19ー力試し
ドカッ!!!
大きな音を立ててもう1枚の扉も飛んでいった。
周りの壁が少し崩れて、ガラガラと音もする。
皇帝は驚くでもなく、面白そうに入口に視線を向けた。
「おや、何がそんなにご立腹なんだ?公爵」
崩れた砂塵から、恐ろしい形相のロヴェルが現れた。
「やぁまるで破壊神のようだね」
皇帝はロヴェルをからかって声をかけるが、ロヴェルは一切取り合わず鳥籠を目指す。
ロヴェルの怒りの矛先が自分ではないことは分かっているものの、リリアンは立ちすくんだ。
「ロヴェ、ル?」
鳥籠の前まで来ると、剣を振り降ろし鳥籠を真っ二つに切った。
鳥籠が壊れると、白い煙とともにリリアンは元の大きさに戻った。
足元がおぼつかず、ふらついた。地面に足が着くか着かないかのところで、ロヴェルにヒョイッと抱えられた。
「自分で立てるよ!」
慌てて言うも、聞き入れてもらえない。
ロヴェルは片手に剣を持ち、片手にリリアンを抱えて皇帝と対峙した。
「閣下!お嬢様!」
ロヴェルより少し遅れて入ってきた騎士団に、エドガーの姿もある。ロヴェルはエドガーにリリアンを預けて、離れるよう指示をした。
「エドガー卿、バリアを張っておけ」
「ロヴェル?どうするつもり·······」
「どうせこのまま帰してはもらえないだろうからな」
ロヴェルは剣を構えた。
「陛下、以前言っておられた力試しはまだ有効ですか?」
皇帝は玉座に足を組み、ニヤリと不気味に笑った。
「もちろんだ」
その言葉を聞くなり、ロヴェルは一気に皇帝の懐に飛び込んだ。そして力いっぱい剣で薙ぎ払った。玉座は砕けたが、皇帝はヒラリとかわし拳でロヴェルを床に叩きつける。床が砕け、ロヴェルの頭から血が噴き出した。
「―――ッ!」
リリアンは声にならない悲鳴をあげた。
「捨て身戦法なのは変わらないな」
皇帝はいつの間にか持った剣で、肩をトントンと叩きながら言った。
ロヴェルはすぐに起き上がり、斬りつける。金属音があたりに響く。
リリアンは両手を握りしめて2人の戦いを見ていた。
(誰かとめて)
あんなに強いロヴェルが、子供のようにあしらわれている。誰が見てもロヴェルが劣勢だった。
ドカァン!!
大きな音を立てて、柱が崩れた。柱に叩きつけられたロヴェルは動かない。
「ロヴェル!!」
リリアンは近くに行きたかったが、バリアに阻まれた。
皇帝は冷めた目でロヴェルを見た。
「あまり強くなっていないな。興が冷めてしまった」
そう言うと持っていた剣を投げた。
「ゴホッゴホッ」
ロヴェルは咳き込んで、なんとか身体を起こそうとしている。
「そう急ぐな公爵。今のところ、侵略する国も、教会と争うことも、止める反乱もないからな。まだ呼ぶことはない」
「ならば何故、今日呼んだのです」
ロヴェルは口に付いた血を拭った。
「ただ見ておきたかっただけだ。もう帰っていい。必要になるまで大事にするといい」
そう言うと、皇帝は奥の部屋に去っていった。
パチンッ
エドガーがバリアを解くと、リリアンはすぐにロヴェルの元へ走った。
「ロヴェル!」
ロヴェルは咳き込むたびに、少し血を吐いた。
(肋骨が折れてる)
「ヒール」
手を胸に当てて、魔力を注ぐ。
「う·······」
視界がグニャリと歪む。今日は魔力を使い過ぎた。自分を治癒する時は特に難しいので、いつも以上に魔力を使っていたのだ。
肋骨を治すと、次は頭を診てみる。この前とは違い、切れて出血している。すぐ治せそうだ。
手を頭にかざすと、ロヴェルはリリアンの手をとって治癒をやめさせた。
「骨が治ったらあとはいい」
「えっ」
「疲れているだろう。帰ろう」
「うん·······」
言ったものの、リリアンは全部治したかった。ロヴェルの顔に傷が残っているのは許しがたい。
ロヴェルは手を持ったまま、リリアンの足をじっと見た。
「怪我は?歩けるか?」
「あ、うん!もう治したから大丈夫!」
(足の怪我、どうして知ってるんだろ)
「治した······」
ロヴェルはボソリと呟いて、立ち上がった。
「エドガー卿、リリアンと馬車で待っていてくれ」
「えっロヴェルは?」
「私は少し用事を済ます」
「でも」
ロヴェルの顔が怖くなっている。何か危ない事をしそうだ。リリアンは眉間に寄ったシワだけ伸ばそうと指を当てた。
ロヴェルはびくりとしたあと、なすがまま眉間をなでられている。
「リリアン、すまない。痛かったよな」
リリアンは安心からか、自然と笑顔が出た。
「来てくれたから、いいよ」
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「ふぅ」
皇太子は自室に戻り、深くため息をついた。目を閉じると、淡い薄紫の髪色が浮かぶ。
震えながらも、凛としたカーテシーをみせた姿に、皇太子は一瞬目を奪われた。
(常に威圧を放っている皇帝に、あの子は屈しなかった)
急にドアの外が騒がしくなった。
「おまちください!」
「入られては困ります!」
使用人の静止の声と、足音は部屋の前で止まった。
バキッ
なんとなく相手を察していたので、思ったより冷静でいられた。
(この男は、ドアは壊すものだとでも思ってるのか?)
怒りに満ちた男の顔を見て、冷静ではいられなくなった。皇帝とは違い、自分にはこの男を止める力はない。
ロヴェルは皇太子に低い声で言った。
「殿下、私が貴方を生かしているのは、何故か分かりますか」
皇太子は答えることが出来ない。ギラリと光る金色の眼に、恐怖で動くことが出来なくなっていた。
ロヴェルは皇太子の腕を掴んだ。
バキッ
「ぐあッ!!」
皇太子は痛みに耐えられず呻いた。
「殿下が死ねば、継承権が私に降りてくるからです」
怒りを孕んだロヴェルの声が響く。
「そうだろうな·····」
折られた腕の痛みで、恐怖が薄らぎ声が出せた。
「次にこのようなことがあれば、命は保証出来ません」
マントを翻し、去って行くロヴェルの後ろ姿に呟いた。
「肝に銘じるよ····」
恐る恐る入ってきたメイドに、治癒師を呼ぶよう指示をした。
今回は自分のやり方が悪かった。あのような低俗な魔術師に頼んだのもいけなかった。
(もっとうまくやらないと·········)
父である皇帝にも護られず、公爵にも疎まれている。この帝国で自分が生き残るためには、もっと頭を使わなければ。
皇太子は痛む腕を押さえながら項垂れた。




