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探偵マックス・ベル短編集(Detective Max Bell)  作者: 湖灯
★コロンビア大学拳銃乱射事件(Columbia University shooting)
34/37

【もう戻れない②(There's no going back)】

 イヤフォンから聞こえる会話の殆どは、坊主の愚痴や自分に嫌がらせをするグループの話。

 シーナはその話の邪魔にならないように、相槌を打っているだけ。

 状況的に、坊主は一番ヤバイ話をしていて、シーナはただ聞いているだけなのだが聞いていて不思議と焦りが消えて行く。

 最初はその感覚に違和感を覚えたが、聞いていくうちに何となく理由が分かって来た。

 言葉の量は坊主の方が圧倒的に多く、まるで一方的に話しているように聞こえるが、実はその話をコントロールしているのは聞いているだけで時々相槌を打っているシーナのほう。

 声だけで直接見ているわけではないのだが、彼女は聞きながら相槌を打つ言葉のタイミングや抑揚の他に、優しい表情や真剣な眼や深い瞬きなどを駆使して坊主が自分の話で感情が高ぶらないように制御しているのだと思う。

 その証拠に坊主の声は、まるで優しいお母さんの前で学校であった嫌な話を打ち明けている子供のように聞こえ、とてもイジメた相手に復讐するために拳銃を持ち出した人間のような激しく感情的な物言いではない。

 優しいお母さんは、いつ何があっても子供の味方。

 そういった不変の愛の力を彼女は持っているから、いきり立っていた坊主も落ち着いて話せるのだろう。

 いや坊主の14と言う年齢を考えると、母親じゃない異性の優しさに触れたことで、心が穏やかになったのではないだろうか?

 自分自身の同じ年代だった頃を思い出すと、妙に納得してしまう。

 しかもシーナは飛び切り優しい上に、飛びっきりの美人で、しかもホンノ少し自分より年上と言うところが少年にとっては堪らないところなのだろう。


 坊主が一通り愚痴を言い、自分はコレからイジメた人たちに復讐しに行くつもりだったことを話した。

 シーナはこのとき、どうやって復讐するつもりかと聞いた。

 坊主は少しの間をおいて、緊張した声でこう言った「実はコレで殺すつもりだった」と。

 テーブルの上に拳銃を置いたのかゴトンと言う重い音が聞こえた。


 “ヤバイ!ここで下手に坊主を刺激してしまうと撃たれるぞ……”


 シーナが拳銃を見て、どう反応するかによっては坊主の逆鱗に触れてしまうかもわからない。

 シーナの出方を注意していると、廊下の奥の方からさっき俺にシーナの居場所を教えてくれた学生たちの声が聞こえて来た。

 しかも彼らはコッチに近付いて来ている。


 “マズイ‼”


 シーナの出方も心配だけど、今はコッチを止めなければ全てがぶち壊しになってしまう。

 彼女はきっと上手くやる。

 今は神さまにそう願うだけ。

 俺は慌てて盗聴器を片付けて、近付きつつある学生たちの方に向かった。

 ココで彼らが現れればシーナの努力は水の泡と化すばかりか、パニックに陥った坊主に撃たれるかも知れない。

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シーナさん! どうか上手く切り抜けて!!
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