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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

好きって言いたい、言わせたい

***BL*** 訳あって、付き合っているフリを始めた二人。お互い思い合っているのに、それが好きかわからない。ハッピーエンドです。


 好きな人に好きって言われた事、ある?

 

**********



 俺は小さい頃からモテていた。小学校の低学年から、バレンタインデーは沢山チョコを貰っていたし、自慢出来る位告白もされた。

 学年一可愛い子と付き合った事もあるし、別れても、直ぐに彼女が出来た。年上とも付き合ったし、年下とも付き合った。流石に、二股は無い。



**********



 誰もいない筈の教室から声が聞こえて来た。

「ちょっと!ヤダッ!止めっ!」

開いていた後ろのドア。すぐ横で、ガタガタ揉めてる音がした。俺は何事かと思って覗くと、男が二人いた。

 手前の男がドアを閉めようしている。思わず手を掛け、閉めさせない。男の肩を掴み思いっきり引っ張った。驚いた男は慌ててその場から逃げた。

「大丈夫?」

残った男は肩で息をしながら、涙を拭いた。

 え、、、、可愛い、、、。嘘でしょ?

「ありがとうございます」

よっぽど怖かったのか、肩が震えてる。

「知ってる人?」

彼は小さく首を縦に振った。知り合いだったんだ、、、。

「ごっ、、、ご迷惑お掛けしました、、、」

そう言うと、辺りを警戒しながら出て行った。ちゃんと歩けないみたいで、フラフラしている。

「ね、何年生?」

「三年、、、」

年上?年下かと思った、、、。

「大丈夫?」

「大丈夫です、、、」

「まだ、近くにいるといけないから」

俺がそう言うと、怯えた様に辺りをキョロキョロした。

「教室まで送ろうか?あ、、、さっきの人、同じクラス?」

俺の顔を見て、悲しそうな顔をした。うー、、、わ、、、。大変そうだな、、、。

「何があったの?」

「付き合ってって、言われて。、、、どうやって断ったら良いかわかんなくて、好きな人がいるって言ったら、、、「嘘だろ」って、、、」

「、、、」

「、、、」

お互い黙ってしまう。

「別に嫌いって訳じゃ無いんだ。ただ、付き合うってなると、ちょっと違うかなって、、、。そんなに親しい訳でも無いし、、、」

「じゃあさ、俺と付き合ってる事にしなよ」

俺の顔を見た。え?っ顔してる。

「無理だよ、迷惑掛けられない」

「また、迫られたら?」

「、、、」

彼の瞳にじんわり涙があふれて来た。

「どーせ、俺とは接点無いし、学年も違うからさ。嘘も方便。いざとなったら俺の名前使っても良いよ」

涙目で上目遣いをされたら、惚れるでしょ、、、。

「良いの?」

「俺、長嶋達也」

「真野伊吹」

「伊吹!カッコ良い名前!」

伊吹がクスッと笑った。

「クラス、教えて?僕は、3年1組」

「特進!凄、、、。俺は2年7組」

「ごめん。ありがとう。出来るだけ迷惑掛けない様にするから、、、。もし、名前借りたら必ず報告するよ」

これが俺と伊吹の出会いだった。



 あんなに必死になったのは初めてだった。何とか伊吹との繋がりが欲しいと思って、名前をgetした。

 伊吹は可愛い顔をしている。庇護欲をそそると言うか、何とも言えない、構いたくなる様な感じだ。

 

 

 それから俺は学校で伊吹を探す様になった。学年が違うから、校舎も違う。なかなか会う事は無かったけど、極稀に三年校舎の廊下に伊吹を見つける事があった。その時は声が出る程嬉しかった。

 俺は二年校舎の四階、伊吹は三年校舎の三階だった。だから、伊吹が俺に気付く事は無い。

 俺はただ見ているだけだ。


 今まで告白されてばかりだった俺は、伊吹が振り向いてくれない事が新鮮で、どんどん夢中になって行った。



**********



 好きな人がいるって言ったら、いきなり腕を掴まれて、空き教室に連れ込まれた。

 相手は同じクラスの千葉。

 廊下を歩きながら告白されて、好きな人がいるからと言って断ったんだ。


 

 あの時、千葉が真剣だったのはわかっていた。だから、余計に怖かった、、、。

 助けてくれたのは、2年生の長嶋くん。背が高くてカッコ良かった。長嶋くんと付き合ってる事にすれば良いと言ってくれたけど、初対面の彼に、出来るだけ迷惑を掛けたく無い。



