【1番街の荷降ろし場①(The loading dock on 1st Street)】
ブルックリン西部にあるアッパー湾に面した寂れた港の1番街。
今は殆ど使われていない荷下ろし場の一角。
あちこち剥がれたコンクリートの道に、窓ガラスが割られたままの貸倉庫、潮風にヤラレて赤黒く錆びた鉄骨。
物影に隠れて置かれた車。
この場所には赤く燃えた寂しい太陽と、強い風それにトレンチコートと煙草が良く似合う。
車のドアが開き、運転席にいた男が降りる。
男は朽ちかけた建物の角までユックリと歩を進めると、角の手前で止まった。
トレンチコートの襟を立て、背中を壁に押し付け首を直角に曲げ、角の向うの様子を窺うように覗き見る。
だが角の向うには人も車もなく、あるのは朽ちかけた貸し倉庫と船の泊まっていない埠頭だけ。
男はコートのポケットに手を突っ込むと、1本の煙草と銀色に光るブリキ製のライターを取り出して火を点けた。
白い煙が灰色の雲に掻き消されてゆく。
遠くから船が近付いて来る。
船の姿は見えない。
船は警備の厳重な南からの侵入を避けて、比較的警備の緩いロードアイランド島の北に出て、東からイースト川を抜けて来た。
男は自分が思っていた通りに事が進んでいることに口角を上げ、吸いかけの煙草を携帯灰皿に押し込むと、代わりにコートの中から拳銃を取り出した。
M1911。
コルト社製、強力な45ACP弾が使用できる通称ガバメントと呼ばれるモデル。
男はM1911の撃鉄を起こし、安全装置を降ろし、インカムで話した。
「現行犯で押さえる」と。




