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帝国一の治癒師リリアン・アナベルは 今日も仕事を選べない   作者: 織子
第二章

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46/64

45ーロヴェルの遅刻


《すまない。少し遅れる》


前日の夜に、ロヴェルがよこした伝達はこれだけだった。


リリアンは悲しいを通り越して、怒りが湧いてきた。


「どうしてこうなの?男ってものは!」

「そうですよ。いかに閣下と言えど、これは到底許せるものではありません」


リリアンと、カーラ、護衛として立っているラナの3人で口々に文句を言った。



コンコン。

「お時間ですが、準備はよろしいでしょうか?」


ヨイテの声に、リリアンは立ち上がった。

「どうぞ」


入室したヨイテは、一瞬止まり、心から賛辞を贈った。

「お嬢様、とてもお美しいです。式典の華となりましょう」


リリアンは照れた。

「そ、そうかな?ありがとう」


素直に嬉しかったが、ロヴェルが選んでくれたドレス。リリアンはポツリと言った。

「ロヴェルに見てほしかったな」

寂しそうなその一言に、カーラとラナは心の中でロヴェルを罵った。










行きの馬車でヨイテは言った。

「会場までは私がエスコートさせていただきます。もし、入場までに閣下が戻られなければ、エドガー卿にエスコートを任せようと思います」


エドガーは子爵家の3男らしい。 

「どうして?ヨイテが会場でもエスコートしないの?」

リリアンはロヴェルに期待しないことにした。


ヨイテは申し訳なさそうにしている。

「私と一緒に入場されますと、恐らく悪目立ちしてしまいますので」


そういえば、彼以外に黒髪黒目の人を見たことがない。だからだろうか?


「かまわないわ。ロヴェルが来なければ、ヨイテが一緒に居てちょうだい」

「しかし···」

ヨイテはまだ渋っている。


髪色で言うと、リリアンの方が目立つのではないだろうか。

この異世界ですら珍しい、薄紫色をして、教皇であった過去は知られていないにしても、平民の治癒術師から、いきなりシュヴァルツ公爵の婚約者になったのだ。悪目立ちしない方が無理だ。



「お嬢様が、お望みでしたら」

ヨイテはポータルに着くと、渋々返事をした。


エドガーでも全くかまわないのだが、ここ数日間一緒に特訓した第二の師匠、ヨイテに頼みたかった。








皇城へ直結しているポータルから出ると、また馬車に乗った。皇城の敷地がまた広いのだ。



人と馬車で溢れかえる門を抜け、馬車は停まった。

窓から外を見ると、馬車から降りた令嬢たちや、エスコートの為に待っている令息や紳士で溢れかえっている。その内の多くの人が、リリアン達の馬車を注視しているようだ。


ヨイテが力なく言った。

「この時点でだいぶ注目されてますね。まあ仕方ありません。シュヴァルツ公爵家の馬車から誰が出てくるのか、気になるのでしょう」



ヨイテがまず馬車から降り、手を差し出した。

「さぁ、行きましょうお嬢様。堂々としていてください」


心配しているヨイテに、リリアンはにっこり微笑って言った。

「大丈夫よ。ヨイテ」

物心着いた頃から数年間、教皇として崇められていたのだ。人に見られるのは慣れている。





「あら?公爵閣下ではないわよ」

「まぁ。紫の髪だなんて。神殿の方?」


「黒髪?嘘でしょう?」


ロヴェルがいないと知ると、何人か令嬢が興味津々に近づいて来た。


「あなた、シュヴァルツ公爵のご婚約者様ですか?」

「紫の髪色なんて、魔力がお高いのですね」

「どちらの家門のご令嬢なの?」


まだデビュタントを済ませたばかりだろうか?若い令嬢たちが口々に質問する。多少の無礼は、年若い令嬢ならば許してもらえると思っている節がある。


リリアンは仕方なく挨拶をした。

「はじめまして。私はリリアン・フォルツナーと申します。シュヴァルツ公爵邸にてお世話になっております」 

アナベルは神殿で賜った姓なので名乗らないでおいた。


挨拶をして微笑み、カーテシーをとる。

美しい所作に、人々は目を奪われた。


リリアンは顔に笑みをのこしたまま言った。

「道をあけてくださる?」


皆、サッと道をあけた。威厳すら感じる声音に、周囲の人だけでなくヨイテも内心驚いていた。

「さすがです。お嬢様」


陰謀渦巻く神殿で、ただ見世物になっていたわけではないのだ。微笑っていれば周囲を黙らせることもできることを、リリアンは知っていた。



それより、馬車から降りてもロヴェルの姿がない。やはり、間に合わないのだろうか。


(いなくても大丈夫。私はシュヴァルツ公爵の婚約者になったのだもの。堂々と、堂々と)

自分に言い聞かせるように念じる。


(でも、私だって貴族令嬢としては初めての式典なのだから、やっぱり居てほしかった····)


鬱々と考えていると、令嬢たちの会話が聞こえてきた。


「シュヴァルツ公爵はいらっしゃらないのね」

「あら?貴方知らないの?シュヴァルツ公爵はここ数日、ドミナート侯爵邸に滞在されているとか」

「ナタリア嬢の部屋に入り浸ってるらしいわよ」


リリアンは思わず足を止めてしまった。


「えっじゃあフォルツナー嬢はどうなるの?」

「婚約したばかりでしょう?」



顔に笑みを貼り付けたまま、リリアンはまた歩き出した。


「お嬢様?」

不審に思い、ヨイテが聞いてくる。


「なんでもないわ」

「しかし皇都ともなると、噂が広がるのが早いのですね。閣下の動きまで令嬢たちに伝わっているとは」


ヨイテにも聞こえたのだろう。リリアンは嫌な予感がした。平常心を保ち、何気なく聞いてみる。


「えっと、ロヴェルがドミナート侯爵邸?に滞在してるのは本当なの?」

「はい。ドミナート侯爵家は、前教皇の生家です。皇都内に邸宅があります」


リリアンはヨイテのエスコートの手を、するりと離した。

「お嬢様?」


青い顔をして、ふらふら離れていくリリアンにヨイテは慌てた。

「どこに行かれるのです?」

すると後ろに付き従っていたラナがずいっと割り込んだ。

「ヨイテ卿。ヨイテ卿は閣下と共に、女性の繊細な心内を勉強するべきですね」

笑顔でラナは言っているが、圧がすごい。


「お嬢様には私が付いているので、ヨイテ卿はそこで閣下を待っていてください」

ピシャリと言うと、ヨイテを置いてラナはリリアンとその場を離れた。



行き場のない手をヨイテは引っ込めて、言われた通りにその場に留まった。






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