【胡散臭い仕事の依頼②(Shady job requests)】
調べるのは簡単だが、それを調べてどうするのかと聞くと依頼人は、アイツをアメリカから追放してやる!と言った。
「旦那、違法移民と正式に分かっても、たとえソイツに小さな犯罪歴が有ったとしても、そう簡単に追い出す事なんてできませんよ」
俺が、そう話すと、依頼人は「ちっ、またか」と言って舌打ちをした。
ここニューヨーク州は不法移民にとても寛大な都市でロサンゼルスやサンディエゴと並んで聖域都市と呼ばれている。
何故寛大かは、彼らの格安の労働力や、どんな仕事でも受けなければ生きて行けないと言う弱みが大都市のニーズにマッチする。
大都市では兎に角物価が高いから、サービス業のような安い給料では誰も働いてくれない。
しかもサービス業は治安の悪くなる深夜まで営業している。
好き好んで安い給料でしかも危険が伴うなんて知っていれば誰も働かない。
だけど不法移民であれば、住む所を提供してやれば、そんな所でも喜んで働くだろう。
大都市と不法移民の関係は言ってみればWin-Winで成り立っている。
パラリーガル(弁護士補助職)は弁護士の指示・監督のもとで、事務作業や各種手続き、調査などを行う法律事務所のスタッフだ。
俺の依頼主は自分の職業などを明かさなかったが、アルベルト・グッデイレスが不法移民で犯罪歴が有るかどうかというより、パラリーガルであるグッデイレスの存在が邪魔ということなのだろう。
依頼人は頼むように言った。
アイツのせいで俺の会社は潰されてしまうんだ!と。
そして前金として1000ドル払うから、請け負ってくれと泣きついてきた。
よほど後ろめたいことがあるに違いないが、それは俺が詮索することじゃない。
俺は依頼人から前金の1000ドルを受け取った。
たった1000ドルかと思ったが、この1000ドルが依頼人にとってどういう金なのかと言う事は札を見て直ぐに分かった。
新品の札もあれば、くしゃくしゃになった札もある。
どう見ても銀行で降ろしてきた金ではなく、あっちこっち歩き回って工面してきた金に違いない。
俺の依頼人は見た目と違って、意外に誠実な奴なのかも知れない。
だが誠実不誠実に関わらず、依頼を受け前金をもらった以上、俺は真直ぐにミッションに向き合うだけ。
殺し屋みたいだけど、これが公務員と違う民間企業のWin-Winと言うモノなのだ。




