62ー戦いのあと
「これだけの人数を連れて行くなんて、ケンカを売ってるようなものよ。戦争になったらどうするの」
慌てるリリアンに、エドガーが笑いながら言った。
「ははは。大丈夫ですよお嬢様。トップがいない組織にそんな度胸ありません」
「そうですよ。今の教会とシュヴァルツはそんなに戦々恐々とした雰囲気でもないので、心配なさらないでください」
ラナも付け加える。
リリアンは納得出来ない。
(いやいや、そうじゃないでしょ。私が言いたいのは、お見舞いに行くのにこんな人数引き連れて行きたくないから言ってるのよ?)
ナタリアを見舞うため、聖神国に行くだけだ。そのつもりで外に出たら、ラナとエドガー、他に騎士が20名程整列して待っていた。
リリアンは頭を抱えた。
「騎士は護衛として連れて行くと言ったけど、騎士団を引き連れて行くとは言ってないわよ」
「しかし閣下のご命令なので」
引き下がらないラナとエドガーに、リリアンは後ろを振り向きバルトに助けを求めた。
バルトは少し思案して言った。
「ヨイテ卿を呼びましょう。ラナ卿とエドガー卿、そしてヨイテ卿まで付いて行くなら、閣下も納得されるでしょうから」
バルトの提案でリリアンはシュヴァルツの精鋭3人を引き連れて聖神国に行くことにした。
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「リリアン。よく来てくれましたね」
ポータルで聖神国に移動し、中央神殿ではなくドミナート侯爵邸に訪れた。
邸宅の前でナタリアが出迎えてくれた。
「ナタリア!もう外に出て大丈夫なの?」
前回会ったのは毒にうなされて生死をさまよう姿だった。血色が良くなり笑顔で迎えてくれたことが嬉しくて、リリアンは挨拶もせずにナタリアに駆け寄った。
ナタリアも喜び、手と手を握る。
「ありがとうリリアン。何度お礼を言っても足りないわ」
「本当に心配したのよ。元気になって良かった」
ナタリアの横に見慣れない人物が立っている。ナタリアと同じ、燃えるような赤い髪にリリアンは気付き、慌ててカーテシーをとり挨拶をした。
「申し訳ありません。ご挨拶が遅れました。この度はご招待いただきありがとうございます。ドミナート侯爵」
ナタリアの兄は微笑んだ。
「フォルツナー嬢。貴方は妹の命の恩人です。そんなに畏まらないでください」
ナタリアの兄であるドミナート侯爵は、次期教皇の最有力候補だ。エルディウスが失踪して一月が経つ。このまま戻らなければ、彼が教皇になるだろう。
あの日、リリアンが倒れる少し前に、エルディウスとした会話を思い出した。
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『僕は帝国を出るよ。手に入らないものに執着し続けるのは無意味だからね。僕は皇帝のようになりたくない』
エルディウスはリリアンの覚えのある、諦めた笑顔をして言った。
『でも最後にこれだけ。リリィ、僕と一緒に来ない?』
その言葉で、ようやくエルディウスの気持ちがリリアンも分かった。
『ごめんねエル。私は行けないわ』
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(――エルディウスはもう戻って来ない。ドミナート侯爵が良き教皇になることを願うわ)
「リリアン?どうしたの?」
ナタリアに勧められ、ドミナート邸のテラスでお茶をしていた。ぼんやりしていたリリアンにナタリアが心配そうに声をかける。
リリアンはエルディウスの事を考えていたとは言えず、他の事を口にした。
「えっと、せっかくナタリアと仲良くなれたのに、ナタリアはもう少しで皇后になるでしょう?今のように気軽に会えなくなるなって‥‥」
言葉にすると、更に気持ちが沈んだ。思っていたよりずっと、ナタリアとの関係が自分の中で大きくなっていたらしい。
ナタリアはきょとんとして、すぐに明るく言った。
「私が皇后になったとしても、リリアンは大公妃になるのですよ?私にリリアン以上に気軽に会える人がいるとすれば殿下だけです」
リリアンはカップを持ち上げたまま固まった。
《大公妃》。恐れ多すぎるが、ロヴェルと結ばれるということは、そういうことなのだ。
ロヴェルと皇太子による反乱は、前皇帝の恐怖政治に終止符を打つ革命として称えられた。
皇太子は皇帝に即位後、ロヴェルを大公へと昇爵させることになる。
「わ、私に務まるかしら」
リリアンが呟くと、ナタリアは微笑んだ。
「大公妃は分からないけど、閣下の妻はリリアンしか務まらないでしょうね。それとも、誰かに譲るつもりがあるのですか?」
そう言われると、大公妃だろうとなんだろうと、務めるしかない。リリアンはごくりとお茶を飲んで言った。
「ないけど」
「ではお互い頑張りましょう」
ナタリアはにっこり微笑っている。力強さすら感じる微笑みに、リリアンも自然と微笑った。
「これからもよろしくねナタリア」




