50ー友人の来訪
「師匠、お戻りだったんですね」
ビビが久しぶりに邸宅に戻って来たと聞き、急いでかけつけた。
「やぁ。見る度に淑女になっていくね」
ビビは嬉しそうにリリアンの頭を撫でた。
「今回はどのくらい滞在するのですか?」
「足りない灼灼草を取りに来ただけなんだ。すぐに里に戻る」
リリアンはしょんぼりした。
「そうなのですね」
ビビが里で研究しているのは、薬草と魔術を混ぜた魔草薬だ。ここ数年は里の研究所に籠もりきりだ。
「あと少しで、良い結果が出そうな気がするんだ」
「あまり根を詰めすぎないでくださいね」
ビビは微笑んだ。
「もう少し師匠と一緒に居たいのですが、今日は来客の予定があるので失礼します」
「ああ。またな」
ビビはリリアンが部屋を出たあとぽつりと言った。
「根も詰めるさ。私ほどとは言わないが、長生きしてもらいたいからね」
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午後、カーラはテラスに机を出してお茶を並べた。
「ドミナート・ナタリア様がいらっしゃいました」
透き通るような晴れの日、ドミナート嬢が公爵邸を訪問した。
「フォルツナー嬢、本日はお招きいただきありがとうございます」
ドミナート嬢は美しいカーテシーをとった。
「ナタリア嬢、私のことはリリアンとお呼びくださるように言ったはずです」
「そうでした。リリアン嬢。つい緊張してしまい、忘れてしまいました」
2人は立太子の式典から手紙のやり取りをして、すぐに打ち解けた。
「リリアン嬢とお話しするのはとても楽しいです」
「そうですか?嬉しいですが、ナタリア嬢は他にもたくさんご令嬢と交友関係があるので、私の話は退屈かと思ってました」
「他のお茶会だと、流行りの衣装やお菓子、人気の令息の話しかしません。あちらの方が退屈でした」
「そうなのですね。私としては流行りのお菓子も気になりますが···」
リリアンが言うと、ナタリアはキラッと目を輝かせた。
「では次の機会に私が人気のお菓子を持ってきますね。リリアン嬢、先ほどのお話しの続きを聞きたいですわ」
目を輝かせるナタリアに、リリアンは先ほどの話の続きー···人体のどこを突けば正確に気絶させれるか、どこが1番痛みを感じるか、など知識としてある限り話をした。
「いいですね。まさか邸宅で淑女の楽しい話し声が聞けるとは思いませんでした」
バルトが感慨深く言った。
「はい···会話は物騒ですが」
隣で聞いていたエドガーは同意して一言付け加えた。
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「今日はお招きいただきありがとうございました。楽しくてつい時間を忘れてしまいました」
「ナタリア嬢、私もとても楽しい時間でした」
(もっとお話したかったな)
リリアンは迷ったものの、思い切って言った。勢いで手まで掴んで。
「あの、よければリリアンと呼んでいただけませんか?」
ナタリアは驚き、そしてとても美しく微笑んだ。
「もちろんです。リリアン。私のこともナタリアと」
初めて出来た、歳の近い友人に胸が熱くなる。
ナタリアは残念そうに口を開いた。
「私の邸宅にも招待したいのですが、流石にリリアンが聖神国に来ることを閣下がお許しにならないでしょう。今回も聖騎士の私を特別に領内入れていただきましたし····」
それはそうかもしれない。
「私が皇太子妃になりましたら、また皇都でお会いしましょう」
ナタリアは笑顔で言った。
「皇都にもそうほいほいと行かせる気はないんだ」
ナタリアを見送りに来たロヴェルは、涼しい顔で脚下した。
「「えっ」」
2人はショックを受けた。ーが、ナタリアはすぐに切り替えた。とても残念そうではあるが。
「いえ、今までの経緯を考えれば閣下の言う通りです」
「でも」
せっかく出来た友人に会いたい。リリアンは納得出来ず、ロヴェルに向き直り抗議しようとした。
ロヴェルは言葉を遮るように、リリアンの頭をぽんと撫でた。
「今回と同じように、神聖力を抑制するアーティファクトを付けた状態なら、領内に入ってもいい」
2人はパァッと目を合わせた。
「ありがとうございます閣下。リリアン、次は聖神国で人気のお菓子を持ってきますね」
ナタリアの乗った馬車を、リリアンとロヴェルは並んで見送った。
「ありがとうロヴェル。ナタリアとまた会いたいと思っていたの」
「楽しそうに、何を話ししていたんだ?」
「そうね。人体の急所の話とか」
ロヴェルは少し間を置いて、
「そうか。楽しかったなら何よりだ」
と言った。




