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帝国一の治癒師リリアン・アナベルは 今日も仕事を選べない   作者: 織子
第二章

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43/64

42ーロヴェルの道標



ロヴェルは皇帝の側にいるフードの男に、注視した。

心拍からして、皇帝より動揺している。


「ええ。ゆくゆくは公爵夫人になる。今後は無闇に連れ出そうとしないでいただきたい」



皇帝は少し思案したのち、笑い始めた。

「フッフフ。公爵が婚約者を····今で頑なに作らなかったのだが····どういう風の吹き回しだ?」


自分にとって婚約者など、弱みにしかならないからだ。必要ないものだった。


皇帝はフードの男へ視線を向けた。

「確かリリアン・アナベルは神殿に入る前は伯爵家の出だったな?そうだろう?エルディアス教皇」


フードの男は一瞬不快な表情をしたが、すぐに笑顔を貼り付けた。

「ええ。陛下。彼女の生家はフォルツナー伯爵家です。」


皇帝に返事をすると、フードを外しロヴェルに一礼した。 

「シュヴァルツ公爵、お初にお目にかかります。エルディアス・マルヴェインと申します」



(なるほど、こいつが新教皇か)

銀髪に、リリアンと同じ紫の瞳。


(·····何だ?)

ものすごく不快だ。エルディアス教皇がロヴェルを見る目が。口元には笑みを浮かべているのに、瞳の奥にどす黒い何かを感じる。



「前教皇とは折り合いが悪かったが、エルディアス教皇とは顔なじみでな。これから様々なことが円滑に運ぶだろう。我々も、今まで以上に仲良くしていかねばならないな?なぁ公爵」


吐き気のする皇帝の言葉に、ロヴェルは小さく舌打ちをした。

ロヴェルの態度を、皇帝は気にもしていない。


「私は妻を娶ります。陛下、第1王子殿下を立太子させてください」

「ふむ。仕方ないが、そうなるだろうな」



皇帝はニヤリとして言った。

「では近いうちに大規模に立太式を行わねば。公式行事だ。公爵、新しい婚約者と参加するように」


ロヴェルは眉を潜めた。

「文書にて通達ください。では」



「もう行くのか?公爵が壊した扉はどこへ請求すれば良い?」


ジロリと、睨み、返事をした。

「陛下が破壊した私の邸宅にくらべれば、お釣りが来るほどです」


皇帝は高らかに笑った。

「はははその通りだ。では次に会うのを楽しみにしているぞ」


肩越しにチラリと見ると、エルディアス教皇の口が動いていた。

「リリアン・アナベル嬢によろしくお伝えください」


ロヴェルはエルディアスの言葉が不快だったが、無視してそのまま皇城を出た。

言いたいことは言ったので、早く公爵邸に戻りたかった。













ーーーーーーーーー


「――はぁ」

ポータルで公爵領に着くと、小さなため息が出た。

(これで良かったのだろうか。たしかに婚約者にしてしまうと、公式行事に連れて行かねばならない)


しかし何もしないままでは、皇帝が第1王子の妃にしようと画策するだろう。今回、リリアンを登城させようとしたのも、その為だった。考えただけで殺意が抑えられなくなってしまう。




「ロヴェル!」

呼ばれて前を向くと、停まっていた馬車からリリアンが飛び降りた。

ロヴェルはリリアンを抱きとめた。


「リリアン、迎えに来たのか?――うっ」

抱きとめたまま、腹部をしたたかに殴られた。全く痛くはなかったが、驚いて呻いてしまった。


「心配したでしょ!次からは、ちゃんと言ってから行って」

紫の瞳に、安堵と少しの怒りが混ざり、潤んでいる。

ロヴェルはリリアンを抱きしめ、心から謝罪した。

「すまない」


地面を見ると、昨夜自分が切り裂いた地面が見えた。間に合わなければ、連れて行かれていた。


腕の中にいてくれるのは、奇跡のようだ。




「帰りながら少し話をしよう」

ロヴェルはリリアンをまた馬車に乗せた。








しばらく馬車を走らせ、ロヴェルは呟いた。


「私は公爵位を引き継ぎ今日まで、皇帝を殺し、神殿を滅ぼす為に動いている」


「····反逆するの?」


「ああ、だが皇帝にはならない。別の者を据える」


「皇帝の残虐性を憂いてのことではない。単なる復讐だ」



ちらりとリリアンを見ると、落ち着いた瞳でこちらを見ていた。

(あまり驚かない。やはり肝が据わっているな)


ふっと緊張が和らいだ。

「皇帝と神殿を滅ぼしたあとは、この国を出るつもりだ。大公となり、独立しようと思っている」


皇帝と神殿との戦の後のことは、誰にも話したことがなかった。右腕として動いてくれているカインツにも、伝えていない。


というか、今、はっきり道標として自分の中に降りてきた。


「それまで····」

(ついて来てくれるか?)

と聞きたかった。


「うん」

返事にバッと顔をあげる。


「公爵領を、戦とは無縁な平和な国にしようね」

咄嗟に、

「それは無理だ」

とからかってしまったが、優しく、しかし力強く言うリリアンに、 ロヴェルは心の中で何度も感謝した。













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