保昌一家
おじいさんのありがた~い おはなし。
そのころ都では 夜になると 町の若者たちが 姿を消してしまう事件がおこっていたそうな。なんでも 夕方になると「くらぶ」という謎の言葉を残していなくなり、朝になると ふらふらになって帰ってくるのであった。また、貴族の男が若い女の家に夜中に訪ねて行くと部屋には「今日はぶかつ」という書き置きがあったそうな。そのうち その貴族たちも「ぱぱかつ」とか「あんけん」とかいいながら 都から姿を消すようになったのだそうな。その上、若い娘たちの中には 朝になっても帰ってこないものもおったそうな。
御堂関白殿は、このことにたいそう心をいためられて晴明に占わせたところ「酒呑童寺」に風紀上の問題があるらしい。そこで源頼光と、藤原保昌という武者を取り締りに向かわせたそうな。
影が薄く、頼光の脇役扱いが多い藤原保昌には、有名な妻はいるが子分は盗賊しかいない。保昌はまず、その盗賊、袴垂に様子を探ってくるように命じたそうな。
袴垂が大江山に着いて「酒呑童寺」に向かう道を進むと、道々に若い女の子が立っている。事情を聞こうと近づくと、
「おじさん ぱぱかつのひと?」
「ぱぱかつ?」
「今月、売掛が残ってて、大変なの。」
「うりかけ?」
「助けて!」
「うん、助けににきたんだ。」
「じゃあ じゅうまんえんちょうだい。」
「じゅうまんえん???」
そこに かめらまんを従えた「はなますく」の男がやってきて
「何してるんですか ぱぱかつですか 犯罪ですよね 警察いきますか?」
袴垂は慌てて逃げて行った。
袴垂が調べたところ「酒呑童寺」は「くらぶ」というもので、若い男女が集まっており、「酒呑童寺」の周りには、若者めあての いろいろな怪しい店や「くらぶ」ができており、中でも「ほすとくらぶ」という「くらぶ」が派手な飾りつけで、若い男の子の写真を飾って女の子を集めているらしい。
「ん~。そのほすとくらぶってのが怪しいな。」
「そうなんですが、男は 入れないようで……。」
「まあ、そうかもな。『いけめん』だったら そのほすとってのになれるんかなぁ」
「内偵ってやつですね。」
「まあ、無理だな別の手を考えよう。」
「あなたは十分に『いけめん』ですわよ。」
と、妻の和泉式部が言うと、
「そうかぁ。まぁやってみるかなぁ。そうかぁ、おれ『いけめん』かぁ。」
なんだか 保昌が照れている。袴垂が呆れていると
「わたしが いってこようか?」
と、今年14歳になる娘が話にはいってきた。
「いや、お前にもしものことがあったら、ぱぱは心配だよ。」
「大丈夫よ。この間の歌会も『朝ぼらけ』おじさんしか 声かけてこなかったし。」
「え?俺の留守中にそんなことがあったのか、よし、ぱぱがこらしめに…。」
やすまさは、刀を手に立ち上がったそうな。
「大丈夫よ。ちゃんと胸倉掴んで、歌詠んでやったら逃げちゃったわよ。」
と、得意そうに言って、
「その大江山ね。」
「おまえ知ってるのか?」
「大江山には『酒呑童寺』っていう『くらぶ』があって、毎晩『だんすばとる』と『らいぶ』をやってるの。で、若者が集まって大騒ぎしているの。」
「ふん、それと『ほすとくらぶ』ってのは」
「まあ、聞いて、若者のが集まるところには お店ができるの。すたばとか くれーぷやとかね。」
「すたば?くれーぷ?」
「まあ。そんな健全な店ばかりなら いいけど。げーせんとか からおけとかできて…」
「げーせん?」
「おれ からあげなら好きですぜ。」
「おまえはだまってろ!で?」
「そのうち 男の子あいての不健全なお店ができるの」
「不健全、いかんなぁ。」
「でも 若いイケてる男の子は、そんなとこ行かなくてもいいの。で、そんな店のおねえさんは 毎日、おじさんたちの相手をすることになるの」
「うんうん って おまえどこでそんなことを……。」
「そんな おねえさんたちの癒やしの場が『ほすとくらぶ』ってわけ。」
「ここまでは そんな悪い気はしないなぁ」
「そこが問題なの お店にはイケメンのおにーさん。とても優しくしてくれる。で、おねーさんたちは、そのおにーさんのために どれだけお金を使えるかって、競ってるの。」
「男冥利につきますね。うらやましいなぁ」
「だから、おまえは黙ってろ」
「そこが問題なの おにーさんたちは自分の推したちに、たくさんお金を使うようにさせるの。そうすると、お店のなかの『すてーたす』が上がるって、で、おねーさんたちは売掛って借金をして、高いしゃんぱん入れたりするの。」
「ん?そういえば、売掛残ってって言ってましたね。」
「それで、借金が返せなくなってってか。それって、『酒呑童寺』関係なくね?」
「まあ、そういうことね。まあわたしが解決してあげるわ。」
「おれ、いらなくね?」
袴垂が落ち込んでいる。
「おまえ、どこからそんなこと?」
「わたしは、才女、小式部内侍よ!」
【ごきょうくん】
おじいさんとの約束だよ。
古典の知識は大切だよ。
シリーズ化作業中です。
ここで、ヒロイン登場。