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帝国一の治癒師リリアン・アナベルは 今日も仕事を選べない   作者: 織子
第二章

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61ー女神の懺悔

白い空間。もはやこの空間には馴染みがある。


3度目ともなると、リリアンも慌てなかった。

辺りを見渡すと、白くて丸いテーブルと、椅子が2つ。

(あら。椅子があるのは初めてね)


椅子に座ると、飲み物が入ったティーカップが現れた。

「えっ」

(これは、飲んでいいもの?)

固まっていると、向いの椅子が白く光った。更に輝きが増す。


『妾の娘。飲んでもよいぞ』


リリアンは堪らず言った。

「女神様、眩しすぎます。飲めません」


椅子の輝きが少しずつ収まり、人の形をかたどった淡い光が残った。


リリアンは収まった光に安堵して、恐る恐るカップを口に運ぶ。······無味無臭だ。


『感謝する。娘よ』


リリアンが顔をあげると、女神は語り始めた。


『妾はまだ若輩じゃ。神としては赤子のようなもの。数十年前、女神マリから受け継いだこの世界、この眼に映そうと下界へ降りた。一人の幼子に会った。美しい金の髪と金の眼をしていた。まんまるの眼で私を見て、微笑んだものだから、私も微笑み返した。ただそれだけ。――妾は知らなかった。女神の魅了の強さを。それ以来、娘たちの前に現す時は姿を見えないようにした。もう下界には降りぬ。妾が無知だった故に、何年も子らには苦労をかけた』


リリアンは何と答えたらいいのか分からない。


『そなたには妾の願いを聞いてもらった故、そなたの願いも1つ叶えよう。なにかあれば申せ』


(女神様の願い?伝言を伝えたことかしら)


ただ伝えただけ。願いを叶えてもらう程の事では到底ない。

(ても、女神様にしか出来ないことがあるわ)


「では、女神様に頂いた私の魔力、少しお返し致します。私が使うには多すぎますので」


『そうか。たしかに多すぎたかもしれぬ。分かった。半分ほど返してもらおう』


重荷だったものが、リリアンからスッと抜けた。それでもまだ人よりは多いのだろうが、人より大いだけだ。

リリアンはカップを置き、女神に言った。

「ありがとうございます。シャマルアーソ様」





❉❉❉❉❉❉


目を開けると、公爵邸の天井だ。


リリアンはベッドから降りてカーテンを開けた。


コンコン。

「どうぞ」

「おはようございます。お嬢様」

「カーラ」


カーラの朝の挨拶も、久しぶりな気がする。


「今日は聖神国へ行かれるんですよね?」

「うん。ナタリアのお見舞いに」


身支度をして食事に向かうと、ビビが座っていた。

「やぁ。リリアン。気分はどうだい?」

「おはよう。師匠。ちょうど良かった。お話したい事があります」


「ふむ?」

ビビは不思議そうな顔をした。

「座ってくれ。朝食を取りながらゆっくり聞こうじゃないか」



リリアンは先ほどの夢で、女神に会った事を話した。

ビビはしばらく静かに聞いていた。


「確かに、魔力量が減り、魔力溜まりも小さくなっている。なんとも神秘的なものだ。魔力が女神に還るとは」

関心するビビの言葉に、リリアンは頷いた。

「そうですよね。私もなんだか気持ちが軽くなった気がします」

「人間離れした魔力の持ち主ではなくなったな」

「人を怪物みたいに言わないでください」

軽く睨むと、ビビは微笑った。


「さて。私は先に失礼するよ」

「研究室に行かれますか?」

「いや、今日は里に戻る。魔力回復薬の副作用をもう少し減らしたいからね」


ビビは手を振って部屋を出た。

あの日、リリアンが飲んだ魔力回復薬には副作用があった。皇帝との一件が終わってすぐに倒れ、2日意識が戻らなかった。魔力を無理やり回復させたので、魔力回路に異常が起きた為だとビビに後から聞かされた。



控えていたバルトが言った。

「お嬢様。食後のお茶を飲まれますか?」

リリアンはにっこり微笑った。

「ええ。お願い」

そしていつものように尋ねる。

「えっと、バルト。ロヴェルは?」


バルトは申し訳なさそうに答えた。

「閣下は今日も朝から皇城へ登城なさっております。夕刻には戻られるかと」

「そうなのね」

分かっていても、しょんぼりしてしまうのだ。



皇城は今てんやわんやだ。近日新しい皇帝の即位式が控えているのもある。テオドランはもともと公務をあまりしなかった前皇帝の変わりに、ほとんどの公務と雑務を取り仕切っていたので、公務に支障が出ることはなさそうだ。

むしろ皇帝の監視がなくなり、のびのびと公務をしていると聞く。


そして昨日。皇室騎士団団長だったアーサー・ツエイクが、皇帝の頭部を抱えたまま国境近くの森で息絶えているのが見つかった。ロヴェルも事後処理と確認のため朝から皇城に出向いたようだ。


「ツエイク卿は、陛下を連れてどこへ行くつもりだったのかしら」

リリアンの呟きに、バルトは下を向いて答えた。


「アーサー・ツエイク卿は、実は陛下の腹違いの弟君なのです。母がメイドだった為、皇籍に名を置いていませんが。彼にも思う所があったのでしょう」


「そうなのね···」

(最後のあの時、ツエイク卿は'兄上'と言っていたのね)



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