*****



「真野、一緒に帰ろう、、、」

みんなの前で千葉に言われて、断れない。ここで、断ったらあの事を気にしてると思われそうで、、、。

 でも、いつも通りに出来なかった。緊張して

「うん」

「そうなんだ」

そんな短い返事しか出来ない。

「真野の好きな人って誰?」

ギクッとした。本当はそんな人いない、、、初恋だってまだなんだ。つい言った嘘だから、ここで長嶋くんの名前を出したら迷惑が掛かるのはわかっている、、、。

「本当はいないんでしょ?」

「そんな事、、、」

「じゃぁ、誰?」

僕は溜息が出そうになる。

「あの、、、2年の長嶋くんっ言って、、、」

「何組?」

「、、、7組」

「適当に言った訳じゃ無いんだ」

「?」

「あいつ、めちゃくちゃモテるよね」

「知ってるの?」

「三年女子にも、あいつの事好きなヤツいる」

「そうなんだ」

「彼女いるだろ?」

「、、、」

「そんなヤツ辞めろよ、、、俺の方が、、、」

「もう、付き合ってるんだ、、、」

「えっ?!、、、嘘だろ、、、」

ごめん、長嶋くん、、、やっぱり迷惑を掛けそうだ、、、。

「アイツ、凄くモテるし、真野の事だって、本気じゃ無いだろ、、、?」

「、、、良いんだよ、、、」

「真野、嘘ついてない?」

「嘘?」


「伊吹ー!」

遠くから僕を呼ぶ声が聞こえた。

「伊吹ー!今帰りー?!」

声の聞こえる方を見たら、長嶋くんが校舎の中から手を振っている。僕は小さく手を振った。

「マジか、、、」

「今、行くから待っててー!」

「いつから、、、?」

「つい、、、最近」

「どっちから告白したの?」

「僕から」

「全然そんな素振そぶり無かった」

「うん、、、」

もう一度、長嶋くんがいた窓を見たら、もういなかった。



**********



 窓の外を見ていたら、伊吹がいた。思わず窓から叫んでた。伊吹は俺に気付いて、小さく手を振る。ヤバ、何あれ、可愛い。めちゃくちゃ嬉しい!

 俺は急いで伊吹の元に走る。今から帰るみたいだから、追い掛けて一緒に帰りたい!

 下駄箱で靴を履き替え、伊吹の元に行く。



 あれ?さっきは一人じゃ無かったのに、、、。

「友達は?」

「先に帰った」

「大丈夫だった?」

「ん?」

「俺の所為じゃない?」

「あー、、、。大丈夫」

「そっか!」



**********



 長嶋くんが嬉しそうな顔をすると、僕はドキッとする。年下だからかな?ちょっと可愛く見えるんだ。

 でも、千葉の話しでは、彼には彼女がいるらしい。三年生の女子にも好かれていて、一年にはファンクラブがあるらしい。かなりモテるって、、、。僕の事も本気じゃ無いって言われた、、、。あ!本気の訳無いか、、、。だって、僕達はただの知り合いだから。



 帰り道に、ファストフード店に寄った。長嶋くんが、駅前のお店の前で誘ってくれた。

 ドーナツ屋さんで、僕は一番好きな砂糖の掛かったドーナツを一つとコーヒーを頼んだ。砂糖は二つ、ミルクを一つ貰った。長嶋くんの会計を待っていようと振り向いたら、ドーナツ三つとコーラを頼んでいる。沢山食べる人は、やっぱり身長も伸びるのかな?ちょっと羨ましくなった。


「あのさ、、、彼女がいるって聞いたんだけど、本当?」

「、、、本当」

「そっか、、、ごめんね。さっき、一緒にいたの、、、えっと」

何て説明したら良いかわからなかった。

「、、、この間の空き教室の?」

「うん、、、一緒に帰ろうって言われて、上手く断れなくて、、、」

僕はドーナツを一口食べた。

「伊吹が良いなら良いけど、、、気を付けて」

長嶋くんがコーラを一気飲みする。喉が渇いてたのかな?

「うん、気を付ける。長嶋くんの彼女は平気?気にするんじゃ無い?」

「あー、、、。大丈夫、気にしないで」

気になるよ、、、。彼女が知ったら、傷付くよね、、、。ポソッと小さな一口で、ドーナツを齧る。

「あの、、、結局、長嶋くんと付き合ってる事になってて、、、」

「大丈夫、大丈夫。こっちも合わせるよ」

長嶋くんは、パクッと半分ドーナツを食べた。

「さっきの千葉って言うんだけど、彼に好きな人が誰か聞かれて、長嶋くんって言ったんだ。、、、それでも千葉が粘るから、長嶋くんと付き合ってるって言っちゃって、、、。ごめんね」

「伊吹はモテるんだな」

次の一口も大きかった。

「、、、モテるのは長嶋くんでしょ?千葉が、めちゃくちゃモテるって言ってた」

「そりゃあ、モテるけど」

「はは、普通謙遜したりするのに」

「だって事実だからさ」

「長嶋くんの彼女に悪い事しちゃったな、、、」

僕はコーヒーに砂糖とミルクを入れて混ぜる。

「彼女の事は、俺が何とかするから心配しなくて良いよ」

「でも、、、」

長嶋くんに悪いな、、、、。



*********



 正直俺は、自分から告白も別れ話もした事が無い。

 あれ?俺の初恋っていつだっけ?



*********



 設定、設定が大事だ。例えば、、、

 僕が長嶋くんに告白して、付き合う事になった。

 だけど、長嶋くんはやっぱり女の子が良かった。

 だから、僕達はすぐ別れた。


 、、、でも、別れたって言ったら、千葉はまた、何か言って来るかな、、、。

 別れたって言わなければ良いか、、、。そして、僕と別れた後、今の彼女と付き合ったって言う設定、、、どうかな?

 千葉には、千葉に聞かれるまで黙っていれば良いし、、、。



*****



 長嶋くんは犬みたいだった。僕を見つけると嬉しそうな顔をする。その顔を見ると僕まで嬉しくなる。

 僕が立ち止まって、長嶋くんを見ていると、友達と別れて寄って来る。背の高い彼が、小走りで来るだけで、ちょっとドキドキする。



*****



  下駄箱で長嶋くんを見掛けた。声を掛けようとしたら、女の子と一緒だった。


 彼女?


