【ダーティー・マックス(Dirty Max)】
裁判に駆り出された後も署内の査問委員会でコッテリ絞られた。
何で麻薬密売ルート1件の解決に貢献した俺が、しかも身内から目の敵のように絞られないといけないんだ?
もしかしたらNY市警自体が麻薬密売ルートと密接な関係でもあるのかと疑いたくなるような錯覚に陥る。
「マックス! アンタどういうつもり⁉ そんなに戦争がしたいのなら、刑事を止めて軍人になればいいのよ‼」
更に厄介なことは、同棲しているミランダもアノ事件以来不機嫌極まりない事が俺の心に追い打ちを掛ける。
ミランダには前の旦那との子供が1人いる。
子供はまだ7歳。
旦那は元交通課の白バイ隊員で、5年前に逃走車を追跡中に交差点から飛び出してきた車と接触して殉職している。
刑事としての華々しい活躍は死と隣り合わせであり、多感な7歳の子供への影響も考えると俺にあまり派手な事をして欲しくないと思う気持ちも分かる。
だが刑事である以上、俺はベストを尽くさなければならない。
そう、刑事として続けるなら……。
俺は一時的に捜査から外されてしまったが、ピーターが根気よく犯人たちを個別に尋問して奴らの親玉に繋がる事実を突き止めてくれたおかげで、事件は大きな成果を上げることが出来た。
ピーターの尋問術と、その分析力はまさに神業。
事実と言うやつはナカナカ変えようがないが、嘘と言うやつは角度や視点を変えることによって矛盾が生じてしまう。
そして嘘の裏側には必ず事実が隠されている。
彼は根気よく尋問を続け、隠されていた事実を見つけ出した。
ピーターはそのことを自慢するでもなく、俺の手柄のように上層部に報告した。
つまり俺が犯人の誰一人として殺さなかった事によって、得られた情報だと。
ピーターの言葉を真に受けた上層部は、手の平を返すように俺をヒーローだと褒めたたえた。
だが彼ら上層部のキャリア組の奴らは知らない。
一度失われた信頼関係を元に戻すことの難しさと、ピーターの類まれなる尋問術を。
エリートのお前たちが何年尋問したとしても、ピーターが暴いた事実を見つけ出すことはできなかっただろう。
ご機嫌な上層部の連中と共に手の平を返したのはマスコミだった。
新聞の見出しには “NYのダーティーハリー、麻薬カルテルを一網打尽‼” と書かれていた。
誰がダーティーハリーだ?
そもそもハリー・キャラハンはサンフランシスコの刑事と言う設定じゃないか。
しかも俺は事件の最初の部分しか携わっていないばかりか、犯人たちに告訴されマスコミや上層部に叩かれて干されていたというのに……。




