36ー魔力量
ロヴェルと入れ違いに入って来たビビに、リリアンは抱きついた。
「師匠!無事だったんですね」
ビビがリリアンの頭を撫でながら言った。
「ふむ。人の子は4年でこんなに大きくなるのか。寝ていた時には気付かなかった」
成長したとは言え、ビビの長身にはまだまだ届かない。いや、届くのことはないだろう。
「師匠、里はどうなっていますか?」
リリアンは見上げて言った。
「里の長はアレクに変わった。世間知らずだがなかなか上手く治めている。場所も変わって隠された。心配することはないよ」
「えっでは先代の長は·······」
ルキウスの優しい笑顔が脳裏に浮かぶ。
リリアンの心配を、ビビは笑いながら否定した。
「ははは。ルキウスは息災だ。老いたとはいえ、リリアンの生きているうちに死ぬことはないさ」
「そうなのですね」
リリアンはホッとしてビビから離れた。
「近いうちにお会いしに行きたいです。師匠は今·······」
ビビが現在公爵邸に滞在しているのか、エルフの里にいるのか聞きたかったのだが、ビビの後ろにいる女性騎士が目に入り、リリアンは固まった。
リリアンは呆然としたまま聞いた。
「ラナ、あなた騎士になったの?」
ビビの後ろには、シュヴァルツナイトの制服を着たラナが立っていた。
「お嬢様、目を覚まされて本当に良かったです」
ラナは目を潤ませながら微笑んだ。そしてリリアンの前まで来ると膝を付いた。
「私はもともと騎士でした。今はシュヴァルツナイト第3騎士団の団長をしております」
リリアンは混乱している。
「えっ。じゃあどうして侍女を?」
「閣下に命じられ、邸宅での侍女兼護衛だったのです。お嬢様がエルフの里に連れて行かれたと聞いた時は傍にいれなかった事を後悔しました」
まさかロヴェルが自分のために、そんなに大胆な人事異動をしていると思わなかった。
ラナは慌てるリリアンの手をとり、キスをした。この世界では騎士の忠誠を示している。
ラナは綺麗に微笑んで言った。
「ですから、騎士の忠誠を誓います。お嬢様、第3騎士団はお嬢様の護衛を主に行います。これからはどこでも付いていきますからね」
リリアンは嬉しいやら、恥ずかしいやら、申し訳ないやらで胸がいっぱいになった。
「第3騎士団?私の護衛をしてもらうなんて申し訳ないわ」
ラナはきっぱりと言った。
「いえ、お嬢様。公爵様が決定されたことは覆せません。公爵様はお嬢様の護衛専用の部隊を編成されました。エドガー卿もいますよ」
「えっ」
リリアンは怖気づいた。
(そこまでしなくても)
にこにこと2人を眺めていたビビが、申し訳なさそうに声をかける。
「うんうん。さて、良いところで本題に入ってもいいかい?」
ラナはスッと下がった。
「師匠、私に用があったの?」
「ああ。早く顔が見たかったのもあるけど、魔力測定を早々にしなければ」
魔力の測定は機械で行う方法と、魔術師が行う方法の2種類がある。魔力測定が出来る魔術師は多くなく、基本的に測定器で行う。
ビビは、大陸で数少ない魔力測定が出来る魔術師だ。リリアンはいつもビビに測定をしてもらっていた。
リリアンはいつものようにベッドに横たわり、瞼を閉じた。ビビが手をかざし、短い呪文を唱えるとリリアンの下に魔法陣が浮かんだ。
(温かい。師匠の測定は安心する)
教皇だった時に他の魔術師に測定してもらったことがある。あの時の不快感は今でも忘れられない。
「もういいよ」
ビビの声かけに、リリアンは目を開けて身体を起こした。
ビビの顔を見ると、表情が暗い。
「師匠?」
「リリアン。君の魔力値がまた上がっている。4年前に限界まで魔力を使って、底上げされたんだろう」
「そう、なの?」
魔力が上がったことは分かった。だがビビの表情が暗い理由が分からない。
ビビはしばらく眉間にしわを寄せ、下に目線をやり考えている。リリアンの視線に気付き、微笑むと頭をぽんと撫でた。
「公爵閣下を呼び戻してもらえるかい?」
後ろに控えていたラナは、一礼してロヴェルを呼びに行った。
程なくしてロヴェルは戻って来た。少し緊張しているように見える。
ビビはロヴェルが来たことを確認すると、リリアンに向き合った。
「来たね。さて、じゃあリリアン。今まで、君には漠然と言っていたがハッキリと言おう」
「えっ」
リリアンは虚を突かれて慌てる。ロヴェルに話があったのではなかったのか。
「リリアンの魔力量は、大陸一だ。君ほどの魔力の持ち主はいない。さらに現在、4年前の倍以上の魔力が身体に溜まっている」
ロヴェルが口を挟んだ。
「倍?4年前、人間の持てる限界量の魔力を持っていると言わなかったか?身体は大丈夫なのか?」
「この4年で身体が作り替えられている。魔力溜まりも広がっている。人間の魔力溜まりが増えることなど、今まで聞いたことがないが」
ビビが深刻な顔をして言う。
リリアンは2人の会話に口が挟めない。
(人間の持つ限界量?大陸一?)
どれも初耳だ。
「ちょ、ちょっと二人とも、私の知らないところで会話しないで」
自分の魔力が多いことはなんとなく分かっていたが、ちょっと大袈裟なんじゃないか。
ビビは困ったように言った。
「この魔力量はもはや隠せない。目覚めたことで、皇帝の魔力感知にも引っかかっただろう」
――皇帝、里での光景を思い出すと、身体が震えた。
ビビが落ち着けるように頭をポンと撫でてくれた。
「まぁ、大丈夫さ。なあ公爵?出方を待つも、仕掛けるも、任せるよ」
ロヴェルが鋭い眼で1点を見つめながら頷いた。
「あぁ」




