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宇宙の彼方  作者: アズ
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6話

 20XX年、この年は大統領選挙が11月に行われる。大統領選は四年に一度行われるのがこの国のルール。既に出馬表明している候補者から党の候補者選びが始まる。ただし、既に現大統領は二期目であり、前大統領が立候補することはない。既に立候補している各党の面々は州知事や議員経験者他、企業家もいる。そして両党の立候補に共通しているのは全員女性であるということだった。それはこれまでとは明らかに違った光景だが、その原因は言うまでもない。

 問題は男性のいない中で選挙が行われるということだ。それは公平性に欠け、また、これまでジェンダーとして「女性」を引き合いに出してきた一部の女性達が今度は多数に回り、逆に今や男性が少数となっている。となれば何の疑いもなく引き合いに出された「女性」としてのジェンダーが見直されるのは必然に思われた。というよりかは、「女性」というカテゴリーがそもそも正しかったのかさえ今にして思うと怪しいものがある。女化した元男達が女になったからといって「女性」であるべきだと言えるだろうか、マイノリティやアイデンティティを考えるとそれは正しいと言えるのだろうか。かれこれジェンダーでは女性は女らしくあるべきだというカテゴリーの押し付けから反発してきた。であるならば当然、女化した人達が女性であるべき必要性はなく、また、女性に生まれたからといってそれは女として強要されることもないと考えられるだろう。

 社会では既に女化した人達が男性名をそのまま使ったり、スカートを履かないのも当然の権利として認められていた。





 しかし、サラの職場では半数は政治に関心が無かった。職場で流れる政治や選挙等の報道。例えばそれを見ても自分達の生活が劇的に変わるような候補者はいないと思われている。むしろ、変えるなら自ら行動を起こすべきだと考えているかもしれない。というのも男性がいなくなり労働力が減ったことで企業は人員の奪い合いに求人は溢れ、好条件が見つかることがある。中には今年でここを辞め、更に高いところへ転職する人が現れるかもしれない。今の物価高を考えると、それが得策だと思われても仕方がない。与党、野党、どちらが勝っても物価高をおさえてくれる期待は出来なかった。最近は買い物行くにも値段を前に考え込むことが増えていた。頭が痛くなり嫌になるくらいに。それはこの国だけの話しではない。世界中で同じく高騰する物価高に頭を悩ましていた。

 そんなこともあって与党は物価高対策が不十分だったことで支持率が野党より低い状況にあった。




 そして現在、各党との指名候補者同士の対決や選挙活動次第では状況は充分に変わる可能性はある。そんな時、候補者が揃ったと思われた頃、ギリギリで立候補に名乗り出た者がいた。それは全身防護服に包まれた人物だった。それを見て皆がまさかと驚いた。だが、その人物が発する声を聞いて誰もが確信する。それは低い男性の声だった。




◇◆◇◆◇




 男性はガスマスクをしていたので表情とかは目元以外は不明。ただ、彼は与党側の候補者として立候補した。彼の素顔は運命の日の前に撮られた写真ばかりが使われ、そこには裕福そうな家庭の様子が伺えた。学業もスポーツも恋愛も上手くいき、企業して経営まで上手くいったそんな人物は突然、平穏な日常を奪われた。彼は防護服無しでは生きられない体になってしまった。既に彼の免疫力は低下しておりただのカゼでも重症化するリスクは大いにあった。自分が年寄りになったわけでもないまだ30代の彼が今、外の空気を恐れながら生きている。それは彼の精神を悪化させ、彼は病院で適切な治療を受けた。そんな中、彼は大統領を目指し防護服を身に纏った状態で現れた。そんな彼の名はスタイルズ。そして、国中が彼に注目した。このような状態になってから大統領を目指す彼が果たしていったいどんな国を目指そうというのか。それだけで彼は他の候補者より目立っていた。

 彼がステージに向かうと、皆の目線はそれを追いかけ、彼がマイクの前に立ったことで会場は静まり返った。




 ご存知の通り、私は男性です。今、こうして防護服を着なければ生きられない体となってしまいました。それは身体としての規範のこれまでの歴史がたった一年で大きく変わったことであり、その急激な変化に未だ私は耐えられていません。それも、社会生活を送ることが困難になったのは自分が男に生まれてきたからです。それはまるでこの世界では「女性」であるように強制されたかのような、それは私にとって屈辱なことなのです。女性の方に不満があるわけではありません。私はただ自分の生き方を遂行したいだけなのです。しかし、この世界にいる限りは遂行は難しいでしょう。既にあらゆる科学的手段で抵抗を試してきましたが、それも叶いませんでした。こうなるとこの先の運命は隔離された場所で一生を過ごすか、性転換をしてこの変わってしまった世界に適応するしかありません。しかし、不思議な話しです。今でもこれは夢ではないかと思うのです。男だった者が生きられない世界? これが夢なら覚めて欲しいです。眠りから目覚める時、瞼を開ける前にそう願ったこともあります。しかし、その願いが叶わなかったことは今の状況が証明しています。

 さて、私はこの度大統領を目指し立候補に名乗り出たわけですが、私が目指すのは「身体」における男女という二元性からはあらわれない障害や病気といった複数の意味が含まれる「身体」をジェンダーとして訴え、根源を性から複数の意味を持つ「身体」と社会の繋がりを目指します。




 それはつまり、性の二元性を対立させることで社会的立場としての性差等の問題を浮き彫りにする問題提起のやり方ではなかった。

 それはこの男性が女性社会になることで女性敵対主義になるわけではなく、また性にのみ問題視していないということだ。それは性に限らない社会に対する怒りや不満、抑圧などといった感情の部分を社会を通して向き合う試みを男は大衆の前で演説を続けた。彼はまず抑圧は性に限らないと指摘した。更に加え女性男性にも、色んな男性女性があり、それはグラデーションとしてみれ、男女は単なる記号として考えることができる。そこに意味を問うことはむしろ、女とは何かをある種グラデーションから一元化するみたいに女性像を逆に強化しかねない。女とはこうだという性別的役割等から性の解放を目指すならそのやり方は逆効果だと男は指摘した。

 これはある意味今の男性だから訴えることが出来る内容なのだろう。それは、女性にとって男性が逆に女性敵対主義を掲げた場合、対立は避けられないからだ。一部の女性はホッとしたのではないのか。しかし、それが男の策略かもしれなかった。

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