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探偵マックス・ベル短編集(Detective Max Bell)  作者: 湖灯
★コロンビア大学拳銃乱射事件(Columbia University shooting)
22/31

【ある天才少年①(A certain genius boy)】

 10時40分。

 ベッドから起きてインスタントコーヒーを飲むために瓶の蓋を開ける。

 底に残った僅かな粉を苦労してすくい出し、ようやく1杯分の量を得てカップにお湯を注ぐ。

 食パンは昨日切れたし、ジャムやマーガリンも無い。

 もちろん肉も無ければ、卵もない。

 冷蔵庫を開けると、まるで新品の冷蔵庫のようにスッキリしていた。

 棚を探ると、賞味期限切れのシリアルを見つけたので、それを摘まみながらコーヒーを飲む。

 正義心から大金を逃して以降、さっぱり仕事が来ない。

 幸い煙草だけは当分困らない程度あるが、燃やすのは惜しい……だから一口だけ吸って火を消した。


 そのとき突然まるで女の悲鳴のように、俺の携帯が鳴った。

 “依頼の電話だ‼”

 直観的に、そう感じた俺は直ぐに通話ボタンを押した。

「はい、マックス探偵事務所!」

 言い終わる前にスピーカーからは、まさに女の声が悲鳴のような声で言った。

「息子が父の拳銃を持って家を飛び出して行った!」と。

 俺は連絡してきた女性の名前と住所、それに息子さんの名前と年齢を聞いた。

 女の名前はジェニファー・ゴールドバーグ。

 住所はニューヨーク州ヨンカーズのダンウッディ。

 俺のアパートのあるアッパーマンハッタンからは、北北東に直線距離で約8.4マイル(約13.5㎞)に位置する住宅街。

 家を飛び出した息子の名はサミュエル。

 年齢は14歳で、大学に通っている秀才。

 銃を持って家を出たと言う事だったので、行先に心当たりはないかと聞くと母親は、大学かも知れないと言った。

「大学とは、いったい何処の大学ですか⁉」と、聞くと母親は「コロンビア大学です」と悲痛な叫び声を上げた。


 合格率4~6パーセント、大学の世界ランキングで常に20位以内の超難関大に14歳という年齢で通っている自慢の子供。

 その一生が犯罪という形で、駄目になるかも知れない瀬戸際。

 俺が同じ立場でも、同じような声を上げて誰かに助けを乞うだろう。


 携帯電話をハンズフリーにして外出の用意をしながら、母親に落ち着くように言い、先ずその子の写真を送るように言った。

 送られてきたのは、どう見てもまだエレメンタリースクール(小学校)に通っているような幼過ぎる写真で、この写真は3年前に撮影したものだと母親は言った。

 小さな顔に大きなメガネを掛けたその様は、まるで漫画やアニメに登場する天才児そのもの。

 その子が、カメラに向かって無邪気な笑顔を見せていた。

 最近撮影した写真を送るように言うと、子供が嫌がってこれ以降の写真は無いと答えた。

 防弾ベストを着終わり、その上にシャツを着たあと拳銃を持って行くべきかどうか迷い子供が持ち出した拳銃の種類を聞くと母親はケルテック PMR-30だと答えた。


 ケルテック PMR-30……この銃は22口径ながらマガジンには30発もの銃弾を収納することができ、まるでフルオートのマシンガンのようにも撃てる。

 まったく厄介な銃を持ち出したものだ。


「ところでご主人は?」

「主人は、いま出張先から空港に向かっている所です」

「空港? どこの空港ですか?」

「サンディエゴ国際空港です」


 サンディエゴからニューヨークまでは直線距離で2400マイル(約3862㎞)以上もあり、フライトは朝と夕方に偏り、昼の便は殆ど無かったはず。

 ニューヨークの現在時刻は10時50分。

 ニューヨークとサンディエゴの時差は3時間あるから、向こうはまだ7時50分となる。

 これから支度をしてホテルから空港に向かってギリギリ朝の便に乗れたとしても、フライト時間は直行便でも5時間40分もかかる。


 つまり事件は父親の帰りを待ってくれないと言う事だ。


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