51ー招かれざる客①
4年前、女神の娘がシュヴァルツ公爵領に現れたと報告を受けた。
聖神国に属し、聖騎士であるエルディアスは、直接シュヴァルツ公爵領に確認しに行くことが出来なかった。だから、慎重にあらゆる方法で調査した。
ケルベロスの実でヘルハウンドを集め、混乱に生じて確認した姿は、間違いなく10年探し続けた少女だった。
「偉大なる皇帝陛下。神殿を掌握する対価として、賜りたいものがございます」
玉座の前に膝を付き、エルディアスは皇帝に言った。
「ふむ。予想はつくが、申してみよ」
冷めた眼で皇帝は見下ろしている。
「女神の娘を、神殿に返していただきたい」
「ほう?神殿に、なぁ」
にやりと笑い、語尾に含みを帯びて皇帝は復唱した。
自分の本来の目的は皇帝には暴かれている。かと言って言葉にはしない。
「いいだろう。まずは言葉通り神殿を掌握してみせよ
」
もともと、腐敗しきった神殿を変えようとしていたのは事実。
同じソードマスターであるシュヴァルツ公爵には、面識はなく、何の感情も持っていなかった。ーが、彼女を手に入れたとなると、今は殺意しか感じない。
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「ー猊下、ドミナート侯爵令嬢が聖神国へ入りました」
4年前を思いながら、ぼんやりとしていたエルディアスは報告に来た司祭に向き直った。
「なるほど。無事に帰ってきたということは、公爵は彼女を中へ入れることを許したのか」
司祭を下がらせ、エルディアスは瞼を閉じた。皇城のバルコニーで会えたリリアンを思い出す。
「もう少しで会えます。リリィ」
ーまず、神殿に返してもらう。のちに、自分の元へ返してもらおう。
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皇城での式典から3ヶ月が経った。
公爵領では、帝国の王太子誕生に対するお祝いムードから、祝う対象が変わった。
ロヴェルとリリアンの婚約が発表されたのである。
「リリアン、婚約おめでとう。これは私とザガン兄さんから」
そう言ってカナリアから花束を貰った。
「ありがとう。ザガン、カナリア」
照れくささと、恥ずかしさで少し顔が赤くなるのを感じた。
花束にふわりと保存魔術をかけ、護衛に手渡した。
久しぶりに街へ来たリリアンは驚いている。街の至る所へ紫の花が飾り付けられており、広場には金と紫のタペストリーが目立つ所に飾られている。
ロヴェルが、領内にこんな形で触れを出すのは初めてだったらしく、領民も戸惑っていた。
婚約披露パーティーも行うつもりだったらしいが、ロヴェルがあまりに忙しく脚下になった。
「でも意外だわ。公爵様はこういうことを派手にやるのはお嫌いかと思ってた」
リリアンもカナリアの意見に同意だ。
「そうよね····」
なんにせよ、リリアンとの婚約を喜んでいるということなので、素直に嬉しい。
カナリアとリリアンの会話を、少し離れた場所で聞いていたエドガーとラナは、呆れるように言った。
「閣下は外堀を埋めるのに必死ですね」
「お嬢様が気づかれていないようで何よりです」
「不敬だよ」
背後からひっそりと現れたヨイテに、2人はビクッとした。
「ヨイテさん、お戻りでしたか。どうでした皇都の様子は」
エドガーが慌てて話題を振ると、ヨイテは眉を潜めて言った。
「皇都では全く話題に上がっていなかった。おそらく聖神国も同じだろう。情報操作がされているな」
エドガーはため息をついた。
「外堀、埋まらなかったのですね」
ヨイテはジロリと睨む。
気心が知れているから出来る会話だ。
「閣下が討伐へ行かれたのはいつだ?」
「2日前です。この度の以来は南部でした」
「南部か。戻られるのにまだ数日かかるな」
ロヴェルは相変わらず邸宅にいないが、長期に渡って留守にすることはなくなった。
(こんなに分かりやすく情報操作をしているんだ。近いうちに動きがあるはず)
「私は先に邸宅へ戻ります。お嬢様の護衛、頼みましたよ」
ヨイテが邸宅に戻るやいなや、バルトが慌てて駆け寄って来た。招かれざる客人が到着したようだ。
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リリアンが邸宅に戻ると、そこはもう戦場のような空気だった。
門に人が集まっている。
白い甲冑を着た騎士達と、シュヴァルツナイトが睨み合い、今にも合戦が始まりそうだ。
リリアンに気付いたヨイテが近付いて来た。
「申し訳ありませんお嬢様。お嬢様のお戻りまでに追い返そうとしたのですが、力不足でした」
ヨイテの視線の先を見ると、金糸の刺繍が施された、白い法衣を着た人物が近付いて来る。
「やぁお初にお目にかかります。私は教皇の代理人、サレム・アナテリオ。フォルツナー伯爵令嬢をお迎えに上がりました」
「え?」




