おばあちゃん石のともだち
マキオの地元にはマキオが産まれる前からずっと、『おばあちゃん石』と呼ばれている岩があった。小学校とマキオの家の間くらいに小さな公園があり、その公園には池があり、その池にぴったりくっつくようにしておばあちゃん石はあった。
なんでおばあちゃん石と呼ばれているかというと、その石はいびつな円錐形で、公園の入り口あたりから見ると、腰の曲がったおばあちゃんが池を覗き込んでいるように見えるからである。
小学校に一番近いのがその公園なのだが、利用者はほぼ居ない。その公園はとても古くて狭くて、また遊具といえば、高さが九十センチくらいしかないサビサビの滑り台と、腐りかけたタイヤが半分埋まっているだけのタイヤ遊具、あと件の池とおばあちゃん石くらいなものなのだった。小学校の子どもたちはもっぱら、倍は時間がかかるが、こちらとは反対側にある新興住宅地の中の大きな市営公園で遊んでいた。
二年生になってからよく、おばあちゃん石の公園に行くようになった。みんなは嫌煙しているが、マキオはこの公園が好きだった。日中に日の光をたっぷり吸った滑り台はてっぺんに座るとお尻からぽかぽかしてきて気持ちがいいし、タイヤ遊具の並び幅も絶妙で上を飛んでも間を縫って飛んでも楽しいし、池にはいつもいろんな生き物がうごめいていていくら覗き込んでも飽きない。それに、おばあちゃん石に背を預けて座ると、本当におばあちゃんの傍にいるみたいに安心するのだった。マキオはおばあちゃん子だった。
マキオは無口な性格で、引っ込み思案で、友達を作るのが苦手だった。それを自覚したのは地元の小学校の二年生に進級した時のことだ。一年の時は保育園から一緒の顔見知りが何人か同じクラスに居たので、二時間目と三時間目の間の長休みなどは彼らと共にドッチボールなどに興じていたが、二年生になると、クラスに同じ保育園だった子が一人もいなかった。体育館でバスケをやるというクラスメイトたちに、マキオはどう声をかけていいのかわからず、最初の長休みは結局、黒板をぼうっと眺めて過ごした。そこで、今まではその、保育園からの顔見知りたちがなんとなく声をかけてくれて、それで一緒に過ごしていただけなのだと気付いた。マキオはこういう時自分から、どう輪に入って行ったらいいのかわからなかった。
マキオはいつの頃からか、人に声をかけるという行為が異様に怖かった。自分が声をかけることによって、その人はこちらを向く。マキオを意識する。どんな感情で、どんな反応をするのか、それらすべてをマキオは、自分の責任で受け止めなければならない。それが怖かった。
それじゃなくてもマキオはクラスで浮いていた。思えば一年生の時から浮いていた。マキオは傷だらけだった。顔にばんそうこうが貼ってあるのは常だった。時々大きなケガをして、朝保健室で包帯を巻いてもらってから授業を受ける時もある。保育園の頃の顔見知りらはそれがマキオの通常運転なので気にしていないようだったが、小学校からの顔見知りというのは、そんなマキオを不気味がった。
その日は夏休み前、最後の登校日だった。終業式が済んで、昼前には小学校を出た。他のクラスに散り散りになった同じ保育園の顔見知りたちが、それぞれの友人らと帰っていくのを眺めながら、とぼとぼと公園に向かった。こんなに早く帰されても困る。マキオは友達がいなかった。図書室で宿題をやって帰ろうかとも思ったのだが、いつもは静かな図書室は、夏休みの課題図書を借りに来た人たちで大賑わいで、とても入れなかった。
公園はいつも通り誰も居なかった。ランドセルを下ろし、おばあちゃん石に背を預けて、マキオはゆっくりと目を閉じた。夏の日差しが身体中にさんさんと降り注ぐ。このまま蒸発してしまいたかった。
「熱中症になるよ」
どのくらい時間が経っただろう。不意に顔に影が差して、そう、声を掛けられた。目を開ける。男の子がいた。知らない子だった。色白で、ぶかぶかの野球帽を被っていた。
「汗がすごいよ。水は?」
「……持ってない」
「これ飲んでいいよ。口つけてないから」