 彼女かも知れない。そう思ったら、隠れてしまった。別に、僕は長嶋くんと本当に付き合ってる訳じゃ無いから、隠れる必要なんて無いのに、、、。

「真野?」

振り向いたら、千葉がいた。

「長嶋、、、浮気してるじゃん」

ちがっ、、、」

「違くないだろ?あんな腕なんか組んじゃって、付き合ってるのはお前だろ?」

、、、付き合って無いと言えない僕は、唇をキュッと結んだ。



**********



 俺は、付き合っている彼女コイツと別れなくちゃ、、、って考えている。でも、彼女コイツに悪い所は無いんだ、、、。そう思うと、なかなか別れ話が出来ない。

 伊吹に出会ってから、伊吹の事ばかり考えている。このまま彼女コイツと付き合っていても、長く続かないと思う。

 そう思いながら、どうやって別れ話しを切り出そうか迷っていた。


「ねぇ、達也、聞いてる?」

アクセサリーが見たいからと、入った店で考え事をしていた。

「え?あ、ごめん。何だっけ?」

「もぅ、、、。いいよ」

彼女がいじけた。

「ごめん、ごめん。ちょっと考え事していて」

「私と一緒にいて考え事なんて、酷く無い?」

イヤリングを見ながら言う。

「本当にごめん。で、何?何て言ったの?」

「お揃いの指輪欲しいなって、、、。結奈!誕生日が来るんだよ?達也から指輪貰いたい!」


 指輪か、指輪はちょっと、、、。と思った瞬間

「ごめん。指輪は、、、」

と口に出てしまった。

「何で?指輪はダメなの?、、、結奈の事好きじゃ無いみたい、、、」

、、、うーん、失敗したな。でも、指輪は上げたく無いってのも事実だし、、、。

 結奈は、何かを考えているみたいだった。

「達也、、、誰か好きな人出来た?」

好きな人?伊吹の事ばかり考えてるけど、よくわからない。伊吹は可愛いけど男だし、、、。

「誰?結奈の知ってる人?」

うーん、、、。

「もういいよっ!どうせ、今もその人の事考えてるんでしょ?!結奈の事なんか好きじゃ無いんでしょ?」

結奈は、手に持っていた商品を叩きつける様に返す。俺は、その商品を元に戻して溜息をいた。

「達也、この間からずっと変、、、。今日は、もう帰る、、、」

結奈は、じゃぁね、と言って一人で帰った。

 


 少し時間を置いてから駅に向かう。流石に結奈と同じ電車には乗りたく無かった。

 改札横で、伊吹と千葉が揉めていた。思わず、イラッとして、千葉に近寄る。

「俺の伊吹に何やってるんだよ」

我ながら凄いセリフが出た。

「長嶋」

「長嶋くん、、、」

「お前の方こそ、彼女はどうしたんだ?一緒に帰ってただろ?腕まで組んで」

見てたのか、、、。

「真野と二股か?それとも新しい彼女か?さっさと真野を解放してやれよ。そしたら俺が真野を貰うから」

バカな男だ。伊吹はお前が嫌だから、俺と付き合っていると嘘をいたのに。

 伊吹の手を繋ごうとした。そっと、指で触ると、伊吹は手を引っ込めた。

「嫌われてるじゃん」

千葉が笑った。

「違う、、、だって、、、」

伊吹が小さく言う。

「だって、手、繋いだ事無いから、、、」

ちょっと赤くなっていた。可愛い、、、。

「馬っ鹿馬鹿しい」

千葉はそう言うと

「真野、俺の事、ちゃんと考えて」

と言って改札に入って行った。

 俺達は、千葉が見えなくなるのを確認してから、時間を潰そうと場所を変えた。



**********



「彼女、可愛いね」

僕は何だか捻くれていた。別に僕は長嶋くんの彼女でも無いのに、、、。

「そうかな?」

長嶋くんの言い方に腹が立った。可愛いから付き合ってるんでしょ?

「どっちが告白したの?」

ジュースを飲みながら聞いた。

「アイツから」

「彼女のどこが好き?」

「、、、うーん、、、」

え?付き合ってるのに、好きな所わからないの?

「別れようと思ってて、、、」

「な、何で?」

僕の所為?

「うーん、、、なんかね」

長嶋くんはそう言うと、ポテトを摘んで口に入れた。



*****



その後、長嶋くんが彼女と別れたかどうかは聞いていない。

 自然と二人で帰る事が多くなり、定期試験前の放課後は、一緒に勉強する事もある。

 長嶋くんに

「伊吹すごい!わかりやすい!」

と言われると嬉しかった。僕は、得意な事も少ないし、面白い事も言えないから、長嶋くんの側は気持ち良かった。



*****



 今日から二年生が修学旅行に行っている。学校に長嶋くんがいない、と思っただけで淋しかった。たった、三泊四日の修学旅行、、、でも、帰って来る日の翌日が土曜日だから、ほぼ一週間会えない。

 一度用事があって、二年生の校舎に行った時は、誰もいない校舎が異次元の様で、凄く不安になった。


 週明けの月曜日、やっと長嶋くんに会える!そう思っただけで、僕の世界が変わる。駅から学校まで歩く間、長嶋くんがいないか探す。


 長嶋くんは女の子と歩いていた。彼女では無かった。彼女は髪の短い子だったけど、この子は髪も長いし、身長も違う。

 相変わらずモテるな、、、。と思いながら、嬉しい気持ちがしぼんで行くのがわかる。



*****



「真野ー!2年が来てる!」

呼ばれた後ろのドアを見ると長嶋くんが来てた。僕は、ガタガタと椅子を引き、廊下に出る。

「伊吹ー!会いたかったー!」

長嶋くんに抱きつかれた。僕も会いたかったよ。なんて、、、言えないけど。

「ど、どうしたの?」

「お土産買って来たよ!」

と言って、キーホルダーとお菓子をくれた。

「キーホルダー、お揃いにしたから使って」

「良いの?ありがとう」

素直に嬉しかった。わざわざ僕の為に選んでくれた、お揃いのキーホルダー。それだけで、一週間淋しかった事を忘れた。

「昼飯、一緒に食べれる?」

「うん」

「じゃあ、迎えに来るから、昼、待ってて」

そう言って、短い休み時間を潰してから教室に戻って行った。


 僕は、自分の机に戻り、封筒を開ける。薄い水色のキーホルダー。白い文字で「いぶき」って名前が入っていた。これ、売ってたのかな?作ったのかな?どっちにしても嬉しかった。



