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帝国一の治癒師リリアン・アナベルは 今日も仕事を選べない   作者: 織子
第一章

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33/64

32ーエルフの里⑥

「アレクシウス様、ここを開けて下さい。オロフィスです。長もそこにいらっしゃるのでしょう?」

ドアの向こう側から声がした。


アレクシウスはすぐにドアを開けず、そのまま答えた。

「オロフィスか。外はどうなっている?周りに敵はいないか?」


「襲撃は皇帝1人のようです。周りに敵はおりません。長に報告があるのです」



アレクシウスは少し思案したが、鍵を開けた。

「手短に話せ。状況が緊迫している」


ーーーーパンッ!

乾いた音が鳴り、血しぶきが飛んだ。


「アレクシウスさん!」

リリアンが駆け寄ろうとすると、アレクシウスは手で制した。


「女神の娘、ここにいたのか。ちょうどいい」

オロフィスは片手に小さな銀の銃を持っていた。隣に見慣れた人物がいる。

「カーラ!」


カーラは銃を突きつけられている。

「お嬢様!お逃げください!」


オロフィスはカーラを銃で押しながら、部屋に入った。

「アレクシウス様、何故早く決断されなかったのですか?皇帝はお怒りです」


オロフィスが冷たく言うと、アレクシウスは撃たれた肩を手で押さえ、嘲笑うように言った。

「何を決断すると言うのだ。皇帝に協力しても、ただ魔力を奪われ利用されるだけだ。協力関係にはなり得ない。そんなことも分からないのか」


「何を言うのです。皇帝とてただの人族。恐るるに足りません。我々エルフには到底敵いませぬ。数で敵わないといえど、今の皇帝は唯我独尊。今日とて1人で現れたではありませんか」


(正気じゃないわ)

リリアンはアレクシウスの撃たれた箇所を診た。

(貫通している。早く止血しなければ)


オロフィスはぎょろりとリリアンを見た。

「女神の娘」

急に声をかけられ、リリアンは後ずさった。年老いた顔に欲望が浮かんでいる。


「ふむ。お前を渡せば、皇帝は同盟を受け入れるそうだ。来なさい」


オロフィスが手を上げると、数人のエルフが入って来た。中にはハーフエルフもいた。


「我々は皇帝と手を組む。」



「お嬢様に手を出してはいけません!」

カーラは入って来たハーフエルフに言った。


「俺たちに、エルフと同じ生活は無理がある。カーラも分かるだろう?」

ハーフエルフはそう言うと、リリアンに手を伸ばす。


(バリアがうまく張れるかしら)

リリアンが魔術を唱える前に、バチンッとハーフエルフの手が弾かれた。


振り向くと、ルキウスが手をかざしている。バリアを張ってくれていた。


「やめなさいオロフィス。千年も生きた者が子供に手を出すなど、恥ずかしい」

ルキウスは静かに言った。声音に怒りが込められている。


オロフィスはため息をついてルキウスを見た。

「長には私の考えを理解していただけると思っています」


ルキウスは眉をぴくりと動かした。


黙っているルキウスに、オロフィスは恍惚と告げた。

「長。今はもう里に籠もっている時代ではありませぬ。人族と手を組むのは一時的です。数で劣るとしても、能力で圧倒しているので問題ありません。以前の様に、エルフがまた生態の頂点に立ちー········」

恍惚と話続けるオロフィスは、突然熱風と共に吹き飛んだ。


「ーーそなたこそ、いつの時代の話をしているんだ?」

眉をしかめたビビが、怒りを顕にして入って来た。


チラリとアレクシウスを見て、ますます表情が歪んだ。

「リリアン、アレクを頼むよ」


「うんっ」

慌ててリリアンはアレクシウスに駆け寄った。


「私の弟に、なんて真似をするんだ?」

ビビはゆらりとオロフィスに近づく。


オロフィスは地面にぶつけた額を押さえながら、ビビと向き合った。

「ベアトリクス。お前こそ閉鎖的な里に反発して、里を捨てたのではないのか」


「そんな訳ないだろう。私だって故郷に愛着はある。知っているか?オロフィス。そなたの様な者を、人族で何というか」


ビビは手を掲げたまま、オロフィスに近づいた。

「老害だ」

バチバチッと小さな、しかし激しい雷撃をオロフィスは受け、そのまま仰向けに倒れた。


ビビは痺れた右手を見て、呟いた。

「やはり雷撃が人体には一番効くな。皇帝がよく使うはずだ」


「ベアトリクス、結界はどうだった?」

リリアンに肩を治してもらったアレクシウスは、ビビに駆け寄る。


「結界はもう駄目だ。里を諦めよう。今ジーナシウス達にエルフ達を里から避難させている。長も早くー······」

ビビが言い終わらないうちに、外から悲鳴が聞こえはじめた。

「なんだ?」


リリアン達が慌てて外に出ると、見慣れない甲冑の騎士たちがエルフ達に襲い掛かっていた。


「皇室騎士団だ」

ビビが呟いた。


地面という地面に、無数の魔法陣が生まれている。

「転移して来たのか」


「アレクシウス、長と一緒に避難していろ。リリアン

も頼んだ」

ビビの言葉に、思わずリリアンはビビの腕を掴んだ。


「師匠!私も行きます。治癒師が必要でしょう」


ビビは首を振った。

「いや、戦場から離れた場所に治癒師は必要なんだ。治癒師が怪我をしては意味がない。怪我人を連れていくから、先に救護場を整えてくれ」


リリアンは何も言えなくなった。そのとおりだ。


「女神の娘、急げ!」

アレクシウスが言うと、リリアンも付いて行くしかなかった。


「師匠!早く来てくださいね!」

リリアンはビビに言うと、カーラの手を引きアレクシウスに付いて行った。


「どこへ避難するんですか?」

「里の者だけに反応する転移陣がいくつかある。ここからだと、私の執務場が一番近い」


リリアンは走りながら、倒れているエルフを見つけた。

「アレクシウスさん、長と先に行ってください!私はあの人も連れて行きます」


「しかし、君1人には」

「私が手伝います」

カーラがすぐにリリアンに駆け寄った。


「分かった。急ぐのだぞ」

アレクシウスは、リリアンの魔力量を考えて大丈夫だと判断したようだ。


「はい!」

勢いよく返事をし、リリアンは怪我したエルフの元へ急いだ。


倒れているエルフの女性はあきらかに重症だった。

「カーラ、この人はすぐに治癒しないと危ないわ。少し待って」


普段なら治癒の箇所を断定してヒールを唱えるが、時間が惜しい。リリアンは集中して唱えた。

「ハイ・ヒール」

かざした手のひらから、金の粉が舞い、女性の傷は立ちどころに治っていく。だが血を流しすぎているせいか、意識が戻らなかった。


(私とカーラで抱えていくしかないわ)

「カーラ····」


「ふむ。やはり凄まじい治癒力だな」

背後から聞こえた皇帝の声に、振り向く間もなく背筋が凍った。





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