差し出されたペットボトルを素直に受け取る。キャップを外そうとしたが力が入らない。見かねた少年が代わりに外してくれた。ほとんどペットボトルを垂直にするようにしてゴクゴクと飲んだ。一気に半分なくなって、口を放したら透明のげっぷが出た。
「死んでるかと思った」
「……」
「顔が真っ赤だよ。寝てたの?」
「……座ってただけ」
「そう」
ペットボトルを後ろに戻した。少年は、やたらと大きなバックパックを背負っていた。じっと見たら、少年はマキオの顔を見て、にまっと笑うと野球帽のつばをくいっと下げた。
「お父さんの。勝手に持ってきた」
「……ハハ」
「ゲームあるよ。やる?」
「……やる」
それから公園の隅っこの木陰で、彼が持ってきたゲーム機の充電が切れるまでゲームをやった。気付いたら日が暮れていた。この公園で誰かと過ごすのは初めてのことだった。
その少年は「ユウキ」という名前らしい。三回目に会った時に唐突に名前を聞かれ、その時に勝手に名乗ってきた。
ユウキは、賢い男だった。マキオとそう年は変わらないはずだが、マキオの知らないようなことをたくさん知っていた。去年まるまる病院で過ごしていて、その時に小説や図鑑をたくさん読んでいたんだって。入院してたんだったら、身体が弱いんじゃないかな、と思ったけれど、本人が平気そうなのにわざわざそんな心配するの、うっとうしいかなと思って黙っていた。
ユウキは色白で、マキオよりも十センチくらい背が低かった。目が大きい、というか眼球が人より前に出てる感じで、しかも少し離れた位置にあるので、彼の顔は池にいるメダカに似ていた。手足はゴボウのように細く、ゲームを操作している時に目に入る爪はとうもろこしの粒のように小さかった。見た目は全体的に、マキオより子どもみたいだった。
夏休み、昼前に公園に行く。うたたねをしているとユウキが来て、水をくれる。初日から三日目くらいまでは公園でやっていたのだが、さすがに暑くて耐え切れず、四日目からは公園の近くの、地区公民館の駐車場に移動した。今はもう使われていなくて廃墟になっているが、さすがに中には入れなかった。一番偉い人が止める用にガレージになっているところがあって、林に隣接しており、その場所だけは結構涼しかった。
そこで日が暮れるまでゲームをして、充電が切れたら帰る。主にレースゲームをやった。ユウキはそのゲームを結構やり込んでいてとても上手かったのでいつも勝負にならなかった。……彼が上手いというだけでなく、ユウキには内緒だが、マキオは今までこういうゲームとかを家で買ってもらったことがない。何もかもが未知で、それでとても下手糞だった。マキオがどんなに下手でもユウキはマキオのレベルに合わせてコースなどを選択してくれた。小さなユウキは、中身はとても大人だった。
いつもユウキの方から話しかけてくれるので、助かった。ユウキの方が先にいたら、マキオは声をかけることができない。
夏休みが始まって、八月に入ったある日のこと。
「マキオくんち行ってみたい」
なんの前触れもなく、ユウキがそう言った。マキオは驚いて、水の入ったペットボトルの口のところをシャツの裾で拭っていた動作を、ぴたりと止めてしまった。
「……なんもないよ、うち」
「なんもなくてもいい」
「……」
ユウキの顔は真っ赤になっていた。それは暑いからってだけじゃなくて、マキオの家に行きたいと言うのに、結構な決心を要していたからだ。こうして毎日マキオに会いに来るくらいだから、マキオと同様、あまり友達がいないのだろう。だから、友達の家に行きたいなんて、どうやって言ったらいいのかわからなかったはずなのだ。なんとなく先越されてしまったような気がした。
「エアコンもないし……、あの、テレビも壊れてるけど」
「うん」
「……あと、んんと……俺その、自分の部屋っていうのが、ないんだけど」
「庭とかでもいい」
庭って。ユウキの、引っ込みがつかなくなっているような気配を感じて、マキオは少し笑ってしまって、そしたらユウキも顔を上げて、へへ、と笑った。
