中身は集合写真の様だった。揉みくちゃになりながらもみんな笑顔の写真。その中心にいたのは…
「懐かしい写真だな。」
「いつのだ?」
「2年前かな。ま、そんな話はおいといて飯出来たぜ。」
雪は行人の持っていた写真立てを伏せるようにおく
「じゃあ、行きましょうか。」
四人はそれぞれ部屋から出る。
「お、美味しい…」
「当然だな。簡単な料理はできなきゃ生きていけないからな。」
「なんかやたらと家庭的な味だな。」
「なんだ?高級感漂う方が良かったか?」
雪は行人の感想に少し拗ねた様に返す。
「いや、このくらいがいい。」
「そうかい。」
そしてしばらくにぎやかな晩餐が続いた。
「んで、さっきの続きなんだが…」
雪が唐突に口を開く。
「出発は早いに越したことはない。明日にでも村を発つのが良いだろう。」
「偉く急な話じゃないか?」
「もうマナの残りにも余裕がないからな。」
雪と行人は低い口調で話を続ける。
食事後は各人部屋に行きそれぞれ眠りに落ちた。