【1番街の荷降ろし場②(The loading dock on 1st Street)】
車の中で待機させていた後輩のボブが、俺に応援が来るまで待つように言ったが、今はマンハッタンから行き来する渋滞で道が渋滞するピークの時間。
俺は応援が来るまで待っていられるが、奴らはソレをおとなしく待ってはくれないだろう。
応援が到着したころにココに残っているのは、元の寂しいだけの朽ちた貸し倉庫。
倉庫は人間の代わりに、何も語たることはないだろう。
俺が言わなくても分かっていると思うが一応、マンハッタンのオフィスに居る刑事部の親分ピーター・クリフォード警部に連絡だけはしておくように言ってから俺は携帯電話の電源を切った。
これで、余計な事に耳を貸す必要から解放される。
船のエンジン音は近付くにつれてどんどん大きくなり、50ヤード(約45m)くらいまで近づいたとき急にエンジンの音が小さくなりアイドリングに変わる。
エンジン音に代わり、今度は今まで音もなく静かにしていた無人のはずの朽ちた貸し倉庫のシャッターがガラガラと軋んだ音を立てながら開き、数人の足音が聞こえた。
船側から接岸用のロープが投げられたのだろう、ムチでコンクリートを叩くようなパチンという音もした。
顔を覗かせれば、奴等が何をしているのかの一部始終は見える。
だが、コッチから見えると言う事は、向こうからも見えると言う事。
しかもコッチは1人で目は2つしかないのに対して、向こうは少なくとも5~7人ほどの人が居て、目の合計は10~14と桁がひとつ上がる。
意図的に覗く俺の目は確実に奴らの行為を捕らえることは出来るが、奴等の方は偶然俺を見つける可能性もある。
いま奴らに俺の存在を知られることは、応援を待つよりも悲惨な結果になることだけは俺にだって分かる。
折角荷物を降ろすために接岸しかけた船は沖合に、そして朽ちた貸し倉庫から出てきた奴らも何事も無かったように逃げてしまう。
そう、何事も無く。
荷物がない以上、証拠はない。
仮に倉庫で船を待っていた奴らの車から大金が出てきたとしても、そのことは何の意味もなさない。
奴らはカネを持っている。
ただそれだけのこと。