「修学旅行、楽しかった?」

長嶋くんに修学旅行の話しを聞いていると、どうして学年が違うんだろうと悲しくなった。

「修学旅行、一緒に行きたかったなぁ」

去年の僕の修学旅行だって楽しかったのに、、、。気持ちを切り替える様に

「長嶋くんのキーホルダーも見せてよ」

と言うと、ポケットから出してくれた。付いているのは家の鍵だった。

 同じ薄い水色で、やっぱり文字は白だった。名前の「たつや」がちょっと丸文字で可愛い。

「写真も撮った?」

「いっぱい撮ったよ。見る?」

スマホを開いて写真を見せてくれる。写真を見る為に、いつもより近寄るとふんわり良い匂いがした。

「香水付けてるの?」

「良い匂いでしょ?前に貰ったんだけど、使って無かったから」

「長嶋くんに似合う香りだね」

写真を見ながら言う。女の子といっぱい写っていた。勿論、二人きりの写真とかじゃ無い。みんなで撮った写真なのに、長嶋くんが人気者だってわかる。

 


 長嶋くんがちょっと遠く感じた。



*****



移動教室で廊下を歩いていたら、千葉が話し掛けて来た。

「まだ、別れて無いの?」

「千葉、、、」

長嶋くんと付き合っている設定を忘れていた。

「アイツ、修学旅行中にも告白されてたらしいな」

「え、、、」

それは知らない。さっき、あんなに色々話したのに、、、。



 午後の授業中、ずっと長嶋くんの事を考えていた。考えても仕方無いのに、一緒に写っていた女の子達が気になるし、告白した女の子の事も気になった。どうして告白された事を話してくれなかったんだろう、香水は誰からのプレゼントだったんだろう、とか色々、、、。


 色々、色々、色々、、、。


 僕達って何だろう、、、。友達?


 ただの友達だよね。


 本当は、長嶋くんの事、独り占めしたいのに、僕はそんな事言える立場じゃないしな、、、。

 きっと、これ以上何も変わらない。進展する事も無ければ、後退する事も無い、、、。このままか、この関係が消えて無くなるだけだと思う。


 消しちゃおうかな、、、もうすぐ受験だし、、、。それを理由にすれば良いかな、、、。


 

でも、やっぱり、長嶋くんが近くに来ると嬉しくて、この関係に甘えてしまう。



*****



 10月なのに、気温が高い。湿度もあって夏みたいだ。体育祭当日。自分の種目に出れば、後は自由行動だった。      

 僕は自販機にジュースを買いに行き、日陰を探してフラフラしていた。

 長嶋くんが、怪我をした女子を背負っている、、、。

「ど、、、どうしたの?」

「ごめん!後で!」

体育祭で、僕がちょっといない間の出来事だった。何があったかわからないまま、僕は二人を見ていた。

 近くにいた女の子達が

「やっぱり長嶋くんって、カッコイイよね」

と話している。

「さっきも、あの子が挫いた時、一番に走って行ったし、漫画の主人公みたいだよね!」

「彼女かな?」

「彼女じゃ無い?そうじゃなかったら、走って行かないし、背負って保健室なんて行かないよ」

「恋人同士で、保健室かぁ〜、、、。甘酸っぱい思い出作っちゃうのかな〜」

「良いなぁ〜、、、」


 僕は真っ青になった。もし、あの二人が本当に付き合っていたら、僕の存在ってとんでも無い気がする。


 学年が違うと校舎も離れるから、誰と誰が付き合ってるなんてわからないし、僕の事なんて誰も知らないと思うけど、一度考えたら悪い事しか浮かばない。

 放課後、長嶋くんは僕と一緒にいてくれるけど、、、僕って彼女からしたら、邪魔な存在だよね?

 最近は千葉もあんまり話し掛けて来ないし、そろそろ長嶋くんを自由にして上げた方が良いかも知れない、、、。



**********



 最近、伊吹がツレナイ。体育祭の時のアレが原因かな?でも、アイツとは仲も良かったから。歩いてもらうより、背負った方が早かったし、深く考えなかったんだ。まぁ、確かに体操着越しに当たる胸は気持ち良かったけど、、、。

 後で、元カノにも怒られたし、あんまり良く無い事だったかな、、、?



*****



「伊吹、今日、勉強教えて」

放課後声を掛けると、ちょっと考える素振りを見せた。

「良いよ。あの、、、僕もその後、話があるんだ」



 久しぶりの勉強、ちょっと嬉しかった。

 でも、伊吹は少し緊張してるのか、たまに上の空だった。



「伊吹、話って?」

「あのさ、、、あの、、、。付き合ってるフリ、して貰ってるでしょ?」

「うん?」

付き合ってるフリ、、、忘れてた、、、。

「千葉も最近は、あまり話し掛けて来ないし、、、。何ていうか、、、」

「、、、?」

「、、、受験もあるし、、、」

「受験に専念したいって事?、、、終わったら、会える?」

ちょっと違うけど、それで距離がくなら、それで良いかな。

「、、、多分、、、」

「、、、じゃあ、受験終わるまで会うのは、我慢する、、、」

「あ、いや、、、」

「ん?」

ま、、、いっか、、、国公立の発表は卒業式の後だから、、、。そのまま卒業しちゃえばいいんだ。



**********



 伊吹と受験が終わるまで会わない約束をした。なんであんな事言ったんだ、俺!

