57ー反乱②
皇帝が消えてからしばらく、リリアンは呆然としていた。
「リリィ?大丈夫?」
エルディウスの声に我に帰る。
「エル····貴方本当に教皇だったのね。皇帝に逆らったの?」
「まぁ···うん」
歯切れの悪い返事だ。エルディウスにエルの面影は少なく、エルと過ごした時間ももう何年も前になる。
(エルはこんな印象だったかしら?もう思い出せない)
「ナタリアの毒はどうなったの?あれからの記憶がないの···ですが」
リリアンは敬語に戻した。ボロボロの姿と話し方で失念していたが、エルは教皇だった。
「ドミナート嬢の毒は解毒されたよ。僕が最後に見た限りでは、数日すれば意識も戻るだろう。···それと、敬語はいらないよ。おそらく僕は教皇ではなくなったから」
「え···?」
とにかく聞きたい事は多々あるのだけど、エルディウスの状況が気にかかる。
(なぜ拘束されているの?)
それに怪我をしているようだし、手当てもされていない。
小さくため息を吐き、リリアンはベッドを降りた。
先ほどよりだいぶ身体が動く。全く感じなかった魔力も、少し感じるようになった。
リリアンの部屋と、エルディウスのスペースの間には鍵の掛かった格子の壁がある。
「動けるんだね?」
エルディウスは安心したように言った。が、すぐに慌てた。
「待ってリリィ!格子に近付かない方が良い。魔力を吸い取られてしまう」
(ふむ。近付くと魔力が吸い取られる仕組みなのね。道理で見張りもいないはずね)
試しに鍵に手をかざしてみた。
「やめなって!ただでさえ体内の魔力量が減ってるはずだよ!また倒れるぞ···え?」
エルディウスも驚いたようだ。格子の鍵は、パキリと割れた。
呆気に取られているエルディウスを前に、リリアンは鍵の外れた扉を開き、エルディウスに近付いた。
「そんなに驚くこと?」
「うん···。だって君は魔力切れに近い状態で、僕に魔力封字をされた状態だったからね」
「魔力封字ですって?」
「うん」
(どうしてエル···教皇だった彼が私に魔力封字なんて)
「拘束を解いてあげるから、この状況を説明してくれる?」
❉❉❉❉❉❉❉
――3日前(リリアンとエルディウスが消え次の日)
公爵邸。
「見つけた」
ビビは3つの魔法陣の上に立ち、呟いた。
「どこだ?」
小さな呟きを聞き逃さず、間髪入れずロヴェルは聞いた。
「皇城だ」
ビビの言葉に騎士たちはざわめいた。
「皇城ですって?何故」
カインツが言うと、ヨイテが思案しながら応えた。
「おそらく、エルディウスの行動が皇帝にバレていたのでしょう。聖神国から出た所を捕縛されたのかと」
「ではお嬢様は無事なのでしょうか?」
ラナの声に、ビビが慎重に言った。
「いや、分からない。魔力反応は薄いままだ」
皆の顔が曇る。
「聖神国にいる皇太子に連絡を。確認させろ」
ロヴェルが言うと、数人の魔法師が伝達を飛ばした。
――エルディウスがリリアンを連れさってすぐに、ロヴェル達は公爵邸に戻った。
ヨイテの追跡魔術が使えないので、ビビに助けを求める為だ。
ビビはすぐに追跡をしたが、容易ではなかった。顔を曇らせ、痕跡を探る。
(皇城で反応するのは間違いないのに、とても薄い。隠されているな。嫌な予感がする)
「皇帝はリリアンを返す気がないかもしれない。何重にも膜がある」
ロヴェルは前方を睨みながら言った。
「ヨイテ。シュヴァルツ騎士団を呼び戻せ。頃合いかもしれない」
「はい」
ヨイテは一礼して下がった。
翌日、皇太子から一報が届いた。
『情報が入らない。遮断されている』
ロヴェルはヨイテとカインツと共に、執務室の机に広げた皇城の見取り図を睨んでいた。
「そうか。皇太子には聖神国に留まるよう伝えろ。――始めるぞ」
ロヴェルが言うと、2人とも小さく頷いた。
四方に指示を出し終えると、ロヴェルは自室で甲冑を身に着けていた。
コンコン
ノックの音を聞き、バルトが扉を開く。
「公爵。ポータルは開くのか?」
ビビが唐突に聞いた。
「いや、ポータルは閉じられた」
「ふむ。皇城までは無理だが、近くまで200人程度なら送れるぞ」
空間移動は高等魔術だ。皇帝と、わずかな魔術師しか使えない。
「いいのか?そんなに人族の争いに貫入して」
「奪われた弟子を取り返すだけだ。反乱の為ではない」
ロヴェルは恭しく頭を下げた。
「助かる。感謝する」
ビビは微笑んだ。
「感謝される謂れはない。だが1つ頼まれてくれ。この薬をリリアンに渡してくれ。なんの薬かは彼女が見れば分かる」
ロヴェルは差し出された掌サイズの小瓶を受け取る。
「かまわないが、公爵邸に戻ってからじゃ駄目なのか?」
「いつ必要になるか分からないからな。さて、人員を送る準備が出来たら言ってくれ」




