表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帝国一の治癒師リリアン・アナベルは 今日も仕事を選べない   作者: 織子
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/64

34ー邂逅


「――足は!?」


治せたはずだ。手応えはあった。ガバっと起きてリリアンは叫んだ。


身体を起こして自信満々な顔をしたものの、そこには誰もいなかった。

白い、高い柱のある建物。何とも珍しい円形の床にリリアンは寝ていたようだ。――布団も敷かず。



『ほほ。ほほ。今代の娘は元気なことよの』


鈴の鳴るような可愛らしい声。リリアンは声の方を見た。

向いたものの、眩しい。眩しくて、目を細めても認識出来なかった。


「女神、様?」

リリアンは頭に浮かんだことを、そのまま呟いた。


見えないが、微笑まれた気がした。


「ここは、どこでしょう?私は死んだの?元の世界へ帰る?」

起きたばかりで思考がはっきりしない。次々に質問してしまう。


『死んではいない。元の世界には戻らない。あれは、前の世界じゃ。戻るものではない』


女神はゆっくりと、最初の質問以外を答えてくれた。


「では、先ほどの世界には戻れるのですよね?」

リリアンは泣きそうになってしまった。嫌だ。もう会えないなんて。


『戻れる。そなたは力を使いすぎてしまった。しばし休まねばならぬ』


「どのくらいですか?3日くらい?1週間?」


『もっと。もっとじゃ』

女神はリリアンを寝かそうとしているのか、声を聞くだけで目がトロンとなる。


「ま、待って。まだ聞きたいことが」

リリアンは懸命に重いまぶたを開き続けた。


女神は優しく言う。

『何でも。聞かれたら答えねばならぬ』


「私、私は女神様になるのですか?」

働かない頭で、とても恥ずかしい質問をした。


『ほほ。ならぬ。妾は妾のみ』


「でも、さっき娘って」

『この世界の娘は、みな妾の娘。妾になるなど、傲慢なことじゃ』


自分が言い始めたことではない。と、言いたかったのだが、そこでプツリと意識が切れた。眠ってしまったのだろう。

女神に成り代わろうとする、残念な娘になったまま、女神との邂逅は終わってしまった。







ーーーーーーーーーーーーー


「いや、私が傲慢なわけでは·····」

訂正したい気持ちが強すぎて、しゃべりながら目が覚めた。


目がうっすらと開き、女神の空間ではないことに少しがっかりしたが、見慣れた公爵邸の自室であることが分かり、リリアンは心底ホッとした。

薄く開けた目が思ったより開かず、また閉じる。


(まだ身体がダルいな。あれからどのくらい経ったんだろう)



「――お嬢様?」

持っていた花瓶を盛大に落として、カーラが叫んだ。


「お嬢様!目覚められたのですね!すぐに、誰か呼んで参ります!」


(カーラ、そんなに慌てなくても)

喋ったつもりが、喉がカラカラで言葉が出ない。起き上がろうにも力が出なかった。

身体に感じる違和感と向き合おうとしていると、廊下を走ってカーラが戻って来た。

ロヴェルを連れて。


「リリアン」


目を頑張って開けると、さっきよりしっかり見えた。ロヴェルが心配そうに覗き込んだ。

「リリアン。俺だ。分かるか?」


(そんな何ヶ月も会わなかった訳でもあるまいし)


リリアンは軽口をたたこうとロヴェルを見た。途端に違和感がはっきりした。


「な、なんか大きい?」

ロヴェルは先日見た姿より、スラリと伸びている。

リリアンは青ざめた。

ロヴェルが身体を起こすのを手伝ってくれて、カーラが姿見をガラガラと運んできた。


鏡に映る自分の姿に呆然とした。背は10センチほど伸びただろうか?肩より少し長かった薄紫の髪が、腰まで広がっている。

「ど、どのくらい経ったの」

恐る恐る聞いた。


「4年だ」

ロヴェルはすぐさま答えた。





「4ね······」

絶句だ。女神さま、4年は休ませ過ぎです。休ませ過ぎて逆に身体が動かしにくい。


リリアンはパタリとベッドに戻った。


「大丈夫か?すぐに常駐している治癒師が来る」

ロヴェルの声が弱々しい。心底心配している。それもそうだ。4年も寝ていたのなら。


リリアンはなるべく明るく言った。

「大丈夫よ。長く寝ていたから身体が硬直してて動かしにくいだけ」


目を閉じて、少し集中してみる。筋肉の固まった部分をほぐし、動かしやすくする。

リリアンの身体の周りに、少し金色の粒が舞った。


ロヴェルとカーラは、心配そうに見ている。

リリアンは2人をちらりと見て、にっこり笑ってみせた。

「よし。こんなもんかな」

腕に力を入れ、上半身を起こす。手をにぎにぎし、腕を少し回す。体力は治癒では戻せないから、時間をかけて取り戻さなければ。


「ちょっと歩いてみる」

リリアンは言うとすぐに、ベッドから降りた。


「待て、無理するな」

ロヴェルが慌てて支える。元々身長差があったものの、更に差が生まれてしまったようだ。ふらついたリリアンはロヴェルの腕の中にすっぽり収まった。


急に別の男の人になってしまったようで、リリアンは慌てて離れた。

「カ、カーラ」

力なくカーラを呼び、カーラの手を掴む。



ロヴェルはリリアンが抜けた腕のまま、固まってポカンとしている。

恥ずかしさでそちらから目を背け、カーラの足を見た。何故メイド服を着ているのか分からないが、スカートからスラリと伸びた綺麗な2本の足を見て、リリアンは恥ずかしさを忘れて嬉しくなった。


「カーラ。良かった。足は治ったのね」

「はい。お嬢様、遅くなりましたが、ありがとうございました。私の足を治してくださり、里のみんなも治癒術で救けてくれました」


カーラはリリアンの手を恭しく持ち、感謝の意を込めてお辞儀をしてくれた。


感覚で治せたと思っていたものの、いざ見てみると心底嬉しい。


「カーラ。里のみんなは私じゃないわ。あなたの治癒の後、私はすぐ倒れたのでしょう?」




「私が説明するよ。リリアン、とりあえず座ろう」

ロヴェルがそう言うと、リリアンの周りにふわりと風が生まれた。

強くはない風なのに、魔力を孕んでいるからかリリアンの身体は風に乗って宙に浮く。

「わっ」


風に乗ったまま、ロヴェルが引いた椅子にふわりと座った。


リリアンは驚いてロヴェルを見た。

「ずいぶん魔術の腕をあげたのね」


ロヴェルはニヤリと笑った。

「そうだ。4年前はここまで精密に出来なかった」


満足気に言うロヴェルが、少し幼く見えてリリアンはホッとした。思わず微笑むリリアンを見て、ロヴェルも微笑んだ。優しい笑みに、またも不意を突かれたリリアンは、顔に熱が灯るのを感じて下を向いてしまった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