【ある天才少年②(A certain genius boy)】
「ところで銃弾は何発ほど保管していましたか?」
「2ケースでした」
22LR弾は1ケース50発入りで売られている。
それが2ケース……。
しかもその2ケースが過去形になっていたところをみると、どうやら坊やは銃と一緒に2ケースの銃弾を持ち出したのだろう。
「すみません。息子を止めてもらえますか?」
母親が今にも泣きだしそうな声で聞いてきた。
「もちろん、そのつもりですが情報が足りません。気を確りと持って、出来る限り私の質問に答えていただけますか?」
「も、もちろんです‼」と、母親は気丈な声で言った。
だが、その声も俺の次の質問で再び弱々しくなってしまった。
俺が聞いたのは、もう警察には連絡したのかと言う事。
母親は、警察には連絡していないと言った。
14歳の少年が銃を持ち出した。
その時点で、銃の不法所持となる。
そして事情聴取で殺意があると分かると、銃を取り出す、または取り出すような仕草を見せただけで警官に撃たれる可能性もある。
運良く発砲する前に捕まえられたとしても、事情が事情なだけに殺人未遂を問われかねない。
警察は抑止力になるが、経験上警察が来ると、特に素人の場合はパニックに陥り自暴自棄になる場合もあるから善し悪しだ。
もちろんそれは人対人なので、誰が来るかにもよる。
そこが一番重要な所。
その点で言えば、今の俺は警察官でもないし、経験も豊富にあるから“打って付け”ってことだ。
ただしそれはタイミングによる。
坊主が、犯行を行う前なら十分に止めてみせる自信はあるが、犯行を行った後では助けようがない。
アパートを出て車に向かう時も、車に乗ってからも、ずっと母親から情報を得ていた。
家を飛び出した坊主の身長や体重といった身体的特徴から、当日の服装や持っているバッグの形と色。
服装やバッグは似たようなものが多く惑わされやすいが、学生の場合靴は個性が出ることが多い。
単純に同じ白い靴でもミズノならM、アシックスならA、ニューバランスならN、ナイキにはあの特徴的なマークなど、一目見ればどのメーカーの靴だと言う事が直ぐ分かるように作られている。
特に今回の坊主は、去年のクリスマスに両親からプレゼントしてもらったアシックスのNOVABLAST 5というランニングシューズを履いて出ているということ。
このシューズは靴底が厚く、かかと部分が少し飛び出しているという特徴がある。
色は白で最もシンプルなものだが、Gパンに白のTシャツと黒のリュックだけでは本人の写真の顔しか知らない俺には見つける事自体困難だ。
当然の事ながら顔で判断するためには相手の顔が見える位置に居なければならないから、拳銃を持って出てこれから人を殺すかもしれない興奮状態にある坊主の顔を、わざわざ正面から凝視してしまったのでは坊主に俺の意図を見抜かれてしまう恐れは十分にある。
状況にもよるが、そうなれば撃ち合いになる可能性が高い。
そうなれば俺は依頼人の意に反して、坊主を殺してしまうだろう。
これは重大な契約違反だし、人の命を奪うことは本意ではない。
だからそうならないように是が非でも坊主に気付かれる前に彼自身を見つけ出さなくてはならない。
そのためには、この靴が事件解決への重要なカギとなるのだ。