 会えないと思った途端、伊吹に会いたくなってる!



**********



 文化祭の時、長嶋くんが女の子と二人で歩いていた。それを見ただけで、僕は胸がギュッとなった。女の子が長嶋くんに触れた瞬間見ているのが辛くなって、方向転換した。


 長嶋くんがどこにいても、僕は彼を見つけるのが上手くなって行った。連絡通路を歩いている時、職員室から出て来る時、ランチルームでも、彼がいればすぐに見つける事が出来た。


 長嶋くんの周りには、いつもたくさんの人がいた。女の子だけじゃ無くて、男の子もいる。友達も沢山いるんだ。僕もあんな風に、いつも長嶋くんと一緒にいたい。


 僕のこの感情は何だろう。どうして、こんなに長嶋くんに拘るんだろう。



*********



 俺は、伊吹に話し掛けたかった。でも、伊吹の受験が終わるまでは我慢すると誓っていた。顔を見ると、伊吹の側に行きたくなるから、出来るだけ見ない事にしている。

 一人でいる時は特に注意が必要だった。だから、必ず誰かと一緒にいる様にした。

 伊吹の視線を感じると堪らない。すぐに駆け寄って話し掛けたくなる。

 早く伊吹の受験が終われば良いのに、、、。いつもいつもそんな事を考えていた。


 他のヤツに、こんな気持ちなった事が無い。どうしてこんな事をしているのか、自分でも不思議だ。



**********



 卒業式当日、式に出席する為に登校する。式の準備は昨日の放課後終わっていた。

 家族の参加があるから、一年生はいない。体育館の前列が卒業生。次に家族の席があって、一番後ろが俺達在校生。

 家族の入場はもう済んでいた。俺達は死語禁止で入場する。それから、時間を置いて卒業生の入場。胸に赤い花を着けていた。伊吹の胸の赤い花、俺が着けたかったな、、、。なんてね。

 伊吹は1組だから、すぐに見つけられた。みんなより少し背が低い。今日で学校からいなくなると思うと、やっぱり淋しかった。


 入場の時は後ろ姿しか見られなかったけど、退場の時は伊吹の顔を見る事が出来た。この後、伊吹は最後のホームルームをやって帰る。



 二年生は家族の退場が終わると後ろの扉を閉めて、片付けがある。焦っても仕方が無いのに、早く早くと思う。伊吹に会いたい。



 片付けが終わって、体育館を出ると子供を待つ家族がいた。なかには、すでにホームルームが終わったのか、数人だけど生徒もいた。

 教室に帰る途中、伊吹を見つけた。



*****



「伊吹!」

俺は叫んだ。

「伊吹、まだ帰らないで!」

「長嶋くん。これから、ホームルームあるでしょ?」

「終わったら行くから待ってて!」

「わかった、ここにいるから」 

俺は伊吹に手を振って教室に戻った。


 ホームルームは簡単に済んだ。最後に先輩に会いたいだろうと、手短にしてくれた。解散すると、部活に入っていた奴等はみんなザワザワと先輩達の元に行く。俺も、気持ちばかり焦っていた。



**********



 卒業式が終わり、母さんが

「伊吹はお友達とゆっくりして来るんでしょ?」

と言う。

「多分」

「まだ、高校生だから11時過ぎない様にね」

このまま遊びに行くかも知れないからと、お金をくれた。

 母さんは、僕の邪魔にならない様に写真だけ撮って帰って行った。



「真野」

振り返ると千葉だった。

「写真撮ろうよ」

そう言って、千葉くんのお母さんに写真を撮って貰う。昇降口に長嶋くんが見えた。うわっ!めちゃくちゃ嬉しい、困るな、、。

 流石に千葉のお母さんの前では、長嶋くんも何も言わない。千葉も写真だけ撮ると、他の友達の所に行った。

「伊吹」

久しぶりに長嶋くんに会った。名前を呼ばれるだけで、フワフワする。

「お母さんは?」

「もう帰ったよ」

「え?早くない?」

「友達とゆっくりしておいでって」

「受験終わった?」

「後、一つ発表待ち」

「それが本命?」

「うん、、、」

「自信は?」

「五分五分かな?」

「今日は遊べる?」

「、、、」

「まだ、ダメかな、、、」

「彼女、、、」

「いるの?!」

「や、、、長嶋くんの」

「俺の?」

「いるんでしょ?」

「いない」

「体育祭の時の」

「あれは、友達」

「文化祭の時も」

「文化祭?」

「女の子と一緒にいた」

「えー、、、?誰?」

「知らない」

「ま、いいや。取り敢えず、ご飯食べに行こうよ。早く行かないと、みんな流れて行くんじゃない?あ、今日、クラスで何か集まる?」

「それは無いけど、、、」

「じゃ、早く早く」

まだ、みんなが別れを惜しんでいる中、僕達だけが先に駅に向かった。

 少し話しをしただけで、時間が戻ったみたいだった。何日も会わなかったのが、嘘みたいに話しが出来る。


 グイッと肩を抱いて引っ張られた。フワッとあの香水の香りがする。僕は後ろから自転車が来ていたのに、気付いていなかった。

「危ないから、こっち歩いて」

と車道側と場所を交代してくれる。それだけで、ドキドキする。


 駅に着くとロータリー脇、ビルの三階にあるカラオケ店にエレベーターで上がった。高校生は、平日室料が安いから、のんびり出来ると言われて長嶋くんに着いて行く。

 部屋はまだ空いていた。フリータイムで入って、長嶋くんは隣のコンビニにお昼ご飯を買いに行く。持ち込みしても良いからと言って、僕に何が食べたいか聞いてくれた。僕はわからないから、鮭とツナマヨのお握りを頼んだ。飲み物はフリードリンクにした。

