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帝国一の治癒師リリアン・アナベルは 今日も仕事を選べない   作者: 織子


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6ー引っ越し②

リリアンが公爵邸へ行くことを決めた次の日には、小屋の前に立派な馬車が到着した。

ロヴェルが風を使って便りを送ったと言っていた。

「公爵家の人たちは仕事が速いのね······」

豪華な馬車を見上げながらリリアンは呟いた。


小屋から荷物を運び込むように指示をしているのはカインツだ。

「リリアン様、ロヴェル様は用事があり一足先に発たれました。我々はのんびり行きましょう」


(貴方、ロヴェルの護衛なのでは?)

ロヴェルの護衛は他の騎士に変わったのだろうか?カインツは昨日より生き生きしている。


リリアンは小屋のポストに、エルジェとネリーあての手紙を残し、小屋を出発した。


3度ほど住処を移しているが、今回の引っ越しは今までになく意気揚々としていた。


リリアンは隣に立つビビの足を見た。

視線に気づいたのか、ビビは言った。

「調子がいいよ。痛みをほとんど感じない」


ビビの足には、リリアン達が見つけてきたコカの葉を混ぜた薬が貼ってある。


ロヴェルが大丈夫と言ったので、髪も染めなかった。前世を思い出した時に驚いた薄紫の髪色。驚いたものの、紫は前世から好きな色だ。染めなくていいなら、その方がいい。


ビビの足も調子が良いし、自分の髪も染めなくていい。リリアンは機嫌よく馬車に乗り込んだ。



馬車に揺られること3日。途中の宿で休憩しながら、ようやく公爵領に入った。


馬車の中で、門を通る寸前、もにょっとした違和感を感じた。

「わっ?何、今の」

一瞬だったのでリリアンが不思議そうにしていると、ビビが関心して言った。

「感じたかい?今のが結界の中へ入った証拠だよ。分かる人には分かるが、常人には違和感すら感じないはずだ。実に素晴らしい技術だ。500年も経てば人も進化するのだね」


「え?リリアン様も何か感じたのですか?私はいつも何も感じませんよ」

公爵領の説明をしようと、少し前から同乗していたカインツが驚いて言う。

「やはり魔力が高いからでしょうか?私は魔力はあまりありませんので······あ、街が見えてきましたよ」


カインツが言うと、リリアンはパッと外を見た。


赤茶色のレンガ作りの家々が見えてきた。

前世でいう中世ヨーロッパの街並みのような、統一感のある美しい街並みだ。


「中心地にシュヴァルツの邸宅があります。もう部屋の準備は出来ているはずなので、今日はゆっくり休めますよ」


道中の宿でも、十分に休息は取れた。ぼんやり街並みを見ながら、リリアンはちょっと不安になってきた。

(ロヴェルには会えるのかな?公爵様となると、もう気軽に会えないのでは?)

小屋でロヴェルと呼び捨てにして、とても気安く接していた。

(次に会ったら、公爵様と呼ばないとね)

そう考えた時、少し寂しさを感じた。









公爵邸が見えてくると、リリアンは先ほど寂しいと感じた自分を恥じた。

(何を身近に感じちゃってたの私。ロヴェル·······いや、公爵様は遥か彼方の遠い方だわ)


広い敷地と(公園なの?)壮厳さを感じる邸宅(お城じゃないかしら)を見て、完全に尻込みした。

5年前に、暮らしていた教会も、広く豪華だと思っていたが、比べ物にならない。


クラクラするリリアンを尻目に、ビビはさっさと馬車を降りていた。

「お嬢様、どうぞ」

カインツが手を差し伸べている。

(お嬢様?)

馬車から騎士にエスコートされて降りるなんて、リリアンをお嬢様に仕立て上げる気だろうか?


大勢の使用人が出迎えている前で、カインツに恥をかかせるわけにはいかない。短い間だったが、教皇なんて身分を賜っていたのでエスコートにも慣れている。


リリアンはカインツの手に引かれ、ふわりと馬車から降りた。


前を向くと、30人程の使用人が頭を下げている。

リリアンは馬車に戻りたい気持ちを抑えて、カインツに付いて邸宅に入った。


「はじめまして。私は執事のバルトと申します。何なりとお申しつけください。そちてこちらが侍女長のアンリ、奥に控えておりますのがお嬢様に専属でお使えさせていただくメイドのラナでごさいます」

執事は次々と紹介してくれる。リリアンはすでにいっぱいいっぱいでとりあえず笑顔を貼り付けている。


(侍女長?私に紹介する必要があるかしら?専属メイド?必要ないけれど······それより師匠はどこに行ったの?)

見えるところにビビもカインツもいないことに、リリアンは内心慌てた。


「バルトさん、とりあえず紹介は明日にしては?まだまだ紹介する方々はたくさんいるのですし。お嬢様は長旅でお疲れです。お部屋にご案内しましょう」

カインツがリリアンの荷物を持ってきてくれた。


リリアンはカインツの登場に思いのほか喜び、傍にピタリと張り付いた。

カインツは嬉しそうに微笑む。


「おや、私としたことが失礼致しました。お嬢様のように可愛らしいお方が来てくれたことが嬉しくて。お部屋はこちらですよ」

執事のバルトは言葉通り嬉しそうだった。

(私みたいな見るからに平民に、どうしてこんなに嬉しそうにしてくれるのかしら)


「ビビ様は馬車から降りてすぐお部屋に行かれました」

カインツが教えてくれた。

ビビのどこでも我が道をゆく性格は、エルフ故か、本人の性質か。


案内された部屋は落ち着かないほど広く豪華だった。ビビと同じ部屋に案内されると思っていたリリアンは、部屋を替えてほしいと願い出たが、通らなかった。


侍女長のアンナとメイドのラナは、気に入らないのなら部屋の装飾を替えると言い出し、これより狭い部屋には通せないとカインツも譲らなかったからだ。


さらに、着替えとお風呂を手伝うと言うラナとアンナを、リリアンはなんとか下がらせた。


そして大きな大きなベッドに突っ伏した。


落ち着かないとはいっても、ふかふかのベッドにふわふわの布団だ。リリアンは突っ伏して数秒で眠りについた。

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