おばあちゃん石の影から腰を上げた。その日は公民館に行かずに、マキオの家に向かった。
「……こ、ここに入るの?」
ユウキは怯えた声を出して、そっとマキオの腰のあたりのシャツを掴んできた。これまで別に彼に劣等感を覚えたりはしなかったが、自分よりも賢くてゲームの上手い、それでもかよわい友達に、頼られているような気分になるのは、悪い感じじゃなかった。
マキオの家は公園から十分ほど歩いた先にある。そのうち五分は山道を歩く。進むうちに歩道がなくなり、足場が土になり、左右を木々に囲まれ、二人は並んで歩くのが困難になる。
ユウキに腰を掴まれながら、家の裏口の戸を開けた。きい、と苦し気な音がした。
マキオの家は山奥の、道とも言えない道の先のどん詰まりにあった。木造一階建て、八畳二間に台所とトイレと風呂。家具はすべて古臭く壊れかけで、壁も屋根もお化け屋敷のようにボロボロ。おそらくこんな家に住んでいるのは、小学校でマキオだけだろう。ユウキに知られるのは恥ずかしかったが、でも……興味を持ってくれたのは、うれしかった。マキオは誰かに「家に行きたい」なんて言われたのは初めてのことだった。
マキオの通っていた保育園で、マキオの父は有名人だった。
厳密にいうと、マキオがあと一年で小学生になる、という五歳の時、有名人になった。マキオの母が、定職に就かず飲んだくれて暮らす父に愛想を尽かして出ていったのがその年の春だった。その日から母に代わって父が保育園への送り迎えをするようになった。保育士たちの間で、父の評価は最悪だった。マキオの父はいつも酒臭いし、髪は野良犬のようにボサボサで顔には常に無精ひげをたたえている。汚いシャツに、ところどころ穴の開いたズボン、元の色がわからない泥だらけの突っ掛けサンダルという恰好で、おたおたと歩くマキオをせっつきながら、時に暴言を吐きながら送り迎えする様子は、世間の目にどう映ったのだろう。思い出して想像すると、羞恥に顔が熱くなる。正直、マキオは父のことが恥ずかしかった。毎晩母のことを想って泣いた。でも、こんな父でも一応、息子の保育園の送り迎えをしてくれる。だから自分は一応は、愛されているんだと思っていた、その頃は。
暴力が始まったのもこのあたりだった。「顔が気に入らない」と殴られ、「歩く姿が気に入らない」と蹴り飛ばされ、「存在が気に入らない」と物を投げられ、怪我をしても放っておかれた。マキオは自分で消毒をし、ばんそうこうを貼った。一度、マキオのケガを不審に思った保育士らが家に来たが、父は無下に追い返し、「おまえが余計なことを言ったんだろう」といつもの数倍多く殴られた。あと児童相談所の人が来たこともあるけれど、結果は同じだった。たぶんだけど、親戚が一応近くにはいるので、マキオのことは対応というか処理というか、それが後回しになっているのかもしれなかった。
裏口は入ってすぐが台所になっている。中はしんと静まっているが、奥の部屋には人の気配がある。父だろう……。ユウキのことを、どう説明しよう。やはり彼の言っていたように、庭で遊ぶことになりそうだ。
「あの、やっぱり……」
「ひあっ」
振り返って、出ようと言いかけて、ユウキは素っ頓狂な声を出した。え、と慌てて振り返る。
裸に、バスタオルを巻いただけの女の人が立っていた。
目が合って時が止まる。女の人はすごく若かった。お姉さんだった。二十歳くらいか、よくわかんないけど、少なくとも母よりはずっと若かった。白い足と腕、ショートヘアーの襟足が濡れている。顔も白くて、眉毛がやけにくっきりしていて、目と口は小さかった。思わずじいっと見つめてしまって、その人は唐突にきゃあっと言って奥の部屋に入った。
「ねぇ、こどもがいる!!」
「はぁ? チッ……マキオぉ!!」
反射的に、ユウキを突き飛ばして裏口の戸を閉めた。見られてはいけないと思った。ユウキのワアッという悲鳴が耳にこびりついた。
父はどすどすと歩いてマキオの前に来た。痩せているけれど、上背が合って、わが父ながら不気味な生き物だ。裏口から台所へ上がるところは少し段差になっているので、その分また大きかった。