 

 長嶋くんは、コンビニの袋を持って戻ってきた。

「卒業パーティーしよう」

と言って、コンビニのスイーツコーナーで買ったケーキを出した。僕のお握りと、自分のお弁当。後、お菓子も幾つか買って来た。

 その中に知育菓子があった。カラフルなパッケージ、いかにも子供が欲しがりそうなイラスト。僕は懐かしくて、手に取った。

「僕、食べた事無いんだ」

と言ったら

「最後のお楽しみにしような」

と長嶋くんが笑った。


 ご飯を食べて、二人でケーキを食べる。長嶋くんは彼女がいないと言っていたけど、もうあんまり会えないんだな、、、。そう考えたら淋しかった。



 カラオケで歌ったり、受験の話しや、長嶋くんの友達の話しをしている内に、あっという間に時間が進む。

 長嶋くんが知育菓子の説明書を読みながら

「伊吹は彼女いないの?」

と聞く。

「いないよ。いるわけないじゃん。受験生だったんだから」

「あ、これ、水がいるんだ。ちょっと待ってて、水取って来る」

そう言うと、ドリンクバーに行って水を貰って来た。パッケージを開けて、説明書を確認しながら準備をして行く。

「俺さ、、、。伊吹の事、好きなんだ」

作業をしながら言われて、僕は何て返事をしたら良いのかわからなかった。

「はい、作って!」

「え?やり方わからないよ?」

「この粉を此処に入れて、水を入れる」

「う、うん」

細かい仕事に集中していたら、さっきの告白が曖昧になった。あの、お菓子特有の香りがして来た。最後に仕上げのお菓子を入れる。うわー!CMと同じだ!

「で、俺の事、好き?」

「うん?」

「うん?じゃなくてうん」

「うん」

「じゃ、今日から俺達付き合おうね」

「えっ!」

「イヤなの?」

イヤじゃ無いけど、、、。

「俺の事、嫌いなの?」

嫌いじゃ無いけど、、、。

「好きじゃ無い、、、?」

僕は長嶋くんの事を見た。ずっとずっと長嶋くんの事、気になってた。これが好きって感情なら、、、。

 僕は首を横に振った。


 

**********



 高校三年生になって、伊吹に勉強を教わる様になった。伊吹の行った大学は、俺には手が届かない大学だった。でも、本当に行きたいなら、今からでも間に合うと言われて頑張った。


 俺は伊吹に会いたかったし、勉強を教わるのは良い口実になった。それに、外で会うから勉強に集中出来る。

 伊吹はちょっと奥手な所があって、俺が知らんふりをしてシャープペンで触るだけで、顔を赤くした。ワガママも言わないし、イライラもしない、ちょっと物足りないなって思う事もあるけど、可愛いかった。

 俺は健全な高校三年生だ、興味がある事は沢山あった。でも、伊吹も慣れない大学とバイト、俺の勉強の両立で疲れていたし、俺も11時には家に帰らないといけない。勉強を教わっているのも、駅近だったし、俺が伊吹に出来ることは、こっそり手を繋ぐ事位だった。

 だから、伊吹と同じ大学に入ったら、バイトをして伊吹と旅行したり、健全な男子の夢を叶えたい、、、。



**********



 無事に大学受験が終わり、同じ大学に通う事が出来た。だけど、伊吹は大学で俺の知らないヤツと一緒に行動していた。

 俺を彼に紹介した後、伊吹は俺にソイツを紹介した。

「僕の中学の先輩、偶然同じ大学だったんだ」

本来、俺が伊吹の隣に立つ筈だったのに、ソイツが当然の様に立っていた。腹が立つ、、、。

 伊吹の先輩と言うからには、きっと今、大学三年生だろう、、、。いや?四年生か?

「初めまして、伊吹と付き合ってます。長嶋達也です」

「なっ!」

伊吹が慌てた、、、きっと、コイツには知られたく無かったんだろう。でも、俺は譲らない。どれだけ待ったと思っているんだ、、、。

 伊吹が真っ赤になっている。

「真野、、、?」

「先輩、、、あの、、、」

何だ、この雰囲気。見てる俺が、部外者なのか?

「伊吹、俺、急ぐから」

そう言って、伊吹を置いて行った。



 わかってる、、、腹を立てた俺が悪いんだ。伊吹は仲の良かった先輩を紹介したかっただけだって、、、。でも、俺はイヤだった。やっと、伊吹と同じ大学に入ったのに、、、先約がいたみたいだった。俺より親しいヤツがいたかと思うと、バカバカしくなった。

 俺は伊吹と一緒に過ごしたいから同じ大学にしたのに、伊吹は大学に行ってる間、ずっとアイツと一緒だったのかと思うと悔しかった、、、。



*****



 伊吹は度々アイツと連絡を取っていた。バイト先も同じらしく、スケジュール調整の件で連絡がある。

 今までも連絡は取り合っていたんだろう。ただ、俺に勉強を教えてる間は、スマホの電源を切っていたから、俺が知らなかっただけで、、、。



 俺と飯を食ってる時に、長電話になると何だかな、、、と、思うし、スマホにアイツの名前を確認した時の伊吹の顔は見たく無かった。



**********



 中学の先輩と会ったのは偶然だった。大学のランチルームで

「真野?」

と話し掛けられた。


 一つ上の先輩で、中学の頃、図書委員の委員長だった。クラスから2名選ぶ委員会の中で、図書委員は女子の方が比率が高い。そんな中、僕と先輩は男同士気が合い、いつも一緒にいた。


