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帝国一の治癒師リリアン・アナベルは 今日も仕事を選べない   作者: 織子
第二章

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49ー夜のダンス


リリアンはしょんぼりしていた。騒動のあと、ロヴェルはすぐに帰宅をした。そのため、バルトと一生懸命練習したダンスを披露する機会がなかったからだ。




「エルディアス教皇を知っているのか?」


帰りの馬車でロヴェルが聞いた。



「神殿に来てすぐ、エルという男の子としばらく一緒にいたの。でも、その子は魔力が少なくて数カ月したら地方の神殿に送られたわ」


リリアンは思い出しながら話した。

「髪の色は似てるけど、瞳の色は違う。前は紫じゃなかったような」


「もういい。思い出すな」

聞いておきながら、ロヴェルはぶっきらぼうに言った。明らかに不機嫌だ。


ロヴェルは窓を向いたまま、ため息と一緒に言った。

「すまない。分かっているだろうが、嫉妬だ」

眉間のシワがすごい。


リリアンは口がニヤけるのを止めるのに苦労した。


ロヴェルはリリアンをジロリと見る。

「なんだその顔は」


「ごめん、ロヴェルの気持ちが分かった。やきもちされると、こんな気分なのね」

我慢が出来ず、笑みが溢れた。とはいえ、ロヴェルの気持ちも分かるので深呼吸して笑みを我慢する。



ロヴェルは複雑な顔をしたものの、すぐに表情を和らげた。


「リリアンの知る子供と、現教皇が同一人物か調べてみよう」





馬車が邸宅に着いたようだ。

ロヴェルは先に降りて手を差し出した。

「少し庭園を散歩しないか?」


「うん」

ロヴェルの機嫌が治り、リリアンはにっこり笑って手を取った。












ーーーーーーーー


夜の庭園は、4年前に部屋を飛び降りた時以来だ。


噴水の周りに、魔光石が埋め込まれて幻想的な雰囲気をかもし出している。



噴水の手前の広場で、ロヴェルが立ち止まった。


「ロヴェル?」

振り向くと、眩しいものを見るようにこちらを見ている。魔光石の光がまぶしかったのかもしれない。


「どうしたの?」


ロヴェルは柔らかく微笑んで手を差し出した。

「私と踊ってくれないか?」


「えっ」

思いもよらなかった言葉に、リリアンは狼狽えた。ロヴェルは手を差し出したまま待っている。


「·····よろこんで」



曲も無いので、どうしようと思っていたが、リリアンが練習したステップは1つしかない。ロヴェルはそれを知っているのか、2人は同じステップで足を動かした。 


木々の囀りや、生き物の声で、不思議と曲がないのが気にならない。とはいえ、バルトの足を何度も踏んでいるリリアンは、ロヴェルの足も容赦なく踏みそうになった。

避けてそのまま、体制がぐらついたが、ロヴェルが腰をしっかり持ってふわりと持ち上げた。

ロヴェルは楽しそうに、愛しそうに微笑んでいる。リリアンも抱き上げられる経験などあまりなく、思わず笑顔になった。

お遊びのようなダンスだったが、とても充実した時間だった。


「せっかく練習したのに、皇城で踊れずにすまなかった。あれ以上、注目されたくなかったんだ」


たしかに、皇城ではずっと人の視線を感じていた。ロヴェルも気疲れしたのだろう。


「ううん。ここで踊った方が楽しい。ありがとうロヴェル」

満面の笑みでリリアンは応えた。


ロヴェルは納得いかない顔をして、リリアンの耳に顔を近づけた。

「分かっていないようだが、他の男の視線に晒したくないという意味で言ったんだ」


吐息とともに囁かれ、顔に熱が籠もる。

そのまま、ロヴェルはリリアンに口付けた。


驚いたが、とても心地の良い感覚だった。一度離れ、すぐにまた口をふさがれた。先ほどより深い。


「ちょっ、ちょっと待って」

3度目は流石に心臓が持たない。リリアンは手でロヴェルの口を遮った。


ロヴェルは顔をしかめたものの、仕方なそうに呟いた。

「たしかに、これ以上は我慢がきかなくなる」


ロヴェルは残念そうにリリアンから離れ、少し乱れた髪をかき上げた。

まだ熱を帯びたままの金の眼から、リリアンは目が反らせなかった。

 

「婚前だからな」

にやりと笑い、からかうように言うのでリリアンは憤慨した。


(もたない!心臓がもたないわ)

2度とも恋愛経験のほぼない人生で、初めての恋愛がこの男。荷の重さに心の中で嘆いた。












ーーーーーーーーーー


自室に戻り、上着を脱ぐと、ヨイテが現れた。


「どうだった」


ロヴェルが聞くと、ヨイテは報告を始めた。

「エルディアス教皇ですが、お嬢様と同じ時期に入団した人物と、同一人物で間違いないでしょう。エルディアス教皇は10歳の時に魔力が開眼し、辺境の神殿から聖神国へ移ってきたようです」


(なるほど。だからあの目つきか)

エルディアスの、リリアンを見る目つきが気に食わない。


「お嬢様に伝えますか?」


「いや、わざわざ伝えることではないだろう」

もう接触させるつもりはない。




「おかしいと思わないか?リリアンが目覚めてすぐ、前教皇が崩御した。周りの反対もほぼなく、若いエルディアスが教皇の座に就いている」


「ええ、教皇が亡くなった場合、喪に服す1年は、たとえ皇帝ですら婚姻を結ぶことが出来ませんからね。――嫌な予感がしますね」



「しばらく神殿の動きを注視しろ。特に領内に神殿関係者を入れないように」


「····閣下。お嬢様がドミナート嬢を邸宅へ招待しています」


「·····」

ロヴェルは聞こえないふりをした。


「ドミナート嬢が来られないと、お嬢様は悲しまれる

と思います」

ヨイテのつけ加えた一言に、ロヴェルはため息をついた。




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