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帝国一の治癒師リリアン・アナベルは 今日も仕事を選べない   作者: 織子
第二章

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53ー解毒治癒


「――なんですって?」


リリアンは頭に熱が籠もるのを感じた。頭に一気に血が登っているのだ。

(ナタリアが毒?)

自分を引き入れるために、神殿はこんな馬鹿げたことをするのか。


(ナタリアからの便りが途切れたから、おかしいと思っていたけど)


震える声でリリアンは言った。

「·····彼女を、ここへ連れて来てください。今すぐに」


エルディアスは下を向いたまま応えた。

「それは出来ません。神聖力で満たした部屋で、毒の進行を遅らせています。動かすことができません」


(そんなに状態が悪いの?じゃあ今すぐにでも行かなければ――でも)

確実に罠であることはリリアンにも分かっていた。


(ここまで公爵邸の人達が、自分を神殿から守ろうと頑張ってくれたのに、自分から行くなんて。でもナタリアに何かあったら)


まるでロヴェルとナタリア、どちらかを選べと言われているようだった。リリアンは不安な瞳でロヴェルを見た。



「行っていいぞ」

抑揚のない、ロヴェルのいつもの声がした。


「えっでも····、でも絶対に裏があるよ?私を神殿に閉じ込める気かも···」


エルディアスは「心外な···」と笑顔で言ったが、それは無視した。


「問題ない。私が助け出すからな。治せる人は治したいのだろう?」

ロヴェルはまだ持っていたサレム司教の胸ぐらを離し、リリアンに向き直った。


「で、行くのか?」

リリアンは自然と頷いた。

「うん····」


「よし」

ロヴェルがニヤリと笑った。



1番反対すると思っていた人に、促されたのでリリアンは一瞬呆けた。


その間にロヴェルはテキパキと指示をしている。

「エドガー卿とラナ卿は付いてこい。ヨイテは第1をまとめて後から合流してくれ」


エルディアスも呆気にとられている。

「公爵がこんなにあっさりもお許しになるとは思いませんでした。大事になさっているのではなかったのです?」


ロヴェルは無視しようかと思ったがやめた。

「私は彼女が神殿を出た理由を知ってますので。同じ過ちは冒したくないのです」

皮肉を込めて言った。










ーーーーーーーーーーーーー


簡単に荷造りを済ませて、馬車に乗り込んだ。当然のようにロヴェルも乗り込むので、リリアンは驚いた。


「ロヴェルも行くの?」


ロヴェルがジロリと睨む。

「リリアン、まさか私が行かないとでも思ったのか?」


「いや、聖神国の人が公爵領に入れないから、公爵領の人も聖神国に入れないのかと」

「それは違う。入れないのは聖神国の者だけだ」


聖神国だけ一方的に公爵領に入れないなんて、聖神国は公爵領に何をしたんだろう。


今さらながら、聖神国と公爵領の関係を何も知らないことに気付く。


「リリアン、行くことを許したが、聖神国では私から常に離れるな。自由には動けないと思ってくれ」

ロヴェルに念を押され、リリアンは頷いた。



公爵領のポータルから、聖神国へ移動する。

聖神国は約10年ぶりだ。光属性の魔術を得意とする人たちは、聖神国の清らかな空気が落ち着くらしいが、リリアンにとっては逆だった。自分を閉じ込めようとするこの独特の空気に嫌悪感が走る。


(戻ってきた。でも、すぐに出ていくわ)



「こちらへ。フォルツナー嬢」

「お急ぎください」


中央神殿に着くと、数人の聖騎士が駆け寄って来た。

(ナタリアの部下かしら?慕われているのね)


ナタリアは中央神殿の一室で、神官たちに囲まれ眠っていた。神官たちが交代で神力を部屋に満たしている。


「フォルツナー嬢、来てくれたのか」


ナタリアの側に皇太子が立っていた。

「どうして皇太子殿下が···」


皇太子は顔色が悪い。見ればナタリアの手を握っていた。

(皇太子とナタリアが婚約してるのは知ってるけど、心配して憔悴するほどだったなんて)


皇太子はナタリアの側を譲るように一歩下がった。皇太子が気になるが、今はそれどころではない。ナタリアの状態は見るからによくなかった。土気色の顔色には生気がなく、呼吸も浅い。


寝ているナタリアに手をかざす。

(今まで治療したことのない物だわ)


「毒の種類は分からないのですよね?」

「ええ、数百と解毒をしてきた者ですら、見たことのないものだと」


「皇室には解毒の出来ない特殊な毒がいくつかある」

皇太子が呻くように言った。

「皇帝が盛った毒だ。特別なものだったのだろう」


(皇帝はナタリアを殺すことを諦めた訳ではなかったのね)


解毒はリリアンにとって不得手だ。それでも帝国にはこの状態のナタリアを治癒出来るのはリリアンだけだろう。リリアンは解毒をするのではない。毒を体内か取り除くだけだ。


(全身に巡っている毒物と血液を切り離して、弱った臓器を治癒しないといけないわ)


「·····すぐには終わりません。男性は部屋から出てください」


「婚約者である私もか?」

皇太子が渋ると、リリアンはピシャリと言った。


「治癒の際に衣類が邪魔になるのです。婚約者とは言え、彼女の承諾なしに素肌を晒したくありません」


「リリアン」

側を離れることを、ロヴェルも渋っている。


リリアンはため息を付いた。

「ヨイテに結界を張って貰って。それなら安心でしょう?」


皇太子とロヴェルを部屋から追い出すと、リリアンは3人の女性神官に指示を出して治癒を始めた。  



魔力をナタリアの全身に巡らせ、毒を取り除く。血管が毒によって爛れないよう、薄く薄く魔力で保護をする。神経がすり減るほど集中しなければ、臓器に傷が付く。

(この世界の魔術は、便利なものよね)

前世の現代医療では成し得ないことだ。


リリアンの鼻から血が流れる。あまりの集中に、部屋にいる神官は呼吸するのすら躊躇われた。


目の前が白くチカチカしてきたら、リリアンは深く呼吸をし、また集中してを繰り返した。

 




「―はぁ。全部は取れなかったわ。でもこれで大丈夫でしょう。取り除いた毒は研究所へ持っていくといいわ」

「フォルツナー嬢、お顔をお拭きになってください」

「あら、ありがとう」

リリアンは手ぬぐいで顔を拭き、部屋のドアを叩いた。


「ヨイテ、そこにいる?結界を解いていいわよ。終わったわ」


リリアンが籠もって13時間。

男性陣は動いてなかったようで、ドアの外からすぐに返事があった。





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