表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帝国一の治癒師リリアン・アナベルは 今日も仕事を選べない   作者: 織子
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/64

38ー夜空の下

薬草の談義が終わると、日が傾いて来た。

「そろそろお暇するわね」


すると、ようやく一息ついたカザンが近づいて来た。

「もうお帰りですか?」


「あら。残念。兄さん間に合わなかったわね」

カナリアがからかうように言った。


「カザンは私に何か用があったの?」


「あ、いえそういう訳では」

歯切れの悪いカザンを見て、カナリアは首を振った。


小声でリリアンに詰め寄る。

「公爵邸じゃ聞けなかったけど、どうなってるの?リリアンの立ち位置は!はっきりしてくれないと兄も進みようがないわ」


「え?どういう···」

リリアンは思わず後ずさり、後ろのカザンにぶつかりそうになった。


「どう進むと言うんだ?」

現れたロヴェルが、よろけたリリアンをカザンに触れる前に腕で支えた。


カナリアの顔がみるみる曇る。不思議な足運びでカザンの後ろに隠れた。


「ロヴェル!用事は終わったの?」


「ああ。待たせたな」


「じゃあカナリア、カザン。また来るわね」

リリアンは慌てて2人に挨拶したが、内心ドキドキだった。

心臓がうるさい。ロヴェルは支えたまま、腰から手を離さずそのままエスコートしたからだ。


去っていく前に、カザンを一瞥して睨みつけたロヴェルを見て、カナリアは呟いた。


「兄さん、諦めて他にお嫁さんを探した方がいいわ」












ーーーーーーーーー


日も暮れ始めた夕刻、ロヴェルは有言実行した。公爵領で1番敷居の高いドレスショップで、カタログを眺め思案している。


前に衣装店が邸宅に来た時もそうだったが、リリアンは前世からの金銭感覚で意識が飛びそうだ。



「あまり時間がないからな。一着二着くらいしか試着が出来ないか····ふむ。となると···」

などブツブツ言いながら腕を組んでいる。



自分の服を選ぶロヴェルを眺めながら、リリアンは初めての感情に戸惑っていた。


じんわり身体をくすぐるような。多幸感。


(好きな、人が、自分の服を選んでくれている····)



ロヴェルが選んだ服を着て、試着室から出てくると、ロヴェルはまた溶けそうな微笑みをリリアンに向けた。


リリアンは涙が出そうなくらい嬉しかった。

(こんな日々が続けばいい。もう皇帝や教会を気にせずに、公爵領でずっと暮らしたい。ロヴェルと一緒に)



この世界に産まれて初めて、膨らみ過ぎた欲を、リリアンは抑えることが出来なかった。心から願った。













ーーー


「疲れたか?少し休もう」

夕食を食べるレストランまで歩いて向かっていた。


幸せで、ぼーっと歩いていたのでそう見えたのだろう。

昼間は騎士を引き連れて歩いたが、今はロヴェルと2人だ。


近くにはいるのだろうが、リリアンには分からなかった。

レストランにはきっと人がたくさんいるだろう。もう少し2人を満喫したくて、リリアンはベンチにロヴェルを誘った。


ベンチに腰掛けて、上を見ると、月がやはり2つある。


「綺麗だな」

夜空を見ながらロヴェルはポツリと言った。


リリアンは失礼ながらびっくりした。ロヴェルがそんなことを言う人だったとは。

「ロヴェルがそんなこと言うなんて、びっくりするじゃない」


ロヴェルを見ると、本人が1番驚いているようだ。自分の口から出たとは思えない顔をしている。

「いや、そうだな。私も驚いた」



「前は夜空を見ても、何を見てもそんな感情はなかった。リリアンのおかげだ」


「えっ」

急に感謝されリリアンも戸惑う。



ロヴェルがこちらを向いた。リリアンは熱を帯びた金眼に、目が離せなくなった。

「伝えたいことがあるんだが、今ここで言っていいか」


心臓が痛いくらい鳴っている。

気のせいか顔が近くなっているような?


リリアンは思わず目を瞑ってしまった。





「閣下!!」

 

通くから呼ばれた声に、2人は固まった。



「――チッ」 

ロヴェルは盛大に舌打ちをして、振り返った。


リリアンは涙目で胸に手を当てて、心臓を押さえた。


ちらりと見ると、伝令に来た憐れな騎士が可哀想になった。ロヴェルがこれでもかと言うほど睨みつけている。


ロヴェルはメモを乱雑に奪い取り、サッと目を通すと、悔しそうに言った。


「クソッ。すまないリリアン。食事はまた今度だ」

ロヴェルが合図をすると、ラナとエドガーが現れた。


一部始終を見られていたかと思うと、リリアンはますます赤面した。



ロヴェルに騎士が馬を連れてきた。すぐに行ってしまいそうだったので、リリアンは慌てて駆け寄った。

まだ少し怒っていたロヴェルは、リリアンを見て怒りを消した。


「少し出てくる。心配しなくていいが、しばらく邸宅から出ないでくれ」

頭をまた撫でるのかと思っていたら、ロヴェルはリリアンの額にキスをした。


「これくらいないと、割に合わない」

また怒りを顕にして、ロヴェルは馬に飛び乗った。


「すぐ戻る。帰ってきたらまた話そう」




会話の途中で、騎士の人が来て良かったと思う。

あのままでは、心臓が持たなかっただろう。



リリアンは立ち尽くしたまま、額を手で押さえて熱が冷めるのを待った。












ーーーーー



リリアンはこの日の話をしなかった事を後悔した。

ロヴェルはこの日から連絡が途絶え、2週間が経った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