20ー魔術講座①
公爵邸に戻って2日、リリアンは寝っぱなしだった。
久しぶりに底を尽きそうだった魔力の回復に費やしたからだ。
寝たり起きたりを繰り返して3日目、ロヴェルが部屋にやってきた。
「調子はどうだ?」
「もう大丈夫だよ。ロヴェル、怪我見せて」
ロヴェルは呆れて言った。
「まったく君は······もう怪我は治った。シュヴァルツの血筋の者は自己回復力が高いんだ。自分の回復だけ考えて········」
リリアンはロヴェルが話している途中で手を頭にかざし、魔力を込めた。
眼前に手を置かれたロヴェルは、もう黙るしかない。
「·············」
額の切り傷と、掌にあった傷を治して、リリアンは満足した。
「そういえば、何故呪文を唱える時と無詠唱の時があるんだ?」
ロヴェルが不思議そうに言う。
「あー、無詠唱は実はとっても難しいのよ。師匠が、人の目があるときは詠唱した方がいいと言うから、そうしてた」
「ふむ······」
(少し嫌味に聞こえたかしら。教会にいたころは妬まれることがたくさんあったから······)
「リリアンさえ良ければ、治癒魔法をうちの騎士団の治癒師に教えてくれないか?」
「えっ」
「リザレクションも使えると聞いた」
「でも、教会に恨まれない?」
リザレクションは特に教会が独占したがっている治癒術だ。
「教会もシュヴァルツには手が出せない。むしろ突っかって来るならば好都合だ。返り討ちにしてやる」
ロヴェルはニヤリと悪い笑みを浮かべた。冗談かな?と思ったものの、本気で言っているようだ。
(ロヴェルは好戦的なのね)
「騎士団に治癒師はいるが、本職ではない。ヒールが1日に1度か2度使える程度だ。リザレクションがいざという時にあるとありがたい」
教会に居た頃も、ヒールが1日5回使える程ならば上位の治癒師だった。そう考えてみると、1日に何度も使える魔力量を持つ自分は確かに規格外だ。
「いいよ」
領をあげて教会から守ってもらっている身の上だ。力になれることなら協力したい。
「感謝する。では1週間後に治癒師を何人か紹介しよう」
「え、明日でいいのに」
「駄目だ。もう少し休め」
スパッと言われ、またベッドに戻された。
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「閣下、呪符になっていた巾着と、以前森で襲われた刺客の衣服の切れ端ですが、織り方が同じでした。」
カインツが報告する。
リリアンとビビが以前住んでいた小屋の近くで、襲ってきた刺客。もしやと思い調べさせていた。
「そうか。出どころは?」
「神聖国です」
ー神聖国。国ではないが、教会は帝国内の自分達の領をそう呼んでいる。
「なるほど。じゃあ教会にはリリアンの場所は割れているんだな」
「そのようですね」
「まあいい。どうせやつらはシュヴァルツには入れない」
とはいえ、ヘルハウンドの件はこのままには出来ない。
「さて、どう報復したものか」
ロヴェルの金の瞳が好戦的にギラリと光る。
カインツは、口がさけても言わないが、こういう所は皇帝に似たものがあると思った。
「小さな戦でも仕掛けますか?」
「いや、今はここを離れたくない」
カインツは目を見開いた。
1年の半分以上、いやほとんど公爵邸にいないロヴェルの口から、そんな言葉を聞くことになるとは。
「········なんだ」
ジロリとロヴェルは睨む。
「ふむ。そういえば騎士団の治癒師に、リリアンが治癒術を指導してくれることになった」
「えっ!それはありがたいですね」
「だれがいいかな。候補をあげておけカイン」
「エドガー卿にも覚えてもらいましょう。あとは·······」
「··········カイン」
「はい?」
「どうせなら、帝国中に広めるか」
ニヤリと微笑ってロヴェルは言った。
「何をですか?」
「教会が独占したがっているリザレクションだ。これを機に、異を唱えようものなら名分が立つ」
カインツは少し思案して同意した。
「ちょうどいい報復かと」
そしてリリアンの第1回リザレクション講座の開催は決定した。
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「ちょっと大掛かり過ぎじゃないかしら」
公爵邸で、一番広いホールの中心に立ち、リリアンは途方にくれた。
大々的なパーティーを行うホールに、座学で使う机と椅子が並べられていく。
「私も公爵邸にお仕えして25年、このようなことは初めてでごさいます」
執事のバルトが隣で言う。
貴族用に煌びやかな机と、平民用にシンプルな机。
そう、なんと公爵邸に平民を招待することになるのだ。
治癒師であれば、身分は問わない触れを出したら、公爵領のみならず、王都の治癒師も手を挙げた。
教会からしてみれば、教会が温めている高度な魔術を安売りしているように映ることだろう。
「煽るには充分ということね」
「お嬢様、アゼリアのオーナーがドレスを持って参りました。お部屋へお戻りください」
ラナはニコニコと言った。
「え、ドレス?ドレスはいらないんじゃない?」
舞踏会ではないのだから。
「いえ!お嬢様の権威を出すために着飾ることも必要でごさいます!」
ラナはきっぱりと言った。
ーそうだろうか?アゼリアの店主からしてみれば、商品を魅せつける機会になり、ラナは私を毎日着飾せようとしてるから、2人の意見が一致しただけでは?
「わかった。行くわ」
ラナに逆らえないリリアンは、しぶしぶ部屋に戻った。