「先輩、同じ大学だったんですね!」

嬉しくて、連絡先を交換した。知り合いのいない大学で不安だらけだったのに、先輩がいるから安心した。

 わからない事は先輩に聞き、テスト対策も先輩を頼った。バイトを探していたら、先輩のバイト先も求人募集を掛けていた、知らない所で働くよりも、先輩に紹介して貰う方が良かった。

 俺は何でも先輩を頼った。



**********



 伊吹の講義が終わるのを待つ間、ランチルームで勉強をしていた。

「ね、君、真野と本当に付き合ってるの?」

アイツだった。

「そうですけど、何か?」

腹の底から機嫌が悪くなるのがわかる。

「そっか、、、真野、男もイケるんだ、、、」

「はぁ?」

「俺、中学の頃から、真野が好きだったんだよね。俺も告白しようかな」

「ふざけんなっ!」

思わず殴っていた。クッソいてぇ、、、。

「先輩っ!」

伊吹が走って来た。

「長嶋くん!何やってるの?!」

俺は、伊吹が俺よりもアイツを優先した事に腹が立った。



**********



 その日の夕方、伊吹から連絡があった。ファミリーレストランで待ち合わせして、安いコーヒーを飲む。

「っつ!」

アイツを殴った手が痛い。

「先輩、怪我してた、、、何があったの?」

伊吹は昼飯を食べ損ねたと言って、タラコのパスタを食べていた。

「伊吹、別れよう、、、」

あれからずっと考えていた。

「な?なんで?」

「だって、伊吹、アイツが好きじゃん、、、」

「好きだけど?」

「俺、ちょっと無理だわ、、、。伊吹がアイツの事、好きってわかってるのに、付き合えない、、、」

「、、、」

「俺さ、、、伊吹の事好きなの。わかる?」

「うん」

「だから、アイツの事好きな伊吹は嫌い」

「え?」


アイツ、伊吹の事、好きなんだって、、、。アイツが告白して来たら、伊吹、困るだろ?だから、先に別れるよ、、、。俺と別れてフリーになったら、アイツとすぐに付き合えるだろ、、、。

 俺より好きなヤツがいるのに、付き合えない、、、。俺、アイツに負けたんだ、、、。


「ヤダよ、、、何で?好きの意味が違うじゃん、、、。何で長嶋くんと別れないといけないの?、、、やっと、一緒にいられる様になったのに、、、」

「伊吹はアイツの事、好きだろ?だからさ、、、」

「好きの意味が違うって言ってるでしょっ?!」

伊吹が俺を睨む。睨みながら、目に涙を浮かべた。

「好きには二つ意味があるでしょ?ただ好きなのと、愛してる方の好きがあるじゃ無いか、、、。どうして、、、どうして別れないといけないの?」

他の席に聞こえない様に小さな声になる。

「だって、、、伊吹、アイツからの連絡、嬉しそうだし、、、それに、俺の事、好きかどうかわからない、、、」

「なっ!」


伊吹に好きって言われたい、でも、それって俺が「好きって言って」って言ってから言われるのと、自発的に言うのでは、全然違う。俺は、伊吹からの言葉が欲しい。


「今日も、俺より先に先輩の所に行っただろ?」

そう言って、俺は明細を持って会計を済ませ、店を出た。



**********



 どうして上手く行かないんだろう。長嶋くんの事好きなのに、、、。



 僕は、急に味のしなくなったタラコパスタを食べた。今まで、こんなに美味しく無い食事をした事が無かった、、、。



*****



 長嶋くんは、特進クラスの僕より成績は良く無かった。それでも、三年生の夏前から頑張って勉強して、何とか同じ大学に入学した。僕も合格した時は嬉しかったし、毎日会えるのは楽しみだった。

 

 どうして、長嶋くんより先輩が好きだと思ったんだろう、、、そんな事、絶対無いのに、、、。


 先輩の事は好きだ。中学の時も色々教わっていたし、去年も色々相談に乗って貰った。でも、だからと言って、長嶋くんに思う気持ちと、先輩に思う気持ちは全然違うのに、、、。


 ポロリと涙が溢れた。急いで指先で拭う。イヤだな。こんな人の多い所で泣くなんて、、、。僕は急いでパスタを食べて店を出た。



**********



 伊吹がアイツと付き合うのは、時間の問題だと思う。

 俺の元カノに言われた事があった。

「達也の事、好きだけど別れる」

そう言われた時、意味が分からなかった。好きなら別れなければ良いのにと思った。

 今なら分かる。好きだから別れたいんだ、、、。俺は、伊吹がアイツの事を優先するのがイヤだ。きっと、俺を一番に考えてくれてもイヤだと思う。アイツの存在そのものが、俺をイライラさせるから。

 こんな気持ちのまま付き合っていても、伊吹を傷付ける事になりそうでイヤだった。現にさっき、伊吹を傷付けたじゃ無いか、、、。


 好きなのに別れたい。

 好きだから別れたい。


 、、、俺ばっかり好きだったんだな、、、。



**********



「真野!」

先輩に呼ばれて、嫌だと思ったのは初めてだった。

「話しがあるんだ」

長嶋くんがすぐ横を追い越して行った。僕の視線に気付き

「二人、何かあった?」

と言われた。

「別れちゃいました、、、」

僕はちょっと弱っていたのかも知れない、、、。つい、口に出てしまった。涙が出そうで、出さない様に必死になる。

「真野、授業始まるから、ランチ一緒にしよう。話し、聞くから」

「すみません、、、」

僕は先輩と別れて移動する。講義も身に入らない。追い越して行った長嶋くんの背中が「話し掛けるな」と言っているみたいで悲しかった、、、。



**********



 昼飯を買いに行くのが面倒で、ペットボトルの水を飲んでいた。ランチルームの入り口に、伊吹とアイツを見かけて、気分が悪くなる。昨日の今日で早速かよ。今日辺り告白して、付き合うのかもな、、、。

