後輩とキノコとタケノコと放課後。
「今、先輩は瀬戸際に立っていることを、自覚してください」
吹奏楽部が、音楽室から飛び出して廊下で練習している音が響き渡る放課後。
部室として与えられているPC室で、無闇矢鱈とシリアスそうな顔をしている後輩が、そんなよくわからんことを言い始めた。
「は?」
「わたしが、これから、先輩に質問をします。その答えのいかんによっては──先輩は死にます」
「死ぬの?」
「わたしが、来世に転生できなくなるところに、責任を持って落としますので」
普通に殺されるよりも、えげつないことをされてしまうらしい。
PC操作の時のみかけるメガネを、後輩はカチャカチャ動かして角度を調整し、光の加減をいい感じにした。こちらからは、光の反射のせいで後輩の目が見えなくなる。
そして、PCでなんか検索してるなと思ったら、フリー音源のBGMを流し始めた。シリアスな場面向きのやつ。
いちいちめんどくせえなこいつ。
そんなふうに状況をわざわざ設定した上で、ようやく口を開き。
「キノコとタケノコ、どっち派ですか」
「どうでもいいな」
本当にどうでもよかった。
「まず、季節ものだから、比べるような組み合わせじゃないだろ」
「そうじゃないってこと、わかってますよね?お菓子の方ですよ、お菓子の方」
そうじゃなくても、心底どうでもいいんだわ。
「いいですか、先輩。先輩の価値は、この回答で決まるんですよ」
「そんなことで俺はこれから地獄に落ちるか否か決定されんの?」
「当然です」
当然かあ…………。
「ほんじゃあ、タケノ」
「あーあ!聞きたくありません!先輩の口から、た行が発音されるのなんて、聞けません!早く口を閉じてください。先輩に自由な発言権はありませんから」
「中世もびっくりな人権の無さ」
つーか、なら最初から俺に回答権を与えるなよ。どうせ、答えは決まってるのなら。
「じゃあ、キノコ」
「じゃあってなんですか、じゃあって。先輩のなかで、そんなにも小さな存在なんですか、タケノコは。確かに、わたしは誘導しましたよ、ええ、先輩がキノコ派で、あってほしいなって思ったので。でも、でもですよ。決して、そんなとってつけたような、軽い気持ちで決定してほしくなかったんですよ。ちゃんと、考えて、わたしを選べっていってるきのこよお!」
「どうしろっていうんだよこいつは」
あと、語尾はなんなんだよ。
キノコへの思いが強すぎて、最後感情移入しまくってなかったか?
「本心を答えろって言ってるんですよ!ほら、本心は?」
「心底、心の底から、全身全霊で、どうでもいいと思ってる」
だって、たかがお菓子だし…………。あれば食べるし、別にどっちも普通に食べるし……。
「先輩のわからずやーーーーーー!家に帰らせてもらいます、塾ですので!わーーーーーーーーん!」
後輩は、なんか叫びながら、下校していった。
時計を見ると、確かに部活の終了時間をちょっと過ぎたあたりで、つまり今日の後輩はかなりぎりぎりまで残ってくれていたらしい。
俺は頭を乱暴にかいた。
「なんなんだよあいつ」
わけわかんねえ。
なにがしたかったんだよ。
そもそも。あの菓子を食う時は。
「どうせマヨネーズ大量にぶっかけるんだから、どっちも同じだろ」