真夏の夜の夢
初めて投稿させていただきました。
もっと長くする予定でしたが、短くなってしまいました。
小話という感じですね。
今後少しずつ二人の話を書いていきたいと思います。
これからどうぞお付き合いお願いします。
始まりを忘れはしない。
彼との出会いはとても印象的だった。
「トマトになる夢を見たんだよ。」
大学の談話室で、課題をしていたらそんな一言が耳に飛び込んで来た。
トマトになる夢?
なんじゃそれ!!
「はぁ?どんな夢だよ。」
聞き手の男子学生がそう切り返した。
何とも好奇心がくすぐられたので、少し会話に耳を傾けてみることにした。
「昨日の夜、俺はトマトになった。真っ赤に熟れたまさに食べ頃なトマトだった。俺は大きな手に掴まれ、勢い良く流れる水で洗われた。」
そこで、少し間が空いた。
「きれいになった俺は、大きな木の板の上に置かれた。そして直ぐに鈍く光る銀色の尖った物が下りてきた。」
さも悲劇的な話しを語るように彼は言った。
「それで?」
「そこで俺は飛び起きた。でも、間違いなく俺は美味しく頂かれたに違いない。」
「どんな確信だよ。」
「そんな確信だよ。」
はぁ、と呆れたような溜息が聞き手の男子学生から吐き出された。
「お前ってやっぱり変な奴。」
しみじみと言われたその言葉に心の中で頷く。
ー変人の香りがする。
心底そう思うよ。
「…まぁ、俺は普通じゃない。俺に普通という言葉ほど似合わないものはない。」
普通自分で言うか?
面白すぎる。
興味深すぎる。
ちらっと二人のほうに視線を向けた。
奇抜な格好をしているわけでも、失礼ながら特別容姿に優れているというわけでもなく、二人ともそこら辺にいそうなごく普通の男子学生だった。
学年共通の授業で何回か見かけたことがあるので、同じ学年のだと予想をつける。
変人のほうは、黒ぶち眼鏡をかけていて髪を染めているのか少し色素が薄かった。
Tシャツとジーンズという服装をしている。
ーキーンコーンカーンコーン。
授業の終わりを告げる鐘が鳴った。
「次授業か…。マジだるい。」
「まぁそう言うなよ。次で終わりだろ?」
そんな言葉を交わしながら二人は立ち上がり、談話室を出て行った。
変人なわりには真面目な人物らしい。
またそんな失礼なことを思ってしまった。
今後注意して見てみよう。
また面白い話が聞けるかもしれない。
これからの学生生活がさらに楽しくなりそうなそんな予感がしていた。
芽生えた思いが何なのか良く分からなかったけれど、心が躍ったことは確かだった。
ーこれは日常の中の小さな変化を彼女が初めて感じたきっかけとなった出来事。
始まりを告げる小さな物語。