 まぁ、どうでもいいや、、、俺はもう関係無いんだから。



**********



「あ!長嶋くん、一人でいる!」

「待ち合わせじゃない?」

女の子が二人、ランチルームに入って来ながら話していた。僕が先輩と二人でいるのに気付き

「ね、長嶋くんの横に座ろうよ」

と言った。

 忘れていたけど、長嶋くんはモテるんだった、、、。

「真野、大丈夫?」

「あ、はい」

「別れたんだって?」

今、ランチルームで話したく無いな、、、。

「はい」

「俺の所為だね。俺が昨日、長嶋くんに真野に告白するって言ったから」

「え?」

「真野の事好きだから、俺も告白しようかなって言ったんだ」

だから、長嶋くんは先輩を殴ったのかな?

 長嶋くんが僕の横を通って、女の子達とランチルームを出て行こうとしている。


 イヤだ、、、。待って、、、その子達と行かないで、、、。


「先輩ごめんなさい!」

ガタガタと椅子を鳴らして立ち上がる。

「長嶋くんっ!」

ランチルーム入り口で振り向いた。

「長嶋くん、僕も行くから待ってて!」

長嶋くんは、後ろを歩いていた女の子に

「ごめん、急用が出来た」

と言って断っていた。女の子達は残念そうにしている。

 僕が追い付くと、長嶋くんは歩き出した。



*****



 長嶋くんは、ゆっくり歩く。芝生スペースのベンチ、人があまり来ない場所を選んでくれた。

 途中の自販機でカフェラテとココアを買っていた。ベンチに座って

「どっち?」

と聞く。

「ココア、、、」

「ん」

と言って、手渡される。僕より大人に見える。ココアを受け取りながら

「先輩に告白された、、、」

長嶋くんの手が、ピクリと反応した。

「良かったな、大好きな先輩に告白されて」

長嶋くんがカフェラテのプルタブを開ける。

「先輩が僕に告白する事知ってたんだね」

「まぁね、、、」

温かいココアの缶を握りながら

「ヤキモチ妬いたの?」

「だから?妬くでしょ、伊吹の事好きなんだから」

長嶋くんは、僕にちゃんと好きって言ってくれるのに、僕はまだ一度も言った事が無い、、、。

「あの、、、先輩の事は本当に何とも思って無くて、、、」

長嶋くんがカフェラテを飲む。はぁ、と息を出したのがため息みたいで悲しかった。

「ココア、飲みな、、、。寒いだろ?」

長嶋くんの優しい声に涙が出る。

「泣くなよ。伊吹が悪い訳じゃ無いんだから」

そう言って、手を握ってくれた。

「僕だって、長嶋くんの事好きなんだからね?」

僕だって、長嶋くんに沢山ヤキモチ妬いて来たんだ、、、。

「やっと言ってくれた、、、」

フッと長嶋くんが笑う。

僕はボロボロ涙が溢れた。あんなに、長嶋くんにヤキモチを妬いて、イヤな気分になったのに、、、長嶋くんにヤキモチを妬かせてしまった、、、。

「ごめんなさい、、、」

「もういいよ、、、」

「イヤだよ、、、。僕、長嶋くんの事好きなんだから、、、ちゃんと、付き合いたいんだから、、、」

長嶋くんがカフェラテの缶を置いた。

「おいで」

手を広げてくれた。僕はそっと寄り掛かった。長嶋くんの香水、、、。初めて嗅いだ時、イヤな気分になったけど、今は大好きな匂い。あの時もヤキモチを妬いたんだ、、、。

「この香水、好き、、、」

長嶋くんの首筋の匂いを嗅ぐ。そっと長嶋くんの身体に手を回す。

「中学生の時、父さんが使わないからってくれたんだ。まだ、中学生で、香水に抵抗があったから使えなかった、、、。伊吹に似合うって言われた時は、すごく嬉しかった、、、」

「彼女からのプレゼントだと思ってた」

「そっか、、、」

「先輩の事

「ごめん。アイツの話しはしないで。何を聞いても無理だと思う。知らない方が楽、、、」

「、、、ごめんなさい」

「伊吹は悪く無いよ。俺の嫉妬心」

長嶋くんが息をいた。僕達は、誰もいない寒い場所で二人きりだった。今なら、、、もう一度言えるかな、、、。

「た、、、達也、、、くん。好きなので、付き合って下さい、、、」

僕は自分の顔が赤くなっているのがわかった。抱き締めた腕に更に力を込めて、ぎゅっとする。

「うん、、、。もうすぐ、バイトの給料が入るから、時間、、、空けといて」

「わかった」

「朝まで一緒に過ごしたい」

「良いよ。カラオケする?」

「うん、伊吹が歌いたいなら、カラオケも出来る所に行こう」

「楽しみ、、、」


 、、、ごめん、伊吹、純粋なカラオケ店じゃないんだ。でも、朝まで一緒にいられるのは本当だからね。



**********



「伊吹、この間の約束。25日に給料入るから、その週の金曜日空けといて!」

「うん、わかった」

伊吹はまだ、気付いていない、、、俺達が初めて朝を迎える場所をカラオケ店だと思っている。


 本当は、、、。

 ま、伊吹の事だから、中に入っても普通のホテルと思うだろう、、、。




沢山の作品の中から選んで頂いて嬉しいです。二人がいつまでも仲良くいられますように!まずは健全な男子の願いが叶う事を祈ります。

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