「どっか行ってろっつったろ」
「……」
「帰ってくるな。な?」
父の低い声が頭に降り注ぐ。マキオの視線は父の股間にくぎ付けだった。いつものボロボロのズボンを押し上げて、父の陰茎は勃起していた。先ほどの、白い女の人と、セックスをするんだろうか。
「返事をしろ、愚図」
父は、持っていた煙草をマキオの額にじゅっと押し付けた。喉からあっと悲鳴が出て、額を押さえてよろめいた。戸に背が着いて、なんとか倒れずに済んだ。それを奥の部屋の影から見ていた女の人が、ひゃあんと言って腰をくねらせた。
「やめなよぉ、かわいそうだよぉ」
「うるせぇな、人んちの事情に口出しすんな商売女。チェンジすっぞ」
「……っ」
その場の空気に、いたたまれなくなる。自分は紛れもなく邪魔者だった。唇を噛んで、何も言わずに裏口から出た。戸が閉まった瞬間にその戸を向こうからドンッと蹴るような衝撃があった。
がさ、と木陰から、ユウキが出てきた。顔面が真っ青で、マキオの火傷した額を見て泣きそうな顔をした。
二人は無言で元来た道を歩き、いつもの公民館へ向かった。
汗だくの二人は無言のまま定位置に座り込んだ。公民館の駐車場の、裏にある林の木々がさわさわと音を立てていた。ユウキは所在なさげに、前に回したリュックの紐をもじもじといじっていた。
木陰でしゃがんだら、ようやく状況が、飲み込めてきた。そして、腰の下の方からじわじわと絶望が這い上がってきた。ユウキに父を見られてしまった。きっともう、マキオと、関わりたくないって思っただろう。最初に彼が話しかけてくれた時のことを思い出した。そのあとにも、会いに来てくれた。話しかけてくれて、家に行きたいと言ってくれた。考えないようにしていたけれど、もしかして自分は彼のことを、とても大事に嬉しく幸せに、感じていたんだろう。友達だと思ってしまった。なんてことない、彼がただ、与えてくれていただけなのに。
……殴ってしまおうか、いっそ。
「……ほんとにテレビ、壊れてたね」
「えっ」
汗が頬を伝う、白い横顔がぽつりと言った。
「部屋の奥……ちょっと見えた。画面、割れてた」
「……」
「お父さんがやったの?」
「……うん」
正確には父に吹き飛ばされたマキオがそこに足を突っ込んで割ってしまったのだが、うまく説明できる気がしなかったので言わなかった。
「……あれ、お母さん?」
ぽつり。小さな唇から、喉にへばりつくようなかすれた声。すぐに“それ”が“どれ”のことを言っているのかわかった。
「ちがう」
「……」
「毎回、ちがう女の人。デリヘル? とか、言ってた」
「……」
「町のビルの、四階の店はアバズレが多いんだって」
「そ、そんな言葉、使うなよ」
ユウキは途端に慌ててふいっと顔を逸らした。そんなに変な言葉だったんだ。あんな光景を見たのに、ユウキは妙にいつも通りで、マキオの言葉使いなんて指摘してきたりして。なんだかもう、どうでもよかった。ユウキは金持ちの、お偉いさんの、ボンボンだから。どうせマキオの生活なんて一生理解できないんだ。
「生活保護受けてるんだ、俺んち」
「……」
「朝ごみ捨て行くと、道路出て隣の家のおじさん、サラリーマンなんだけど、出勤時間みたいでよく合うんだ。俺の顔見ると「よう、セイホのガキ」って言って、笑ってくるんだ」
「……」
「国からもらったお金も、お母さんからもらったお金も、ぜんぶお父さんが使っちゃうんだ。デリヘルとか、パチンコとか」
「……」
「パチンコで、お菓子もらってきたりするんだ。俺は別に、食べられればなんでもいいんだけど。でも、だったら普通に、コンビニのお弁当とかが食べたいんだ」
「……」
「小学校は給食が出るけど、今は夏休みだから。夜にはお菓子とか、たまにパンとか買ってきてくれるけど、お腹すくから、町の方に親戚がいるんだ、一応。そこで朝ごはん、もらってるんだ」
「……」
「本当はおばあちゃんの家に行きたいけど、すごく遠いんだ。新幹線とか使う……お母さんがいた頃には、行けたんだけど」
