【もう戻れない③(There's no going back)】
サミュエル君の話は、聞いていて心が痛かった。
同級生から無視され、ただ一人だけ親しくしてくれた人に教えたSNSのアカウントも漏らされて炎上。
そこからは目に見えることのない酷い虐めが横行しはじめた。
酷い虐めと言っても、それを物理的に証明できるようなモノは殆ど無い。
なぜなら、虐めの中心は全てSNS上で行われているから。
私はサミュエル君の携帯電話を見せてもらった。
そこには彼を揶揄する言葉や、彼の行動に在らぬ嫌がらせの注釈をつけたコメント、それに醜く加工された写真などが送られていた。
「ねえ、シーナ。君、SNSは?」
真剣に彼の携帯を見ている私に、彼が話しかけてきた。
顔を上げると、今まで弱々しく思えていた眼が、鋭いナイフのように光っていた。
彼の携帯を見たことで、私も彼を虐めたり無視したりする人たちと同じ様に、彼に嫌な感情を持つようになったと思っているのだろう。
その目は、悪意に満ちていた。
彼の問いに、私はSNSはやらないと答えた。
「SNSを、やらない⁉ 全然?」
私の答えに彼は驚いたが、その眼には驚きと共に懐疑的な一面が半分以上隠されていることを私は見逃さなかった。
「友達との待ち合わせ時間とか場所とか、伝達が必要なことはSNS上でやり取りするけれど、それ以上はしないの」
「どうして?」
「だって、機械文字に感情は現わせないでしょう?」
「フォントを変えれば?」
「なぜそこまでする必要があるの? フォントやシールを駆使するくらいなら、電話で話すわ。そのほうが効率的でしょう?」
「たしかに……」
「それにSNSに頼りすぎると、SNSが気になって、やらなければならないことが後伸ばしになってしまうわ。そしておそらくアナタも私も、こういったモノに要求しているのはSNSではないはずよ」
「SNSじゃない?」
「そう。いつでも直ぐに調べられ、専門的な知識だって自由に得られること。私は幼い時から、それが好きでパソコンや携帯を使って来たわ。アナタは?」
私が話を振ると、彼は「僕もそうだった」と答えた。
その眼には、さっきまで不気味に光っていたナイフのような眼は消え、穏やかな彼本来の目に戻りかけていた。




