パパがパラレルワールドを行き来できるらしい
この作品はREALITYという配信アプリで、著者である<花園三京-Chan->が2025年の9/13~9/15に行った配信企画に基づき本人が書いたものです。
この話の主要人物の名前や物語の概要は上記期間中にリスナー様と一緒に決めたものとなっています。
夏休みのある日の夕方
私、中村 爽風蘭はリビングのソファに横たわってどうしようもないだらだらとした時間を過ごしていた。
本日は父と母は一緒にお出かけ中。一人でお留守番だ。と言ってもやることは特にない。
宿題なんてもちろんまだやる気はない。
ので、スマートフォンに写る縦型動画をスワイプして時間をつぶす。
そうやっている自分を好きになれるか、と聞かれると答えはもちろんノー。
だからと言って何かそれ以外にやる気が起きるわけではない。
こんな時に彼氏なんていたらいいんだろうなー
なんて思うけど私には彼氏がいたことがない。
もともと内気で引っ込み思案な私は男の子に話しかけられてもあまりうまく受け答えができない。
もちろん、あまりグイグイ行くような性格でもない。
ただ、SNSとかで数少ない友達が彼氏とのツーショット写真をアップしているところを見ると私も恋愛をしてみたいという欲求がある。
彼氏が欲しいけど挑戦もしたくない。
こんなことだったら、こっちが何もしなくても私に告白してくれるような男の子はいないかな。
そしたら私も恋愛映画のヒロインみたいな幸せな生活が送れるのに。
そんな淡い期待を抱きながら、縦型動画をスクロールしているとパパとママの声が聞こえる。
あ、帰ってきたんだな~となんとなく思っていたら通常の会話ではないようだ。
(なんか言い争ってないか?)
怒号が飛び交う声がだんだんと大きくなってきた。玄関が開きとパパとママが入ってくる。
「だから、浮気じゃない!この世界ではお前のことしか愛してないんだ!」
「ワールドの問題じゃなくて、他にも女がいる時点で浮気だってことがわからないの!?」
ん、なんだなんだ?パラレルワールド?
なんか平衡世界とか言うアニメやラノベでしか聞かない単語が飛び交っているぞ。
ってかパパ浮気してるん?
「でも、アンタ向こうでも結婚してて子持ちって言うじゃない!」
とママ。
「そうだけど、この世界で愛しているのはお前だけだ!」
とパパの反論。
「ワールド跨げばいいって問題じゃない!!」
2人の言い争いは非常にデッドヒートしていて私があたかもいないような状態になっている。
話の概要が掴めないので、私はその喧嘩に口をはさむ。
「ねえ。なんの話しているの?」
その私からの言葉で2人は初めてこっちの方を向き私を認知する。
2人とも我が子の前に憤慨していたことにようやく気が付いたようで、やや気まずそうに目線をずらす。
そこから、2人に私は質問をした。
まとめると、今日2人で出かけていた時にパパがパラレルワールド越しにもう一人の奥さんから電話を受け取ったのをママが聞いたらしい。
それでママがほかに女がいたのか、と憤慨。
パパはこのワールドで愛しているのはお前だけだ。
ここで議論がずっと平行線らしい。
うん、情報量が多い。
「そもそもパラレルワールドって何?」
まるで存在していることが前提のような話しぶりだが、もしかしたら私が知らない意味で2人が使っているのかもしれない。
ほら、世代間で言葉の定義が違うとかよくあるし。ジェネギャとか。
「「『もしもあの時こうなっていたら』で分岐した世界のこと」」
パパとママが口をそろえてそう答えてからお互いににらみ合う。一言一句同じ言葉だったのがお互いに気に食わなかったようだ。
あ、私と同じ意味でつかわれてた~ってそういう問題では片づけられない。
「パパとママはパラレルワールドを行き来できるの?」
「正確に言うと俺が開発した装置で行き来できるんだ。爽風蘭が生まれる前とかに夫婦で行ってたぞ。」
「アンタの案内で新婚旅行先もパラレルワールドだったかなぁ!」
パパとママがそれをきっかけにまたギャーギャーと騒ぎ始める。
うちのパパ、科学者だってことは知ってたんだけどまさかアニメとかでよく見る天才物理学者?だったとは…ってかなんで世の中に出回ってないんだよ。
そんな発明してたらノーベル賞だって貰えるだろ。
ツッコミどころは絶えないが、再び始まったパパとママの言い争いはデットヒートしていく。
「「もういい、離婚しよう!!」」
とまた一言一句おなじタイミングで同じことを言う。
あーこれ、ドラマとかでたまにみる親権争いってやつが始まるのかな。
なんて、唐突に変わり始めた日常についていけずにボーっとそんなことを考える。
「「爽風蘭はどっちに付いていきたい!?」」
こんなに息がぴったりな夫婦が本当に離婚する必要なんてあるのだろうか。
ないよなぁとどこか冷めたように感じられてしまう。
いや、心が追い付いていないだけか。
その冷静さ?のおかげで、私は2人の会話で気になる部分を思いだす。
「パパってもう一人子供がいるの?」
そう、さっきママがパパにパラレルワールドに子供がいるやらなんやらって言ってた気がする。
「ああ、男の子だ。男子高校生で明るい子だぞ。ちょっと変わってるから彼女はいたことないけどな。」
ここでピーンと頭が働く。そうか、パパに付いていったら家族か何かの縁で今まであったことのない男の子に会える可能性があるのか。
これはよい情報だ。
「それだったら、パパの方についていこうかな。なんかパラレルワールドって面白そう。」
そういうところは父親譲りなんだから、とママはあきれたように言う。
対してパパはさすが俺の娘だ、と言わんばかりにご満悦。
そのあとの話はとんとん拍子だった。パパが離婚届を市役所に取りに行って親権はパパのものになる。
元居た家はこの世界に残るママのものになる。
そして私はパパとパラレルワールドに行くことになった。
実はパパとママの寝室にパラレルワールドに行くための装備があるらしい。
「これが俺が開発した転移装置だ」
と自慢げにパパは見せてくるが──
「これただのリュックだよね?」
どっからどう見ても高校生が使うような控えめな色のリュックサック。
漫画のような大掛かりな装置が出てくると思っていた分、私はがっかりしてしまう。
まあまあと私はパパになだめられながらリュックサックを背負わされる。ちょっと教科書を多く入れたときの重量感。到底だがこの中に難しい装置が入っているという感覚はない。
パパも同じ形状のリュックサックを背負う。
「いや~2台一緒に使うのは久しぶりだな~」
と呑気にパパはいう。
おいおいそんなんで大丈夫か。
「いいか、『せーの』で目の前にあるリュックのストラップを止めるんだ。」
とパパが指さすのはチェストストラップ。どうみてもリュックサックを固定化させるためのものなのだが。。。これを使うと転移できるらしい。
本当にこんなんで大丈夫なのかな、と思いつつもうパパに付いていくと決めたから遅い。
「いくぞー!3,2,1、『せーの』」
その合図とともに私とパパはチェストストラップを止める。
その瞬間私はこの世界からいなくなった。