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帝国一の治癒師リリアン・アナベルは 今日も仕事を選べない   作者: 織子


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2ー森へ



「手伝いましょうか?」



一夜あけ、朝から薪を準備していたリリアンは急に話しかけられて飛び上がった。


気配を消して背後に立たないでほしい。

完全に善意で声をかけてくれたのだろうが、ジロリと見て断った。


「結構です。まだ部屋で休んでいてください。――とくに、そちらのあなた」


リリアンは騎士と、後半は騎士の後ろに立っていた少年に言った。



昨日はよく分からなかったが、騎士の連れて来た怪我人はまだ少年だった。自分よりは年上だろうが、10代だろう。



前世が平凡な日本人だったリリアンは、転生した自身の容姿を「けっこうかわいい」と思っていた。この少年を改めて見たあと、自分を恥じた。流れる金の髪と黄金の瞳。目鼻立ちもとても美しい少年だった。



今朝、目が覚めたこの少年が冷めた瞳で「ありがとう。この恩は忘れません」とお礼を言ったのが印象的だった。



鶴の恩返しかな?と思った。



騎士の方は昨日の慌てぶりはなく、片膝を付いて丁寧にお礼を言ってくれた。


「リリアン様、主人を助けてくださりありがとうございます。邸に戻りましたら相応のお礼をお持ちいたします。」



少年の出血がひどかったため、数日は療養してもらうことになった。治癒術では失った血液は治らない。皇族と関わるのは避けたいが、回復するまでは面倒をみる。


「カインツ卿、でしたよね?少し頼みたいことがあるのですが」


リリアンが騎士の名を呼ぶと、びっくりして振り向いた。



「はい。何なりと。·······もしや、リリアン様は貴族の方でしたか?」



(あ、騎士だから敬称をつけて呼んだのだけど、そういうことを知ってるのは平民としてはおかしいのかも?)


質問には答えずにリリアンは小屋に戻った。








「カインツ卿は実力のある騎士ですよね?私と少し薬草探しをしていただきたいのです」


実力のある騎士に頼むことではないが、彼らは今は無一文。治癒費すら払ってない状態だ。断れないだろう。



「すいませんが」


リリアンの予想に反してすぐに断られた。



やっぱりそんな雑用みたいなことに付き合ってはくれないか。


しょんぼりしたリリアンにカインツは申し訳なさそうに言った。


「私はロヴェル様の護衛騎士なのです。主人から離れることは出来ません」


リリアンはハッとして納得した。


(そりゃそうか。こんな小屋に置いておくのは心配すぎるよね)


でも、ロカの葉もこの機会を逃したらいつ手に入るか······



「リリアン。わがまま言わないの」


ビビが部屋にすぅーっと入ってきた。



ビビは大魔法師だった。リリアンに基本の魔法を教えてくれた師でもある。

魔法があるので、傷む足もそんなに苦にせず生活出来ている。


リリアンはしぶしぶ頷いた。




「カイン、恩人の願いは聞かなければ」


みんなが金髪の声の主を見た。



「大丈夫、私が付いていけば解決だろう?」


何も大丈夫じゃないが、確かに彼が来てくれれば双方の望む事が出来る。



「じゃあ、ロヴェル様?がもう少し回復したら、一緒に森へ行ってくれる?」


「ロヴェルでいい。明日になれば良くなりそうだから明日にしよう」



「そんなに早く良くならないでしょ。でもありがとう」


呆れながらもお礼を言うと、ロヴェルはニヤリと笑った。






ーーーーーーーー


翌日、起きるとリリアンより早く支度をすませたロヴェルがキッチンに立っていた。

顔色も申し分ない。



(えっほんとに良くなってる?)


脅威の回復スピードにぽかんと立ちすくむ。ロヴェルはリリアンに気づくと、昨日と同じようにニヤリとした。



(これはドヤ顔なのかしら?)



①若いから。 ②皇族だから。 ③その他独自の特異体質。なのか知らないが、欲望が口から出た。


「脅威の回復力。研究させてくれないかな」


リリアンの呟きにロヴェルが身構える。そして不審そうな目でこちらを見ている。


リリアンはその姿を見て、前世の猫を思い出した。


「ふふ。何もしないよ。元気になったのなら良かった」



リリアン達は軽く食べて、森へ向かった。





小屋の裏口から少し歩くと、すぐに森の入口に入った。

小屋の周辺にはビビが張った結界がある。なので結界の外になるここから、モンスターは増えてくる。


ロカの葉は森の奥にしか生息しない。その日のうちに帰るつもりだが、一応何泊か出来る食料を持って来ている。



驚くべきは、カインツだけではなくロヴェルも剣を持ち、軽めの鎧を付けていたことだ。



「ロヴェルも剣を扱うの?」


歩きながらリリアンは言った。



「ロヴェル様はこうみえて剣の達人であらせられます。若くして剣聖と呼ばれているのですよ」


ものすごく得意気に、カインツが答えた。



(え?それもう護衛いらないのでは?)


目を丸くしてロヴェルを見ていると、恥ずかしかったのかカインツを小突きながら「だまれ」と言うのが聞こえた。



なんだ。大人びたように見えても、こういうところは年相応なんだな。


リリアンは微笑んだ。



「――待て」


急にトーンを落とした声でロヴェルが呟く。


「前方15メートル先、何かいるぞ。カイン見てこい」


カインツは頷き、様子を見に行った。



カインツの姿が見えなくなってすぐ、ロヴェルは静かに剣を構えた。


「リリアン、動くなよ」



ロヴェルは茂みからザザッと飛び出して来た獣を、一刀両断し、また構えなおした。


リリアンはポカンと見ていた。


(早すぎて何も分からなかった)



2、3匹切った所にカインツが戻ってきた。


「殿下!雪豹の群れです!」



「見ればわかる」


ロヴェルは冷めたトーンで言い放ち、4匹目を吹き飛ばした。



(カインツ卿、「殿下」って言っちゃってるじゃん······)


いまいち決まらないカインツも、剣を持つとロヴェルにも負けないくらい素早く雪豹を片付けていた。



(2人ともこんなに強いのに、どうしてあんな大怪我を負ってたのかな)


2人のあまりの強さに、危機感をなくしたリリアンは考え事までしていた。












読んでいただきありがとうございます。


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