【1番街の荷降ろし場③(The loading dock on 1st Street)】
探偵マックス・ベル短編集は平日の午後10時にお送りする予定です。
重い荷物を船から運びだす音、その荷物が置かれる音、そして甲高いスペイン語で話す声。
なんの話をしているのか、その内容なんて俺には分からない。
話の内容が分かれば、それに越したことはないのだが、そのために今更勉強する気にもなれない。
もっとも相手が美女なら話は別だが、悪人同士の会話の内容なんて知りたいとも思わない。
ヒスパニック系移民の犯罪率は、ここニューヨークでも非常に高く早口で甲高い壊れたラッパのような声を聴くだけでもウンザリするのに、更にいかがわしい取引の内容なんて記憶の何処にも留めたいとは思わない。
悪事を働く奴を捕まえる。
それが俺の仕事。
ちなみに違法薬物関連事件によるヒスパニック系犯罪者の割合は40%と非常に多い。
もっともアフリカ系は約45%もあり、全ての犯罪に関してこの2種類の民族が上位1位2位を占めていて、これがアメリカの闇の部分でもある。
安全装置を解除した拳銃(M1911)を握ったままトレンチコートのポケットに突っ込み、俺は然も何も知らない通行人の振りをして海に向かって歩き出した。
「¡Alguien está aquí‼」
「¡Ey! ¡detener‼」
奴らが騒ぎ出し、俺に向かって何事か大声で叫んでいたが、俺は振り向いて「Ciao」とだけ返し、拳銃を持っていない方の手を軽く上げ何の関係もない善良なただの通行人を装った。
しかし野蛮な奴等には、通用しない。
いかに何の関係もない善良な市民であろうとも、ヤバい事をしている奴らにしてみれば俺は立派な目撃者となる。
そして事件が明るみに出て、奴らが捕まり裁判に掛けられた場合は立派な証人。
いくら嘘をついて誤魔化そうとしようが、証人が居たのでは誤魔化しが利かない。
奴らの選択肢は3つ。
一つ目は、取引を止めて、この場から逃げ去る。
二つ目は、俺にこの場から立ち去るように説得を試みる。
三つめは、俺を拉致する。或いは殺す。
さて、奴らは、どれを選択するのだろう?




