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帝国一の治癒師リリアン・アナベルは 今日も仕事を選べない   作者: 織子
第一章

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30ーエルフの里④

ビビと、ロヴェルが持って来た食事を口に入れて、リリアンは久しぶりの満足感を味わった。


「エドガー卿は無事なの?」

リリアンはまず気になっていることを聞いた。


「無事だ。公爵邸に馬車ごと転移したようだ。今ごろ必死でこちらに向かっていることだろう。君のことをとても心配していたからな」


「良かった」

リリアンはホッとしてロヴェルに視線を向けた。ロヴェルは暗い顔で俯いている。

(何かあったのかしら?カインツ卿が怪我したとか?)


「ロヴェ····」

「すまない」


リリアンはロヴェルの顔を見て、静かに驚いた。ロヴェルの瞳から、涙が溢れた。

「無事で良かった。本当に·······生きた心地がしなかった」


リリアンは立ち上がり、恐る恐るロヴェルの頭を抱きしめた。リリアンより広い肩には腕が回らないが、頭なら包み込める。

「大丈夫。私は無事だよ。来てくれてありがとうロヴェル」


ロヴェルは腕を伸ばし、リリアンを抱きしめた。力が強く、思わずリリアンが呻くと、力を緩めたものの離しはしなかった。


しばらくリリアンは、ロヴェルの頭を優しく撫でた。












コンコン!タイミングを見計らったようなノックに、2人は瞬時に距離をとった。


「リリアン、失礼するよ。長が話したいようだ」

ビビはにっこり微笑って言った。


「師匠、来てくれてありがとう」

「里に戻る途中で、旧友と閣下に会ってね。まさかリリアンが里に連れて来られてるとは思わなかったよ。全く。不甲斐ない公爵様だ」

ビビが本気で嫌味を言っているようなので、リリアンは驚いた。

「ちょっと師匠。ロヴェルのせいじゃないでしょう」


「いや、いいんだ。私の力不足に他ならない」

ロヴェルは明らかに凹んでいる。


「違うってば。師匠、早く長のところへ案内してください!」

リリアンは慌てて行き先を促した。






太くて高い樹に建てられたツリーハウスを見上げて、リリアンは尻込みした。

(登るのちょっと怖いかも)

何せ今は力が出ない。

 

「掴まってろ」

「えっ」

固まったリリアンをロヴェルは抱き上げ、片手で登り始めた。


ロヴェルはまだ20歳そこそこ。身体も細い方なのに、どこにそんな力があるのか。

リリアンが驚いていると、あっという間に梯子を登りきった。

降ろされると思ったのだが、なんとロヴェルはリリアンを抱えたまま小屋に入った。


リリアンが真っ赤になり、降ろしてもらおうと身動ぎすると、ロヴェルは仕方なく近くの椅子にリリアンを降ろした。


後から登ってきたビビが、笑いを堪えながら言った。

「フッ·····。閣下、ずいぶんと素直になりましたね」


「後から後悔したくないのでね」

しれっと言うロヴェルに、リリアンは戸惑うしか出来ない。

(ロヴェルの過保護が爆発してる?)




「こほんっ」

アレクシウスの咳に、リリアンは前を向いた。

ベッドには、儚げな年老いたエルフが身体を起こして座っている。


年老いていると言っても、人族で40代くらいだ。この人は一体何年生きているのだろう。


「はじめまして。女神の娘。私はこのエルフの里の長、ルキウスと申します」

長は優しく微笑んでいる。


「ルキウス様、はじめてお目にかかります。どうぞリリアンとお呼びください」


カーナに理由を聞いてから、女神の娘と呼ばれるのは居心地が悪い。


「まずは謝罪をさせてください。アレクシウス」


呼ばれたアレクシウスはリリアンの前まで来ると、膝を折って頭を下げた。

「すまなかった。説明もせずに連れて来てしまって··········食事のことも失念していた。申し訳ない」


アレクシウスの表情を見ると、本当に申し訳ないと思っているのが伝わってくる。悪い人ではないのだろう。しかしリリアンが受けた恐怖や空腹を考えると、あっさりと許していいものか。


どうしたものかと考えていると、ビビが腕を組んで前に出た。

「全く。これだから里に引き籠もってばかりいると良くない。あと数日放置していたら、命にかかわっていたのだよ」

ビビは大げさに頭を振った。


アレクシウスの頭がますます下がった。さすがに可哀想になり、リリアンは言った。


「謝罪を受け入れます。でも、アレクシウスさん。どうして私は連れて来られたのですか?」


「大方、皇室の奴らに騙されたのだろう?アレクは世間知らずだからな」

ビビがぴしゃりと言った。


アレクシウスは頭が上がらない。


「ベアトリクスの言葉に反論が出来ぬ。アレクシウス、説明してあげなさい」

長が促すように言った。


アレクシウスは、顔をあげて口を開いた。

「我々の歴史も長い。この集落には百に満たない程のエルフが暮らしているが、半分はハーフエルフだ。食料も必要なハーフエルフ達が、森の奥深くに暮らすには限界がある。ハーフエルフ達の住処を求めている時に、皇室の使いが現れたのだ」


「里へ皇室の人が?ここへは人族は入れないはずでは?」


「招き入れたのはハーフエルフだ。入られてしまった者は仕方ない。初めは警戒していたが、外の情報を与えてくれるその者を、エルフたちは段々受け入れていった」

アレクシウスは苦々しく言った。


「初めは外の情報をくれるだけだったのだが、エルフ達の警戒が溶け始めると、違うことを言うようになった。我々のような魔力の高い種族が、森の奥に隠れるように暮らすにはもったいない。皇室に力を貸し、表舞台へ出てきてはどうかと」






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