終話ーロヴェルからの贈り物
聖神国でナタリアで別れをつげ、ポータルでシュヴァルツに戻る。ポータルの移動にもだいぶ慣れてきたものの、未だ酔うし足元もふらつく。その為、いつも階段の下に騎士が控えており手を差し伸べてくれる。
「ロヴェル!」
今日階段下で手を差し伸べてくれたのはロヴェルだった。
「帰ってきてたの?今日は早いのね」
リリアンは嬉しくてポータル酔いは吹き飛んだ。
「ああ。少し気分が悪そうだな?風に当たって帰らないか?」
ロヴェルは馬車とカインツ達を先に帰し、リリアンを抱き上げた。ふわりと風にのり、高く空を昇る。
最初は空の景色を楽しんでいたリリアンだったが、いつもより高く昇るロヴェルにしがみつき、少し震えた。
「ロヴェル?ちょっと高すぎて怖い」
「あ、すまない。少し高度を下げよう。怖かったら目を瞑っててくれ」
落ちないとは分かっていても、恐怖には勝てずリリアンは目を閉じた。
❉❉❉❉❉❉
リリアンにとって一瞬のつもりだったが、目を開けると辺りが暗い。しかも2つの月まで出ている。
(えっ私、寝てた?)
硬直していると、ロヴェルが覗き込んだ。
「起きたか?」
景色と地面の感触から推測すると、リリアンは草むらで横たわり、ロヴェルの膝に頭を預けていた。ロヴェルがリリアンの頭をやさしく撫でた。
起き上がろうとも思ったが、視界にロヴェルの顔が見えて、更に2つの月も見える。リリアンは微笑って呟いた。
「···綺麗」
「ん?ああ、月が見えるな」
ロヴェルは上を見上げて納得した。
「月もだけど、ロヴェルも、空も。全部よ」
ふいにロヴェルが視界を塞ぎ、キスをした。軽く触れるようなキスだったので、リリアンは物足りなく思った。
我知らず顔が不機嫌になったのか、ロヴェルが軽口を言いながら謝った。
「同意なくすまない。一番綺麗なものが見えたから」
「違う。もっとしてほしいなって思った···だけ···」
(ん?私今すごいこと言ってない?)
言いながら顔が赤くなる。訂正したかったが、遅かった。
ロヴェルはすぐにリリアンを抱き上げ腕に収めると、深くキスをした。リリアンが目を開けると、ロヴェルは目を閉じていないことに気づき、更に顔に熱を持つ。ロヴェルの金の眼に熱が籠るのを見ると、リリアンは胸が締め付けられるのだ。
(うう。ロヴェルのこの眼が好き。この眼でもっと見てほしい)
とはいえ、そろそろ苦しい。ロヴェルの続く息と、リリアンの息が違う事をロヴェルは分かっているのだろうか?
ロヴェルの胸に手を当て、ちょっと待ってと意思表示する。その手に気付いているはずなのに、ロヴェルはなかなか止めてくれなかった。
リリアンは解放されている左手でバンバンと叩いた。ロヴェルもさすがにそこで止まった。
「うう、ロヴェル。苦しいよ」
涙目になっているリリアンと、自分の勢いに後悔したのかロヴェルはパッと腕を放した。
「す、すまない。本当にすまない。止められなかった」
止められなかった自分に戸惑い、ひたすら謝る。
真っ青になり慌てているロヴェルに、リリアンも涙目のまま微笑った。
「ふふ。そんなに謝らなくても」
ここまで慌てるロヴェルは見たことがない。
「ん?」
ふと、手に違和感を感じた。視線に入った左手を見て絶句した。
「えっ」
左手の薬指に、見知らぬ指輪がはまっていた。中心に置かれたダイヤモンドが輝きを放っている。
「ロヴェル、これ···」
目を真ん丸にして魅入っていると、ロヴェルが言った。
「もう少し落ち着いて見せたかったのだが、思った様に行かないな。婚約を記念とした物だ。受け取ってほしい」
婚約指輪という概念がこの世界にもあるなんて。
「綺麗···ありがとうロヴェル。婚約指輪を貰えるなんて思ってなかった」
「ああ。一般的ではないが、母が信仰していたマリ教では婚約の際に送るものなんだ。生前、母がよく婚約の指輪を見ていたから、私も自分の相手に贈ろうと思ってな」
ロヴェルは前を向いた。
「リリアン。この指輪と、シュヴァルツの名に誓って、君に負担をかけ過ぎないよう努力しよう。大公妃になってもらえるだろうか?」
リリアンがロヴェルの視界を追うと、シュヴァルツの広い土地が見えた。遠くまで見渡せる高台で、2人は座っていた。
ロヴェルは更に言った。
「もちろん。治癒師は続けてかまわない」
「えっ」
大公妃でありながら、治癒師であるなんて聞いたこともない。
「それはちょっと、周りが許さないのでは?」
「公国は私の国だ。私が許すからかまわない」
「貴族だけじゃなくて、平民たちも治していいの?」
「もちろん」
「ふむ···」
すぐに返事をするつもりだったのに、リリアンはわざとらしく考えた。
ロヴェルは真摯に見つめているが、少し冷や汗が出てきた。
「リリアン···」
力のない声に流石に申し訳なくなり、リリアンは口を開いた。
「なるよ。大公妃。当然でしょ。ロヴェルのお嫁さんになるんだから」
にっこり微笑って言うと、ロヴェルはくしゃりと顔を崩した。リリアンはその顔をもっと見ていたかったが、すぐに抱き寄せられて見えなくなった。
「ああ。良かった」
リリアンはロヴェルの肩越しに、今は見慣れた二つの月を見た。
あの頃、焦がれた月が今はこんなに近くにある。
目を閉じてロヴェルの肩に顔を埋めた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
これで完結となります。このお話は書き始めたのが2年前、コロナ期でした。途中、半年ほど書けず置いておき、他の話を書いたりしながら、完結していない状態で投稿を始め、叱咤しながら書きました。
完結していない話を投稿するのは、自分でも挑戦でしたが、結果良かったです。何度も読み直して向き合いながら、納得行く完結まで持っていけたと思っています。
ブクマやいいねなどとても励みになりました。
このお話を見つけてくれた皆様に心から感謝致します。