「……」
「朝は、それで……迷惑だってわかってるけど、でもお腹がすくし。その親戚はお母さんのお姉さんの人なんだ。こどもがふたりいるけど、俺には会わせてくれないんだ」
「……」
「それで、朝ごはん食べたらもうやることないから、公園に行くよ」
はく、と口が動いて、君に会うために、とは、言わなかった。
「……保育園の頃の友達は、塾とかで忙しいみたいで……そうじゃなくても……もう、俺とは……」
「……」
「……保育園の送り迎え、お父さんが、してくれてたのは」
「……」
「お母さんが、そう言ったからだって……俺が保育園通ってる間ちゃんと送り迎えしたら、お……お、おかね、お金は、渡すから、って」
言いながら、声が無様に震えるのがわかった。父がマキオの送り迎えをしていたのは、何もマキオが可愛いからではなかった。金のためだ。父は無職だった。いつの間にか、理解してしまった。母は父だけでなく、マキオのことも捨てたのだ。
「それで、俺……あの。迷惑かけて、ごめん」
はあ、はあ。暑くて、しゃべりすぎて口がひりひりして、呼吸が乱れた。自分のことを誰かにこんなに喋ったのは初めてだった。先ほど煙草を押し付けられた額がじゅくじゅくと膿む。
「……ううん」
ユウキは、マキオのその話を受けても、短くそう答えるだけだった。
帰宅後、案の定ボコボコに殴られて、翌日には頬がパンパンに腫れた。その顔で伯母の家に行ったが汚いものを見るような目で見られただけで何も言われなかった。公園に行ったけれどその日ユウキは来なかった。夜になって家に帰り、父に投げて寄越されたコンビニのパンを開きにくい唇に必死に押し込むマキオを見て、父はけらけらと笑っていた。
夏休みが明けた。
どうでもいい、と投げやりになったあの瞬間からずぶずぶと沈むように脳が重かった。なんであそこで諦めちゃったんだろう、弁解なんていくらでもできただろうに。いやでももう見られてしまったし。でも、でも。夏休み前から、八月にかけてのあの日々を、マキオは何度も脳内で反芻していた。マキオに声をかけてくれる存在も、冷たい水のペットボトルも、ゲームも、マキオにはもう手が届かない遠い遠い世界のまぼろしになってしまったようだった。
始業式が終わって、行くところもないので公園に来た。最近は滑り台の足の根元を掘ってどのくらいまで深く埋まっているのか調査するのにハマっていた。尖った石で土をほじくる。
昨晩、新学期に使うノートが欲しいのでお金をくれと言ったら頬を張られた。マキオから話しかけると大体殴られた。その時に投げつけられた三百円は、まだポケットに入ったままだ。コンビニには行った。何も買わないで、出てきた。中に入って文房具などが置いてあるコーナーを覗きかけた時、まさかの光景を見てしまって、逃げるように飛び出てきたのだ。
ユウキがいた。アイスを選んでいた、友達っぽい人たちと、ニ、三人で。みんな、ユウキも、黒い学ランを着ていた。一番近くの中学校の制服だ。
「(中学生、だったんだ……)」
マキオよりも、いつつも年上だ。あんなに小さいのに。そりゃあ大人だよな、そりゃあそうだ。だって中学生のお兄さんだったんだもの。なんでマキオなんかに構っていたんだろう。意味がわかんないな。でも、ユウキはあまり自分の話をしなかった。それはマキオだってそうだけど。
ユウキの痩せっぽちの身体に学ランはあまり似合っていなかった。そういえば、いつも被っていた、父親のものだという野球帽だって似合ってなかった。
手が土まみれになった。今日は結構掘れた、三十センチはいってる。いつかこれを引っこ抜いて、バラバラにして、武器にして、全部なにもかもめちゃくちゃにしちゃおうかな。
マキオはなんだか白けた気持ちになって、ふらふらとおばあちゃんの石横にしゃがみこみ、膿んだように痛む頬を押し付けながら、池の中に小石を投げ込んだ。集まっていたメダカがちょろちょろと逃げまどい、池の奥の、暗くて深いところに隠れてしまった。
おわり




