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帝国一の治癒師リリアン・アナベルは 今日も仕事を選べない   作者: 織子
第二章

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44ー魔術訓練②

数日後、ヨイテは魔術の指導方針を変えた。


「お嬢様、攻撃魔術ではなく、守りの魔術を修練しましょう。突き詰めれば攻撃にも転じることが出来ます」


「私の攻撃魔術、そんなに駄目だったのね」

リリアンはしょんぼり言った。


「お嬢様の魂の根本が、攻撃することに拒否反応を示してしまうのです。これは仕方ありません。治そうと思って治せるものではないのです」


「魂の根本?」


「私の先祖もそうでした。戦のない世から来た為、攻撃することに躊躇ってしまうのです。今はもう名残がありませんが、先祖も長い時間をかけて、克服したそうです」


なるほど。とストンと理解した。前世の記憶のある魂だからだろうか。


「閣下のように、他者を制圧することに抵抗が全くなくなれば良いのでしょうが、そうもいきません。だから閣下の戦闘力は群を抜いているのです」


「そう、なのね」

ひどい言われような気がするが、だとしたら自分には無理かもしれないとリリアンは思った。



「ですのでバリアの精度を高めましょう。バリアの精度を高め、攻撃を跳ね返せるようになれば反撃出来ます」







そうして特訓して1週間。リリアンのバリアは、ヨイテの攻撃を跳ね返せるほど上達した。


「うっ」

ズバッと勢いよく、風の魔術を弾き返したので、ヨイテのわきばらが血に染まった。


「ヨイテ!」

リリアンは慌てて駆け寄った。


「お気になさらず、素晴らしい上達です。お嬢様」

顔を一瞬歪めたものの、ヨイテは心から褒めてくれた。

そしてすぐに自分の手を脇腹に当てて、回復呪文を唱えた。

「ヒール」



「ヨイテも回復魔術が使えるのね?」

「はい。お嬢様が邸宅に来られるまでは、主に私が回復役をしておりました」


ただ、やはり時間がかかっている。治癒中の痛みもあるらしく、辛そうに見えた。

傷はあまり深くなく、ほどなくして消えた。


「あれ?でも治癒魔術は神殿の外で使ってはいけないのよね?お咎めなどなかったの?」

自分は散々使ったものの、他の人はどうしているのか気になった。


「ええ。私は神殿に所属してないですし、女神シャマルアーソを信仰しておりませんから」


リリアンは少し驚いた。

帝国民のほとんどが、おそらくリリアンが出会ったであろう女神シャマルアーソを信仰していると思っていたから。

(そうよね、宗教なんて他にもあるよね)


「そうなのね」

リリアンが言うと、ヨイテは目をパチクリさせた。

「驚かないのですね」

「え?宗教が違うだけでしょう?」


ヨイテは思わず笑った。

「ふふふ。お嬢様、自らアーソ教の教皇であられたのに」


少年のように笑うヨイテにつられて、リリアンも笑った。










ーーーーーー


「皇室から、第1王子立太子の式典の招待状が届きました。閣下とお嬢様、お二人とも出席するようにとのお達しです」


夜、バルトに呼ばれて執務室に来ていた。

「第1王子って、4年前に邸宅で会ったあの方?」


「そうだ。お前の足を折った前科があるからな。殺したいところだが、第1王子には利用価値がある」

ロヴェルは低い声で言った。


(殺?)

ロヴェルの冗談は過激だなと思い、リリアンは第1王子の顔を思い浮かべた。


皇帝とロヴェルより、すこし薄い金の髪。



「式典には帝国内の貴族が大勢来るはずだ。リリアンの生家の人間も出席するだろう」


無表情に近いが、心配そうにロヴェルは言った。微々たる表情の変化だが、リリアンには分かる。


「大丈夫よ。顔も覚えていないもの」



バルトが付け加える。

「神殿の関係者も多く出席するでしょう。特に、新教皇は必ず来るはずです」



「新教皇·····」

リリアンの呟きに、ロヴェルは顔をしかめた。


「エルディアス教皇か」


「会ったことがあるの?」


「ああ。皇城で会った。教皇はリリアンを知ってるようだったが、覚えがあるか?」


「うーん、エルディアス?覚えてないわ。仲良かった子もいないし」


(神殿に付いてすぐに、魔力の高さが分かって他の子とは隔離されたのよね)


「そうか、まあ皇帝も教皇も、気をつけるにこしたことはないな。もう夜も遅い。リリアンは休んでくれ。明日はダンスの特訓だろう?」


「うん。バルトが教えてくれるって」


ロヴェルは心底残念そうに言った。

「私が教えたかったのだが、明日から数日あける」


リリアンもガッカリした。

「そうなの。いつ帰るの?」


「わからないが、長くはかからない」


「ダンス、完璧にしておくわ。ロヴェルも驚くわよ」

から元気に見えただろうか?でもロヴェルに心配をかけたくない。


「ああ。楽しみにしている」

ロヴェルは微笑っていった。

リリアンもにっこり笑い、部屋を出た。




「ヨイテ、私が戻るまでにエルディアス教皇についてもう少し調べておけ」


「はい。閣下」








ーーーーーー


リリアンはベッドに横になり、神殿の事を考えた。


逃げ出してもう何年も経っているので、記憶は朧げだったが、覚えていることもある。



エルディアス。あの子と似た名前だわ。


「エル」


同じ日に神殿に連れてこられて、二月ほど一緒に過ごした。

あの子な訳はない。だってあの子は魔力が低すぎて地方の神殿に送られてしまったから。


これ以上は思い出したくなくて、リリアンは目を閉じた。










ーーーーーーーーー


ロヴェルとヨイテにも用事が出来た為、リリアンはダンスの特訓に全力を費やした。




長くはかからないと言っていたにも関わらず、ロヴェルは式典の前日になっても戻らなかった。











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