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宇宙の彼方  作者: アズ
5/9

5話

 今年は特別な一年となる。それは大統領選があるからだ。だが、今年の大統領選はこれまでの大統領選とは大きく違ってくる。それは男性がいないということだ。議員の全ては女性であり、大統領選の立候補も女性のみ並ぶ事態。与野党問わずだ。かつて、女性の大統領の実現がかれこれ実ることはなかった大統領選。それが今年から一変した。それは他国でも同じだった。同盟国である日本では女性議員が50%を満たさないのが地方議員も含め当たり前の光景だったのが、既に100%を実現している。ジェンダー平等を訴えていたそれがむしろ極端に悪化していた。ロシアもフランスもイタリア、どの世界を見渡しても全てが今や女性が政治を行っている。そして、そこに男性の姿はなかった。それは政治だけでなく、街から男性がいなくなっていた。

 男達はどこへ消えたのか?

 それは最大のミステリーだった。

 地下シェルターにも、森にもいない男達を女性は探し続けていた。

 男は絶滅してしまったのか?

 実際はそんなことはなかった。生まれてくる子どもは男の時もある。だが、それは直ぐに本人の意志を問わず長生きの為に女化されていた。

 学者達は生まれてくる子どもはフレアの影響を受けていないのだから意味のない行為だと言っても、科学者達の意見より万が一の想定を考え母性本能的に男を次々と女化してしまうので、歯止めに至っていなかった。

 その変化はサラ達がいる業界にも見られた。女化した高齢者や女性の入所予定リストがずらりと並ぶ一方で男性の名前は一つもなかった。

 各国はこの行き過ぎた女化に歯止めを止めるべく議論が行われた。それは未成年の性転換の禁止だった。フレア現象による人体への影響を考慮し、一度あった性転換への制限を見直されたものを復活させる法改正となる。また、性転換が禁止だった国は制限か禁止に戻すかの議論が行われていた。




「そもそもフレアで男性だけ影響を受けて死ぬなんておかしな話ね」とエマは言った。

「それじゃネットで広まってる男性だけをターゲットに狙う科学兵器が密かに使われたとかって話になるの? あれこそ陰謀論ぽいけど」

「フレアだって充分陰謀論でしょ」

「それじゃ真実は何?」

「さぁ? 真実は知らないところに隠されてて私達には知り得ないことなんじゃない?」

「どちらにしても怖い話よ」

「サラはさ、男がどこへ消えたと思う?」

「宇宙とか?」

 この田舎にも宇宙船を飛ばせる謎の施設がある。しかし、あれが今も使われているのか謎で住民は誰一人それを知らない。

「宇宙は無いんじゃないかしら。世界中の男性が入れるようなコロニーなんてないでしょ」

「なら、エマはどう思っているの?」

「多分、死を選んだんじゃないかな。一生防護服を着て生きるかもしれないことを考えたら、そういう選択を取ってもおかしくはない。誰にも見つからないような場所で男性はこの世界から去ったのかも」

 そこまでして女になりたくなかったのかとは思わなかった。性とは厄介なもので、ずっと悩みの種だ。恋愛も、性欲も、ジェンダーも。そして、それらは簡単には解決出来ない問題だ。女は女で悩んでいるように、男は男で悩みがある。性別的役割といった性差別は女性に限定された話しではないように。

 肉体と精神では、精神が男性であることを望んでいても、この世に生き続ける為には肉体はその精神に反する行為をしなければならない。それは、性的マイノリティが悩んできたことと似ている。精神と肉体に違いがあることで悩むように、精神が女であることを、あるいは男であることを望み、肉体が性転換によって実現することで、苦痛やストレスから解放されようとしている。

 もし、女化すれば助かるなら女になるか? という問題は、女性がそんなに生きづらいなら男になるか? その問いは違うようで似ていると思う。性はそう単純ではないという点で。

 だから、男達が女化して生きられたとしても、精神の苦痛は助かってはいないだろう。肉体だけが助かっただけの話なのだから。

 これらからエマが言うことは怖いが現実的にあり得ない話しではないとサラは思った。だが、それに反してどこかで生きていて欲しいと思っている。それは偽善になるのだろうか?







 白のスウェットシャツにジーンズ姿のサラはロッカールームでポロシャツの制服に着替え階段を登った。階段の場所はロッカールームのある通路沿いにある。この通路は職員用玄関と繋がっており、お客様用正面玄関の裏側に位置する。裏側の外は駐車場の奥となり、職員用エリアとなる。正面玄関は来客用の駐車場で、駐車場はL字になっている。出入り口は正面玄関の前が通り抜けで左右に出口がある。

 外から見た窓側は居室の窓で、大きな窓はリビングのある部屋の窓だ。二階は地上からは高い位置にあり、外からでは見えない。そもそも昼間でも常にレースが掛かっている部屋がほとんどだった。

