【もう戻れない①(There's no going back)】
サミュエル君は14歳でもう大学生なのだから、むかし話をしてホッコリする年頃でもないだろうし、おそらく飛び級飛び級で同世代の子と一緒に楽しい遠足などの学校行事の話をしても齟齬が生じるだけのような気がする。
飛び級は私も経験はあるけれど、私の場合はたった2年早くなっただけだから、彼の苦労は分からない。
おそらく相手の気持ちを分かったつもりで話を進めることが、一番反感を買う事だけは何となく理解できる。
とりあえず当たり障りのない会話で時間を稼いで、その間にマックスさんが来てくれることを願うだけ。
「僕はマダ1回生なんだけど、君は?」
引き延ばし戦術を考えているときに、サミュエル君が私に聞いた。
「私は2回生よ。1年だけ先輩だけど、困っていることがあれば何でも聞いてネッ!」
……しまった。
これじゃあ、いきなりサミュエル君が家から拳銃を持ち出した事案に直接触れる可能性大ありじゃない⁉
「実は――」と、急に暗い顔をしたサミュエル君が、話しはじめた。
シネマサークルの部室の近くまで行くと、俺はそれまで走っていた歩を止めて携帯を取り出した。
やはりまだシーナからの連絡は途絶えたまま。
ここに来る道中の道筋で屯していた学生に聞いたところ、花束を抱えた女の子がこの部室に向かっていたことは分かっているから、部室に入った彼女が何らかの理由で連絡を取ることが出来なくなった可能性がある。
そして電源が落とされているのは、壊れているのか、故意に電源を落としたのか。
または壊されたのか、故意に電源を落とされたのか……。
足音を忍ばせて部室に近付き、ドアに盗聴器を仕掛けて内部の様子を探る。
“どうか無事で居てくれ!”
祈るような気持ちで、イヤフォンを耳に当てた。




