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帝国一の治癒師リリアン・アナベルは 今日も仕事を選べない   作者: 織子
第二章

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終話ーロヴェルからの贈り物


聖神国でナタリアで別れをつげ、ポータルでシュヴァルツに戻る。ポータルの移動にもだいぶ慣れてきたものの、未だ酔うし足元もふらつく。その為、いつも階段の下に騎士が控えており手を差し伸べてくれる。



「ロヴェル!」

今日階段下で手を差し伸べてくれたのはロヴェルだった。


「帰ってきてたの?今日は早いのね」

リリアンは嬉しくてポータル酔いは吹き飛んだ。


「ああ。少し気分が悪そうだな?風に当たって帰らないか?」


ロヴェルは馬車とカインツ達を先に帰し、リリアンを抱き上げた。ふわりと風にのり、高く空を昇る。

最初は空の景色を楽しんでいたリリアンだったが、いつもより高く昇るロヴェルにしがみつき、少し震えた。


「ロヴェル?ちょっと高すぎて怖い」

「あ、すまない。少し高度を下げよう。怖かったら目を瞑っててくれ」


落ちないとは分かっていても、恐怖には勝てずリリアンは目を閉じた。




 ❉❉❉❉❉❉


リリアンにとって一瞬のつもりだったが、目を開けると辺りが暗い。しかも2つの月まで出ている。


(えっ私、寝てた?)

硬直していると、ロヴェルが覗き込んだ。


「起きたか?」


景色と地面の感触から推測すると、リリアンは草むらで横たわり、ロヴェルの膝に頭を預けていた。ロヴェルがリリアンの頭をやさしく撫でた。

起き上がろうとも思ったが、視界にロヴェルの顔が見えて、更に2つの月も見える。リリアンは微笑って呟いた。


「···綺麗」

「ん?ああ、月が見えるな」


ロヴェルは上を見上げて納得した。


「月もだけど、ロヴェルも、空も。全部よ」


ふいにロヴェルが視界を塞ぎ、キスをした。軽く触れるようなキスだったので、リリアンは物足りなく思った。


我知らず顔が不機嫌になったのか、ロヴェルが軽口を言いながら謝った。

「同意なくすまない。一番綺麗なものが見えたから」


「違う。もっとしてほしいなって思った···だけ···」

(ん?私今すごいこと言ってない?)

言いながら顔が赤くなる。訂正したかったが、遅かった。


ロヴェルはすぐにリリアンを抱き上げ腕に収めると、深くキスをした。リリアンが目を開けると、ロヴェルは目を閉じていないことに気づき、更に顔に熱を持つ。ロヴェルの金の眼に熱が籠るのを見ると、リリアンは胸が締め付けられるのだ。


(うう。ロヴェルのこの眼が好き。この眼でもっと見てほしい)


とはいえ、そろそろ苦しい。ロヴェルの続く息と、リリアンの息が違う事をロヴェルは分かっているのだろうか?


ロヴェルの胸に手を当て、ちょっと待ってと意思表示する。その手に気付いているはずなのに、ロヴェルはなかなか止めてくれなかった。


リリアンは解放されている左手でバンバンと叩いた。ロヴェルもさすがにそこで止まった。


「うう、ロヴェル。苦しいよ」

涙目になっているリリアンと、自分の勢いに後悔したのかロヴェルはパッと腕を放した。


「す、すまない。本当にすまない。止められなかった」

止められなかった自分に戸惑い、ひたすら謝る。


真っ青になり慌てているロヴェルに、リリアンも涙目のまま微笑った。


「ふふ。そんなに謝らなくても」

ここまで慌てるロヴェルは見たことがない。


「ん?」

ふと、手に違和感を感じた。視線に入った左手を見て絶句した。

「えっ」


左手の薬指に、見知らぬ指輪がはまっていた。中心に置かれたダイヤモンドが輝きを放っている。


「ロヴェル、これ···」

目を真ん丸にして魅入っていると、ロヴェルが言った。


「もう少し落ち着いて見せたかったのだが、思った様に行かないな。婚約を記念とした物だ。受け取ってほしい」


婚約指輪という概念がこの世界にもあるなんて。


「綺麗···ありがとうロヴェル。婚約指輪を貰えるなんて思ってなかった」

「ああ。一般的ではないが、母が信仰していたマリ教では婚約の際に送るものなんだ。生前、母がよく婚約の指輪を見ていたから、私も自分の相手に贈ろうと思ってな」



ロヴェルは前を向いた。

「リリアン。この指輪と、シュヴァルツの名に誓って、君に負担をかけ過ぎないよう努力しよう。大公妃になってもらえるだろうか?」


リリアンがロヴェルの視界を追うと、シュヴァルツの広い土地が見えた。遠くまで見渡せる高台で、2人は座っていた。


ロヴェルは更に言った。

「もちろん。治癒師は続けてかまわない」

「えっ」


大公妃でありながら、治癒師であるなんて聞いたこともない。

「それはちょっと、周りが許さないのでは?」

「公国は私の国だ。私が許すからかまわない」


「貴族だけじゃなくて、平民たちも治していいの?」

「もちろん」


「ふむ···」

すぐに返事をするつもりだったのに、リリアンはわざとらしく考えた。

ロヴェルは真摯に見つめているが、少し冷や汗が出てきた。


「リリアン···」

力のない声に流石に申し訳なくなり、リリアンは口を開いた。


「なるよ。大公妃。当然でしょ。ロヴェルのお嫁さんになるんだから」

にっこり微笑って言うと、ロヴェルはくしゃりと顔を崩した。リリアンはその顔をもっと見ていたかったが、すぐに抱き寄せられて見えなくなった。


「ああ。良かった」



リリアンはロヴェルの肩越しに、今は見慣れた二つの月を見た。

あの頃、焦がれた月が今はこんなに近くにある。


目を閉じてロヴェルの肩に顔を埋めた。


















ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


これで完結となります。このお話は書き始めたのが2年前、コロナ期でした。途中、半年ほど書けず置いておき、他の話を書いたりしながら、完結していない状態で投稿を始め、叱咤しながら書きました。


完結していない話を投稿するのは、自分でも挑戦でしたが、結果良かったです。何度も読み直して向き合いながら、納得行く完結まで持っていけたと思っています。


ブクマやいいねなどとても励みになりました。


このお話を見つけてくれた皆様に心から感謝致します。

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