 施設のある場所の周辺は田舎とあってか交通量が多くはなく見渡してみても畑だ。遠くに一軒家がポツポツと点在し、更に奥に山がある。

 若い人が移り住むには便利な場所でないのは明らかだ。沢山店のある場所に行くには車が必要だし、距離もある。

 だが、ビル群がないおかげでここは夜空がよく見えた。

 夜勤は基本一つのフロア、2階は二人の職員で回していく。夜間の徘徊者はあまりおらず、トイレで目覚める人がいる程度。その時はトイレ介助を行う。後はコール対応や体位交換、パット交換といった夜勤業務となる。一階の事務所は閉まっており、正面玄関も同様に事務員が閉めていく。そのため一階に職員はいない。

 朝早くに来る職員は厨房職員になるだろう。それから順に早番職員、事務員、日勤者、遅番と大抵はなる。

 主任は日勤者と同じ時間帯だ。主任の業務はいまいち分からないが、なんかいつも忙しそうにしている。午前と午後にラウンドして職員から報告を受ける。

 今日の夜勤はサラとエマだ。エマも一緒に階段をあがり、遅番職員から日中の申し送りを聞く。それから夜勤業務の準備をし、業務が始まる。

 夜勤は勤務時間が長く、暇な時間が長いと睡魔に襲われたりするが、逆に個室の隅とそこから一番遠い隅の個室のコールが鳴ったら走らなければならず急に大変になったりする。それ以外で困ることはほとんどあまりない。

 ただ、この日の夜勤はそうではなかった。

 いつも通り時間で体位交換、パット交換をしていた時、カーテンの隙間から明るい光が見えた。サラは窓に近づき、カーテンを開ける。すると、窓の外には赤色に輝くオーロラが見えた。

 太陽フレアの影響だろうか? だが、学者は何度も男性の免疫力低下が太陽フレアとの関連性はゼロだと言い続けていた。エマもその一人だ。皆、通信に影響が出るなら脳にも影響は出ると思い込んでいる人がいたり、それなら人体にも影響はあるだとか、政府はそれを隠そうとしているとか、目に見えるものだけ語り、多くが感情的パニックを引き起こしていた。それが盲目的になり真実から遠ざかっているとエマは言う。そして、人体の影響に脳は関係なく、恐らく別にあると。そこにヒントがある筈だと。

 だが、科学兵器ならあり得るのだろうか? 何の為に? それともこれは神の仕業なのか? 日本には太陽神なるアマテラスという神がいると聞いた。太陽が人間の男達を死に追いやったのか。多分、エマにそんな話しをしたら笑われるだろう。そして私の脳を心配するだろう。勿論、本気ではない。けど、だとしたらなんだというのか。

 オーロラは出現したが電気は通っていて、停電になることは無かった。通信も問題は無かった。無害なオーロラなら綺麗な光景で悪くない。だが、どうしても不安にさせる。オーロラを見ると。何故なら、この場所から本来オーロラを見ることは出来ないからだ。つまり、やはりこの地球では異常が起こっている。

 でも、異常と言えば気候変動だって異常と言えばそうだ。異常な積雪、異常な暑さ、異常な雨、そもそも地球にとっての平常とはなんなのか?

 その時、利用者の一人が悲鳴をあげた。私はその悲鳴のした居室へと向かう。途中、エマと合流した。

 居室に入ると、カーテンが開けられオーロラが見えていた。女性はそれを見て悲鳴をあげていた。

「大丈夫ですか?」サラは駆け寄る。

「アレのせいで息子は息子は!」

「違います。あれはただのオーロラです。大丈夫ですよ」

 ただのオーロラとはなんなのか、自分でもよく分からず勝手に言葉が出ていた。

 エマはカーテンを閉めた。

 すると、悲鳴を聞いた他の利用者が次々と起き始め、コールが鳴り響いた。

 それからは大変で地獄だった。




◇◆◇◆◇




 ようやく落ち着いた頃にはすっかりオーロラは消え夜空だった空が明るくなり始めていた。それを見て私はうんざりした。ある人は似たような質問を何度もし、ある人は不穏になり、ある人は……そうやって対応していたら精神がすり減っていく感じがし、大声をあげたくなった。そういうことは滅多にないのだけれど、何かの大災害が起きたとしたら似たような感じになるのかと思うとゾッとした。しかし、これが毎日続くわけではない。そんなのは当たり前で退勤した頃には怒りより眠いが勝っていた。

 そういえば朝の施設のテレビでオーロラの現象について朝早くから取り上げていていた。太陽に異常はないということだったらしいが、そもそも専門家は男性の死に太陽フレアの因果関係を改めて否定していた。というのも、女性の死者数も実は増えていたことが分かったのだ。ただ、男性が目立って顕著だったことから因果関係に男性との関連を決めつけていたが、学者は因果関係でなく別の原因による相関関係ではないかという話がでた。つまり、男女で免疫力は低下していて、特に男性の免疫が女性より大きく差をつけるかたちで低下していたという。これは世界的にも衝撃的な内容だった。

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