【男と女①(man and woman)】
俺が探しているのは銃を持って家を飛び出した頭のイカレタ少年。
背景には虐めがあったらしいが、そんな危険なヤツを探すのに、こんなにも可愛い女性に協力してもらう訳にはいかない。
それは元刑事だった俺自身、充分わかっていたはずだった。
♂「ちょっと、君!」
何かに導かれるように、無意識のうちに彼女に声を掛けてしまう。
♀ 不意に知らない人から声を掛けられた。
大きな薔薇の花束を持ったままだったので少し恥ずかしくて、持っていた花束を背中に隠して声を掛けて来た人の方に振り向いた。
♂ 声を掛けると彼女がまるで漫画かアニメのように、背景に薔薇を背負うように立ち止まる。
長い首を伸ばし、大きな2つの黒い瞳を俺に向けるその姿は、まるで森の中で不意に出会った時の小鹿。
このあと“おいで!”言って、コッチに来たなら、誰もが飛びあがって喜ぶだろう……。
しかし見ず知らずの30過ぎのオッサンの呼びかけに、二十歳になるかならないかの若くて綺麗で可愛い女性が応じてくれるかどうか心配だった。
♀私に声を掛けた男性は、30歳くらいの背の高い人。
肩幅が広く、いかにもスポーツマンと言う出で立ちだけど、女性に対してイヤらしい感じはなく、爽やかな少年の目をしているのが印象的で好感度があった。
NY警察で刑事課長を務めている伯父さんがよく自慢気に話している若い刑事に似ている。
似ていると言っても伯父さんは刑事だからという理由で、いくら私が頼んでもその人の写真どころか名前も教えてはくれないけれど、この人はきっと伯父さんが自慢していた若い刑事さんに間違いない。
だって、私の想像したイメージにぴったり当てはまるんだもの。
「なんでしょう? な、なにか、お困りごとでしょうか?」
うっかり返事が、つっかえてしまう。
コレは気持ちが高ぶった時に出てしまう、私の悪い癖。
私は心の高ぶりを抑えながら、呼ばれた男の人に向かって少し早歩きで向かった。
♂彼女は来た!
俺は平然を装いながら、心の中では宇宙に飛び出すほど飛び上がって喜んでいた。
彼女が何の用かと聞いたので、学生を探していることを伝えたあと、君もココの学生かと聞くと彼女はハイと返事をした。
そして俺の身分を明かしたあと、事情を説明して協力してくれるかどうかを尋ねてしまい後悔した。
何故後悔したかと言えば、断られるに決まっているから。
事情を話すにしても、俺の探している学生がイジメへの復讐心を持ち、家から拳銃を持ち出していることを正直に話してしまったのだから。
ところが彼女は、そんな俺の言葉に怯むことなく、協力しますと言ってくれた。
“マジか⁉”




