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帝国一の治癒師リリアン・アナベルは 今日も仕事を選べない   作者: 織子
第二章

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56ー反逆①


響く足音で目が覚めた。すぐに分かった。

(聖神国じゃない···?)

神聖な空気が微塵も感じられない。

(私が寝ている間にロヴェルが公爵邸に運んだのかしら?)


重たい瞼を開けると、見たことがない天井だ。身体が思うように動かず、首を動かすことも出来ない。

(ナタリアの治療に魔力を使い過ぎたみたいね)

それにしても、自分から魔力を感じられない。


(ロヴェルはどこだろう···)

リリアンは瞼を閉じると、また眠ってしまった。





❉❉❉❉❉❉


今度は目を開けていないのに眩しい。いや、眩しく感じるだけかもしれない。この白い空間には覚えがある。

(女神様?)


『少し妾の魔力をわけてやろう。あの子に伝えておくれ。そなたには会えぬと』



(あの子って?)





パッと目が覚めた。前回と違い、一瞬しか聞こえなかった女神の言葉は、実際に聞こえてきた兵士達の声でしばらく忘れることになる。


「どうなるんだ?この国は」

「どうもこうも。シュヴァルツが反乱を起こしただけだろう?何も変わらないさ」

「いくら公爵が化け物のように強くても、皇帝はそれ以上の化け物だ」

「おい、口に気を付けろよ」



「――っ?」

喉がカラカラだったおかげで声が出なかった。

ぼんやりしていた頭は、兵士達の発した不穏な単語ですっかり覚めた。


(反乱?反乱ですって?シュヴァルツが····ロヴェルが?)



兵士達の声が聞こえなくなると、リリアンは身体を起こした。身体は硬直していない。長く眠っていた訳ではなさそうだ。


部屋を見渡すと、格子が見えた。牢のようだ。

牢と言っても、地下の陰気な牢ではなく、明るく広さもある。リリアンが寝ているベッドも清潔だ。


(皇城の兵士が居たということは、ここは皇城?いつのまに連れて来られたの···?)


近くにロヴェルの気配がしない。リリアンはあっという間に心許なくなった。


「フォルツナー嬢···?起きられたのですね」

少し離れた場所から掠れた声がする。通路を挟んで向いの牢の中に人影が見えた。


長い銀髪。虚ろに光る紫の瞳。エルディウス教皇に間違いないのだが、リリアンは自然と違う名を呼んだ。


「エル···?」


エルディウスの虚ろだった瞳は一瞬見開き、すぐに輝いた。


「リリィ···僕を覚えて···?」



ガチャリと大きな音が聞こえて、重そうな扉が開く音が聞こえた。


「やぁ。丁度いいタイミングで来れたな。目が覚めたのかい?フォルツナー嬢。感動の再会を邪魔してすまないな」

入ってきた人物は全く悪びれた様子もなく、階段を降りてくる。



「皇帝、陛下」

掠れた声でリリアンが言うと、皇帝はニヤリと口を歪めた。


「このような場所に容れてすまないな。エルディウスがどうしても君が見える場所に居たいと聞かなくてな。同じ牢でも良かったんだが···ほら、君は公爵の婚約者だろう?婚約者以外の男と夜を共に過ごしてはいけないと思ってな」


「····?」

リリアンは状況が掴めない。エルディウスがぼろぼろな状態で牢に入れられているのも解せない。

(教皇と皇帝は手を組んでいたのではなかったの?)


「ここは高位貴族や王族が罪を侵した時に入る留置所だ。エルディウスが裏切った今となっては、君を公爵に返しても良かったんだが····」

皇帝は格子を激しく掴んだ。


「そなたから感じる魔力、あの方のものだな?」

金の眼が爛々と光っている。狂気を感じる眼に、リリアンの肌が総毛立つ。


「もはや公爵に返すことは不可能だ。公爵は君がここに居ると知ってすぐに反乱を起こした。私が返さない事が分かっていたのだろう」


「返すも、返さないも、私は公爵の婚約者です」


皇帝が出す不穏な空気に、リリアンは硬い声で言った。


「そうだな。婚約者が生きていれば返さなくてはならない。公爵を殺すか、そなたを殺した事にするか、どちらが手っ取り早いだろうか?」

皇帝は些末なことを悩むように首を傾げた。


「陛下は公爵が必要なのではなかったのですか?」

(怖い。冗談でもロヴェルを殺すなんて言わないで)


リリアンの問いに皇帝は淡々と答えた。

「必要だったが、新たに女神との繋がりを得た今となっては、そこまでではないな。公爵も反逆を表明した事だし、いい頃合いかもしれない」



ドーーン!


突然爆発音が響いた。近くではないようだが、建物が微かに揺れる。


「皇帝陛下」

気配なく現れた黒装束の男が、皇帝に耳打ちをした。皇帝は不気味に笑う。

「そうか。どこに出没した?」


「西門です。数は2百」


「思ったより少ないな。では反逆者の顔を拝みに行くかな」

そう言うと、皇帝は空間に吸い込まれるように姿を消した。









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